10 / 35
日乃本 義に手を出すな
捌
しおりを挟む
まさか自分以外にも、男の参加者が居たとは。
遠目ではっきりとした姿はわからないが、前髪が長く、眼鏡を掛けていると思われる彼は、どことなく弱そうで、垢抜けない雰囲気を感じさせた。
彼は先程の巻き髪の令嬢を諦めたのか、今度はハーフアップの令嬢に話し掛けに行った。
(なんだあいつ、あわよくば皇子のおこぼれに与ろうとでも思ってるのか)
その発想はなかったと、柾彦は料理に舌鼓を打ちながら、暫く彼の様子を遠目から観察する事にした。
今しがた話しかけられたハーフアップの令嬢は、彼に相槌を返すでも、拒否をするでもなく、まるで何も聞こえていないと言わんばかりに無視を決め込んでいる。見方によっては、先程よりも酷い扱いかもしれない。
その後も彼はめげずに、何人もの令嬢に話し掛けていたが、令嬢達には飲み物を取りに行く振りをして躱されたり、戸惑いながら一礼をされて逃げられたりと散々だった。彼女達は皆、皇子の婚約者として選ばれる為にこの場に集まっているのだから、至極当然の結果だろう。
しかし、ここまでけんもほろろだと、流石に少し可哀想になってきた。
柾彦は、まるで彼の保護者にでもなったような気分で様子を見守っていると、急激に腹が痛くなってきた。
あれだ。
普段は食べる機会のない、脂身の多い高級な肉を一度にたくさん摂取したせいで、腸がびっくりしてしまったのだ。
柾彦は慌てて洗面所に向かい、腹痛が治まるまでじっと便座に腰を据え続けた。
「はぁ……もう今日は肉、食べられないかもな」
独り言を言いながら柾彦がトイレの個室から出ると、令嬢達に振られ続きの、例の彼が手を洗っていた。
柾彦も隣に立ち、手を洗う。
彼を横目で見ると、長い前髪とやけにテンプルの太い眼鏡のせいで表情は判らないが、鼻から顎にかけてのラインは綺麗だ。細身のネイビーブルーのスーツは、彼のサイズぴったりに仕立てられている事がわかる上質な代物で、左手にある腕時計は、控えめなデザインながら、機械式の有名ブランドのものだ。彼の身なりからは、明らかに上層階級の御子息である事が窺えた。
背が高く、スタイルも悪くはない。柾彦は彼を、余計なお世話ながら磨けば光るタイプのように感じた。
彼は刺繍付きのハンカチをポケットから取り出すと、それを広げて無言で手を拭き始めた。
「……あのさ、」
話し掛けたのは、柾彦の方だった。
遠目ではっきりとした姿はわからないが、前髪が長く、眼鏡を掛けていると思われる彼は、どことなく弱そうで、垢抜けない雰囲気を感じさせた。
彼は先程の巻き髪の令嬢を諦めたのか、今度はハーフアップの令嬢に話し掛けに行った。
(なんだあいつ、あわよくば皇子のおこぼれに与ろうとでも思ってるのか)
その発想はなかったと、柾彦は料理に舌鼓を打ちながら、暫く彼の様子を遠目から観察する事にした。
今しがた話しかけられたハーフアップの令嬢は、彼に相槌を返すでも、拒否をするでもなく、まるで何も聞こえていないと言わんばかりに無視を決め込んでいる。見方によっては、先程よりも酷い扱いかもしれない。
その後も彼はめげずに、何人もの令嬢に話し掛けていたが、令嬢達には飲み物を取りに行く振りをして躱されたり、戸惑いながら一礼をされて逃げられたりと散々だった。彼女達は皆、皇子の婚約者として選ばれる為にこの場に集まっているのだから、至極当然の結果だろう。
しかし、ここまでけんもほろろだと、流石に少し可哀想になってきた。
柾彦は、まるで彼の保護者にでもなったような気分で様子を見守っていると、急激に腹が痛くなってきた。
あれだ。
普段は食べる機会のない、脂身の多い高級な肉を一度にたくさん摂取したせいで、腸がびっくりしてしまったのだ。
柾彦は慌てて洗面所に向かい、腹痛が治まるまでじっと便座に腰を据え続けた。
「はぁ……もう今日は肉、食べられないかもな」
独り言を言いながら柾彦がトイレの個室から出ると、令嬢達に振られ続きの、例の彼が手を洗っていた。
柾彦も隣に立ち、手を洗う。
彼を横目で見ると、長い前髪とやけにテンプルの太い眼鏡のせいで表情は判らないが、鼻から顎にかけてのラインは綺麗だ。細身のネイビーブルーのスーツは、彼のサイズぴったりに仕立てられている事がわかる上質な代物で、左手にある腕時計は、控えめなデザインながら、機械式の有名ブランドのものだ。彼の身なりからは、明らかに上層階級の御子息である事が窺えた。
背が高く、スタイルも悪くはない。柾彦は彼を、余計なお世話ながら磨けば光るタイプのように感じた。
彼は刺繍付きのハンカチをポケットから取り出すと、それを広げて無言で手を拭き始めた。
「……あのさ、」
話し掛けたのは、柾彦の方だった。
74
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説

罰ゲームで告白したら、一生添い遂げることになった話
雷尾
BL
タイトルの通りです。
高校生たちの罰ゲーム告白から始まるお話。
受け:藤岡 賢治(ふじおかけんじ)野球部員。結構ガタイが良い
攻め:東 海斗(あずまかいと)校内一の引くほどの美形
推し変なんて絶対しない!
toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。
それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。
太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。
➤➤➤
読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。
推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)






僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
大晦日あたりに出そうと思ったお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる