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日乃本 義に手を出すな
拾弐
しおりを挟むヒツジが、眼鏡の奥の小さな瞳を丸くした。
先程気づいたが、彼の輪郭が眼鏡のレンズによって大きく内側に抉れている。強度近視というやつだ。
「……僕は、」
「実はさっき、ご令嬢方に次々と話しかけては振られ続けていたお前の姿を見ていた。
第二皇子とは脈がなさそうなご令嬢と、あわよくば…とか思ってたんじゃないか?」
「それは違う!」
突如、ヒツジが声を荒げて否定した。
「……悪い、怒らせたなら謝る」
「いや、…こちらこそ、思ったより大きい声が出ちゃって…。びっくりさせて、ごめん。
僕は…、折角こうやって同じ目的を持った人達が集まる機会があるのだから、その人達全員と話をして、どんな人達なのかを識りたかっただけなんだ。
別に彼女達と、男女の関係になりたかった訳じゃないよ」
ヒツジは、第二皇子の婚約者達について知りたかっただけと言った。もしかすると、彼は日乃本帝国に密かに反感を持っている華族からの遣いで、恋人探しというよりは敵情視察に来ていたのかもしれない。男なら、うっかり第二皇子に婚約者としてピックアップされる事もまずないだろう。
…まあ、さっきの様子を見ていた限り、彼が情報収集能力に長けているようにはとても見えなかったので、その線は薄いだろうが。
どちらにせよ、
「……変わってるな、お前」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておくよ」
なかなか、腹の底が見えない奴だ。
「余談だが、元々第二皇子が招待したかったであろう俺の妹、木綿子は村一番の美人で、気立ても良い。
生憎俺の友人の事が昔から好きで、泣いて参加を嫌がってな。代わりに来たのがこの俺、ってわけだ。
第二皇子もお前も、残念だったな」
ヒツジもきっと、自分ではなく木綿子と話したかったに違いない、そう思って柾彦は問いかけてみたが、
「そんな事ない」
ヒツジの答えは、意外なものだった。
「木綿子さんが来なかったからこそ、僕は柾彦に会えたんだ。
柾彦…本当に、ありがとう。僕に声を掛けてくれて。ここに今居てくれているのが君で良かったと、本気で思っている。
今日限りの関係で、終わらせたくない」
出会ってまだ間もない自分の事をヒツジがここまで思ってくれている事に柾彦は驚いたが、柾彦も、ヒツジとの関係が今日限りなのは心惜しいと感じていた。
「俺も今日、ヒツジに会えて良かった。
お前と知り合えただけでも、今日木綿子の代わりに来て良かったよ…って、あーっ‼︎」
「どうしたの?柾彦」
「…木綿子の話してて思い出したんだけど、俺…東喬大神宮?だかの恋愛成就のお守り買ってこいってあいつに頼まれてたんだった…。
神社って普通、何時までやってる?東喬大神宮じゃなくても、似たようなご利益があって、出来ればペアのお守りを階川駅周辺で買える処があると良いんだけど」
柾彦が頭を悩ませていると、ヒツジが閃いたように言った。
「それなら今日、うちに泊まっていくといいよ。
明日は休日だし、僕の実家から東喬大神宮までも近いから、一緒に買いに行こう。
君の御両親にも僕が連絡するよ。明日は何か、予定があるかい?」
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