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日乃本 義に手を出すな
弐
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手紙は、竹彦宛に届いたものだった。
日乃本義様 御婚約者様選定会 開催のお知らせと題されたそれの内容を掻い摘むと、恭しい時候の挨拶の後に、第二皇子の婚約者を選ぶパーティーを開くから、顔写真付きの本人確認書類と手紙に同封されている通し番号付きの招待状を子供に持たせて、そこに記されている指定の日時に指定の場所に来い、と云うものだった。
悪質なドッキリの可能性も考えたが、特殊な透かし加工が施された便箋と、光の加減によって色味が変わる日の丸印の封蝋が、日乃本家からの真正な書簡であることを証明していた。
「…で、この手紙は今日届いたものなのか?親父」
竹彦を問い詰めると、
「…えっと、一ヶ月くらい前には…」
「親父!!」
柾彦は大声で、竹彦を糾弾した。
何を隠そう、招待状に記されていた指定の日付は、まさかの明日なのだ。
「どうして今まで木綿子に何も報せなかったんだよ…そりゃあ、怒るだろ」
柾彦の隣でうんうんと、木綿子が大袈裟に首を縦に振った。
「私も木綿子が長谷川君を小さい頃から好きなのを知っていたからね…いずれにせよ悲しむのなら、その期間が短い方がいいと思って」
「とか言って、ずっと仕舞い込んでいて忘れてたんだろ?今日母さんが父さんの書斎を整理していて、偶々見つけてくれたから良かったものの…、父さん、ひどく慌ててたじゃないか」
呆れたように桐彦が言うと、竹彦はあからさまに動揺し、その様子を見ていた木綿子が「お父さま、最低…!」と言って再び泣き出してしまった。
眼前の修羅場にうんざりしながら、柾彦は招待状の内容にも目を通した。
時間は午後五時から、場所は階川迎賓館……階川って、あの東喬の一つ前の、新幹線が停まる駅か…?
迎賓館の簡単な地図の下には、参加にあたっての注意事項が、事細かに記されていた。
参加資格および参加者は、十五歳から十九歳までの健康な子女、一名…対象者が複数がいた場合は、いずれか一人しか参加できないという事か。これさえなければ参加資格を満たしていながらも溢れてしまった、どこぞの令嬢に高値で売りつけてやれたかもな、と柾彦は右上部に印字された通し番号を睨みつけた。
会に参加した時点で、婚約に同意したものと見做し、選定された際の拒否権は一切ない…成程、木綿子が泣いて嫌がる訳だ。
逆に正当な理由なく不参加の場合、家長への給付金を一号俸減俸とする――父が言っていた、悪い影響とはこの事か。
参加者には、各都道府県ごとに御車代として一律の金額を支給、別紙参照。別紙には、柊家のある茨樹県は、五萬円と記載があった。距離を考えると、かなりの椀飯振舞いだ。
更に、婚約者に選定された者には別途支度金というのが支給されるらしいが……まあ、柊家には関係のない話だ。
「…どうしても行けと仰るなら、わたくし、この家を出て行きます!!」
涙でぐしゃぐしゃの木綿子が、机をバン、と叩いた。
その衝撃音に驚いた柾彦は、持っていた招待状をポロッと落とした。
慌てて拾い上げた時に偶然目に入ったある二文字に、柾彦はこの事態を丸く収める活路を見出した。
「…木綿子、待て。見つけたぞ……お前が参加しなくても済む方法を」
日乃本義様 御婚約者様選定会 開催のお知らせと題されたそれの内容を掻い摘むと、恭しい時候の挨拶の後に、第二皇子の婚約者を選ぶパーティーを開くから、顔写真付きの本人確認書類と手紙に同封されている通し番号付きの招待状を子供に持たせて、そこに記されている指定の日時に指定の場所に来い、と云うものだった。
悪質なドッキリの可能性も考えたが、特殊な透かし加工が施された便箋と、光の加減によって色味が変わる日の丸印の封蝋が、日乃本家からの真正な書簡であることを証明していた。
「…で、この手紙は今日届いたものなのか?親父」
竹彦を問い詰めると、
「…えっと、一ヶ月くらい前には…」
「親父!!」
柾彦は大声で、竹彦を糾弾した。
何を隠そう、招待状に記されていた指定の日付は、まさかの明日なのだ。
「どうして今まで木綿子に何も報せなかったんだよ…そりゃあ、怒るだろ」
柾彦の隣でうんうんと、木綿子が大袈裟に首を縦に振った。
「私も木綿子が長谷川君を小さい頃から好きなのを知っていたからね…いずれにせよ悲しむのなら、その期間が短い方がいいと思って」
「とか言って、ずっと仕舞い込んでいて忘れてたんだろ?今日母さんが父さんの書斎を整理していて、偶々見つけてくれたから良かったものの…、父さん、ひどく慌ててたじゃないか」
呆れたように桐彦が言うと、竹彦はあからさまに動揺し、その様子を見ていた木綿子が「お父さま、最低…!」と言って再び泣き出してしまった。
眼前の修羅場にうんざりしながら、柾彦は招待状の内容にも目を通した。
時間は午後五時から、場所は階川迎賓館……階川って、あの東喬の一つ前の、新幹線が停まる駅か…?
迎賓館の簡単な地図の下には、参加にあたっての注意事項が、事細かに記されていた。
参加資格および参加者は、十五歳から十九歳までの健康な子女、一名…対象者が複数がいた場合は、いずれか一人しか参加できないという事か。これさえなければ参加資格を満たしていながらも溢れてしまった、どこぞの令嬢に高値で売りつけてやれたかもな、と柾彦は右上部に印字された通し番号を睨みつけた。
会に参加した時点で、婚約に同意したものと見做し、選定された際の拒否権は一切ない…成程、木綿子が泣いて嫌がる訳だ。
逆に正当な理由なく不参加の場合、家長への給付金を一号俸減俸とする――父が言っていた、悪い影響とはこの事か。
参加者には、各都道府県ごとに御車代として一律の金額を支給、別紙参照。別紙には、柊家のある茨樹県は、五萬円と記載があった。距離を考えると、かなりの椀飯振舞いだ。
更に、婚約者に選定された者には別途支度金というのが支給されるらしいが……まあ、柊家には関係のない話だ。
「…どうしても行けと仰るなら、わたくし、この家を出て行きます!!」
涙でぐしゃぐしゃの木綿子が、机をバン、と叩いた。
その衝撃音に驚いた柾彦は、持っていた招待状をポロッと落とした。
慌てて拾い上げた時に偶然目に入ったある二文字に、柾彦はこの事態を丸く収める活路を見出した。
「…木綿子、待て。見つけたぞ……お前が参加しなくても済む方法を」
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