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日乃本 義に手を出すな
陸
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暫くすると、天井のシャンデリアがゆっくりと減光し、眠気を催すような明るさに変わった。
反対に、今まで薄暗かった壇上の照明が点き、決戦の刻を察知した令嬢達が、先程まで発していた楽しげな声をぴたりと止めた。
――いよいよか。
静まり返った会場内に、コツ、コツ、と革靴の音が響くと、一人の司会者らしき男がマイクを持って現れた。黒いスーツに身を包んだ、意外とスタイルの良い男性だ。
「皆様、本日はご多用の中お集まり頂きまして、有り難うございます。
皆様には日乃本帝国が第二皇子、日乃本 義様のご婚約者さま候補として、これから義様と直接お会いして頂きます。
義様は、ここにいらっしゃいます皆様一人一人と楽しくお話ししました上で、最終的にご婚約者さまを決めたいとのご意向でございます。
短い時間ではございますが、皆様には…」
司会の長い話が続く。
この場に集まった令嬢達は、さすが第二皇子の婚約者候補に選ばれただけあって、身一つ動かさずに耳を傾けている者ばかりだ。テーブルに肘をつき、ビュッフェの料理を眺めているのは柾彦くらいだろう。
柾彦は司会の話を聞き流しながら、どの料理から食べようかと考えていた。すると、以前家族でバイキングに行った時に聞かされた、ドケチな母親のしょうもない忠告が急に浮かんできた。
『いい?柾ちゃん。
あなた、フライドポテトや唐揚げが大好きだけど、バイキングであいつらを食べるのは御法度よ。なんたって原価が安いし、味だってだいたい想像がつくでしょ。
海鮮や牛肉、果物みたいに原価の高いものをたくさん食べて、なるべく元を取るのよ!』
(うるせぇよ、おふくろ。バイキングは好きなもんを好きなように食べるのが正解だ。今日も俺はフライドポテトと唐揚げを食う)
脳内の母親に悪態をつくと、フライドポテトと唐揚げが無性に食べたくなってきた。しかし、目視した限りお目当てのものは見つからない。
テーブルに並んでいるのは、味の想像もつかないような、見た事のない料理ばかりだ。例えばあの、小さなカクテルグラスに入っている黒いイクラみたいなやつ…あれは何の卵?いや、種?だろうか。
眉間に皺を寄せながら、黒いイクラの正体について様々な仮説を立てていると、令嬢達の感嘆の溜め息と共に、会場内の温度がぐん、と上がるような感覚が柾彦を襲った。
柾彦が壇上に視線を戻すと、コバルトブルーカラーのスリーピースを着こなし、微笑みを浮かべる第二皇子――日乃本 義の姿があった。
反対に、今まで薄暗かった壇上の照明が点き、決戦の刻を察知した令嬢達が、先程まで発していた楽しげな声をぴたりと止めた。
――いよいよか。
静まり返った会場内に、コツ、コツ、と革靴の音が響くと、一人の司会者らしき男がマイクを持って現れた。黒いスーツに身を包んだ、意外とスタイルの良い男性だ。
「皆様、本日はご多用の中お集まり頂きまして、有り難うございます。
皆様には日乃本帝国が第二皇子、日乃本 義様のご婚約者さま候補として、これから義様と直接お会いして頂きます。
義様は、ここにいらっしゃいます皆様一人一人と楽しくお話ししました上で、最終的にご婚約者さまを決めたいとのご意向でございます。
短い時間ではございますが、皆様には…」
司会の長い話が続く。
この場に集まった令嬢達は、さすが第二皇子の婚約者候補に選ばれただけあって、身一つ動かさずに耳を傾けている者ばかりだ。テーブルに肘をつき、ビュッフェの料理を眺めているのは柾彦くらいだろう。
柾彦は司会の話を聞き流しながら、どの料理から食べようかと考えていた。すると、以前家族でバイキングに行った時に聞かされた、ドケチな母親のしょうもない忠告が急に浮かんできた。
『いい?柾ちゃん。
あなた、フライドポテトや唐揚げが大好きだけど、バイキングであいつらを食べるのは御法度よ。なんたって原価が安いし、味だってだいたい想像がつくでしょ。
海鮮や牛肉、果物みたいに原価の高いものをたくさん食べて、なるべく元を取るのよ!』
(うるせぇよ、おふくろ。バイキングは好きなもんを好きなように食べるのが正解だ。今日も俺はフライドポテトと唐揚げを食う)
脳内の母親に悪態をつくと、フライドポテトと唐揚げが無性に食べたくなってきた。しかし、目視した限りお目当てのものは見つからない。
テーブルに並んでいるのは、味の想像もつかないような、見た事のない料理ばかりだ。例えばあの、小さなカクテルグラスに入っている黒いイクラみたいなやつ…あれは何の卵?いや、種?だろうか。
眉間に皺を寄せながら、黒いイクラの正体について様々な仮説を立てていると、令嬢達の感嘆の溜め息と共に、会場内の温度がぐん、と上がるような感覚が柾彦を襲った。
柾彦が壇上に視線を戻すと、コバルトブルーカラーのスリーピースを着こなし、微笑みを浮かべる第二皇子――日乃本 義の姿があった。
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