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第一章
ラプンツェルの思惑
しおりを挟むいつものようにラプンツェルは、モーガンに鞭打ちをされたあと、鞭打ちの際、床に飛び散った自分の血を雑巾で拭いていた。
塔の外はザァーザァーと雨が降っている。
雷も度々鳴り響く。
天気が悪いせいか、今日のモーガン様はとても機嫌が悪かった。
今もイライライライラして、枕を壁に投げつけている。
「おい、雑種!」
モーガンがラプンツェルを怒鳴りつける
「はい、モーガン様。」
私は、淡々とモーガン様に返事をした。
まだ、ラプンツェルのことをいたぶり足りないのだろうか。
モーガンはラプンツェルをじろりと睨んだ。
モーガンは氷のように冷たい目をしていた。
モーガン様は私に向けて勢いよく手を振り上げた。
⸺⸺殴られる!⸺⸺
ラプンツェルは、咄嗟にギュッと目を閉じ、痛みを待った。
?
なぜか、いつまでたってもいつものような激痛がラプンツェルの身体に走ることはなかった。
ラプンツェルは不思議に思い、ゆっくりと目を開いた。
⸺⸺⸺⸺⸺何故かモーガン様は、白目をむき、泡を吹いて仰向けに倒れていた。
「モーガン様!」
「モーガン様!モーガン様!」
「モーガン様!モーガン様!モーガン様!モーガン様!モーガン様!モーガン様!」
「モーガン様!」
ラプンツェルは必死にモーガンに呼びかける。
モーガンはピクリとも動かない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、、、
もし、このまま、モーガン様が起きなかったら?
私は、私はこの高い塔の中で一人になってしまう!
私は別にこの塔の中に居たくているわけではない。
…………………………………………………………………………………………
5歳の頃、私はこの塔につれて来られた。
この塔に連れてこられた理由はわかっている。
モーガン様が欲していた花を私が飲み込んでしまったからだ。
なぜ、あのとき私はあの花を飲み込んでしまったのだろう?
今となっては、全くあのときの気持ちを思い出せない。
思い出したくもない。
あの花を飲み込んだおかげで、髪の色が変わった。
目の色も変わり、髪は切っても切っても伸び続けるようになった。
⸺⸺⸺⸺ まるで魔物だ。
まず、あの頃の私は自分の姿を見て、目の前のモーガン様より、自分の家族に今の自分がどう映るか、今のラプンツェルを家族が受け入れてくれるかどうかを心配した。
しかし、その心配をする必要はもう無くなった。
モーガン様に攫われ、塔の上に閉じ込められたからである。
あのとき、モーガン様が言った言葉を、私は今でも鮮明に思い出せる。
『っつ!!このガキ、太陽魔花を吸収しやがった!!私にはその花が必要だったのにっ!!私にはその花しかなかったのにっ!!くそ!!』
『⸺⸺⸺⸺お前のその髪にその目、、、まるで太陽魔花そのものだな。』
『、、、決めた。私はお前を連れて帰る。お前のことをは、私が一生をかけて守ろう。』
『⸺⸺逃げ出そうなど考えるでないぞ?まあ、そうそう逃げられないだろうが。』
モーガン様は苦しそうに表情をゆがませてそう私に言った。
ラプンツェルは自分が恐ろしいことを言われていると理解はしていた。
だが、私にはモーガン様の言葉が熱烈な愛の言葉に聞こえた。
モーガン様は魔女だ。
髪は緑色だし、まつげは水色、瞳は紫、目の下には赤い模様がついていて、とても不気味だったし、恐ろしかった。
だけど、だけどその時のモーガン様はとっても必死で、一瞬だけ、気の迷いかもしれないけど、、、、美しく見えたのだ。
その後、私はモーガン様に首根っこつかまれ、箒の後ろに乗り、高い高い塔の中に閉じ込められた。
モーガン様は私、ラプンツェルを一生をかけて守ると言っていた。
モーガン様は私が飲み込んでしまった花、太陽魔花をとても重要視していた。
だからだろうか、ラプンツェルが塔の上に連れ去らわれているとき、私はモーガン様に大切にされるのだろうと勝手に思っていた。
だが、幻想と現実は違う。
ラプンツェルは、毎日モーガン様に虐待され続けた。
目があえば鞭で打たれ、モーガン様の視界に入ればののしられ、話しかければ蹴られた。
毎日、毎日毎日毎日毎日、、、、、、、
苦しくて、痛くて、辛くて、、、
それでも、私はモーガン様に気に入られるために努力した。
努力し続けた。
床を箒で掃き、部屋を綺麗にしようとしたが、箒を奪われ『触るな穢れる』と言われた。
調理部屋へ行き、モーガン様に食べてもらおうとおかゆを作ったが、『要らぬ。食材を無駄にするな』と殴られた。
努力してもモーガン様は何ひとつ受け取ってはくれなかった。
ラプンツェルがこの塔にさらわれてからもう五年がたつ。
今でもモーガン様は私を嫌悪する。
毎日毎日毎日鞭で打たれる。
それがラプンツェルの日常であり、普通になっていた。
そして私はいつしかモーガン様に気に入られることをあきらめ始めた。
今となっては、モーガン様は自分のことを傷つけ続ける化け物だと思っている。
………………………………………………………………………………………………
そのため、ラプンツェルは今さらモーガンが死んだところでなんとも思わないのだが、、、、
「どうか、どうか、死ぬなら私にかけられた呪いを解いてから安らかになってくださあぁぁいぃ!!!!」
そう、ラプンツェルはモーガンに一生塔の外に出られないという強力な呪いをかけられていたのだ!
ラプンツェルはモーガン様の名を連呼し続けた。
、、、、、、、、約十分後
「あ、、、」
モーガン様が目を覚ました。
私はホッとして涙が出てきた。
モーガン様はうつろ気に私を見る。
そして、一瞬フッと目じりを緩ませた。
「きれい・・・」
「・・・・・は?」
今、モーガン様は私を見てきれい・・・といった?
いや、まさかな・・・
モーガン様はすぐに眠りについてしまった。
呼吸が安定しているため、死にはしないだろう。
私は安心した。
心に少し引っ掛かりを残しながら。
、、、、、、、、、1時間後、モーガン様は再び目を覚ました。
が、モーガン様の様子が少し、いや、かなり変だった。
目を覚まして早々、私の方を見るなり、首をかしげてこう言ったのだ。
「はて、ここはどこだ?おまえは誰だ?」
モーガン様のその言葉を聞くなり私は莫大な衝撃を受け、目から涙が流れた。
モーガン様はラプンツェルのことを忘れてしまわれた?!
まさか、太陽魔花のことすら忘れて、、、、いや、それはさすがにないか、、、
それでも、私、ラプンツェルが太陽魔花を食べてしまったことは忘れてしまったのかもしれない。
モーガン様は必要、不要ではっきりと区別をつける方だ。
彼女が必要だと感じたものは絶対に手放さないし、不要だと感じたものは即刻焼却処分される。
つまり、、、もしもモーガン様が私のことを忘れてしまったとすると、、、
目を覚ます→自分の家に知らない子供がいる→不快→ラプンツェルを殺す
と、いう事態になってしまうのでは?!
「モーガン様⁈私です、ラプンツェルです!」
私はモーガン様に自分のことを思い出してもらいたくて必死になって叫んだ。
「ラプンツェルだと!?」
モーガン様はこちらをぎょっとしたように見つめた。
「はい!ラプンツェルです、モーガン様!」
私はモーガン様に自分の事を思い出してもらおうと、尚且つ敵ではないから焼却処分はやめてくれという思いで必死に肯定する。
そんなラプンツェルの姿を見て、モーガン様はぐぐぐっと、考え込んでしまわれた。
モーガン様は私の頭のてっぺんから足の先まで、じろりじろりと眺めた後、寝台から起き上がろうとした。
しかしなぜかモーガン様はピタリと動きを止め、また寝台に座りなおした。
その後、しばらく自身の髪の毛を眺め、くるくると指に絡ませて遊び始めたのだ!
ラプンツェルの前ではいつも機嫌が悪く、ラプンツェルが同じ部屋で息をしているだけで殴ったり、暴言を吐いたりするあのモーガン様が!
私がこの部屋にいることを気にした風もなく平然としている?!
ラプンツェルは何も言われないことをいいことにモーガン様をじっくり観察することにした。
モーガン様が急に自身の胸をもみだした。
そして、胸だけでは飽き足らず、自身の体の隅々までぺたぺたと触り始めたのだ。
私の目の前で。
大事なことだから二度言おう、私の目の前で、だ。
その後、モーガン様は何かを叫んで寝台から飛び降り、窓の外を眺め始めた。
その様子を見ていたラプンツェルは何とも言えない不思議な気持ちにさいなまれた。
モーガン様はいったいどうしてしまわれたのだろう。
ラプンツェルがそんなこんなでぼうっと考え込んでいると、モーガン様がクルリとこちらの方に目を向けていた。
いつもと同じように冷たい視線、しかしいつものようなラプンツェルに対するあふれんばかりの怒りが感じられないことは、逆にラプンツェルを怯えさせた。
モーガン様が淡々と私に声をかけた。
「ラプンツェル?」
私は、モーガン様が口に出した、《ラプンツェル》という響きにぞわっと自身の全身に鳥肌が立つのを感じた。
モーガン様が《私の名前》を呼ぶ。
それはあまりにも不自然なことであった。
普段、モーガン様は私を呼ぶときはいつも「雑種」、「あいつ」、「ガキ」、「カス」、「盗人」、「泣き虫」などと、まともな名を口にしないのになぜ急に?
まさか、とてつもなくお怒りとか?
私は、血の気を引いて必死になってモーガン様に謝罪する。
「申し訳ございません!」
「え」
「鞭打ち、断食、不眠、どのような罰であってもこの私は慎んでお受けいたします!」
「鞭打ち⁉」
そうして私はモーガン様に必死に謝った。
何が何だかわからないから謝った。
怖いからとにかく必死に床におでこをすり合わせて謝った。
どうにかして、自分が殺される可能性を下げたかった。
おかしなことにモーガン様にはどうかいつものように自分の事を鞭で打ってほしいと感じた。
悲しいことにこの時の私は、モーガン様が私に情けをかけてくださる可能性を一ミリも考えてはいなかった。
「、、、いつまでもお前は地面に這いつくばているつもりか?」
だから、モーガン様にそう言われたことを理解するには少し時間がかかった。
「ふんっ」
モーガン様は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
ラプンツェルは自分の口が無意識に大きく開くのを感じた。
有り得ない、あのモーガン様が、私のことを許すなど!
とはいえ、いつモーガン様の気分が変わるかわからない。
私はモーガン様にぺこりと頭を下げ、そそくさとモーガン様の部屋を出た。
きっとモーガン様はものすごくお疲れだったのだ。
このラプンツェルに何もしたくないほどに。
私は無理やり自分にそうやって納得させた。
ああ、お疲れならば、湯に浸かり、疲れを癒やしてもらわねば。
そう考え、私は風呂桶の部屋に行き、高すぎる塔の上まで繋がっている井戸から風呂桶がいっぱいになるまで何回も何回も水を汲み、薪を燃やして風呂桶いっぱいのお湯を沸かした。
ラプンツェルが湯を沸かし終えた頃にはすでにあれから3時間が経過していた。
急いでモーガン様のところへ行き、湯が沸かし終えたことを伝えなければと思ったが、モーガン様の普段の自分への仕打ちを思い出し、足が竦んで速度が遅くなる。
モーガン様の部屋の隅にたどり着いた頃、私の姿に気がついたのか、モーガン様は私に声をかけた。
「何用だ、ラプンツェル。」
モーガン様の口からふたたび出された私の名にゾクゾクと鳥肌が立つのを感じたが、グッと気持ちを抑えて自分の伝えたいことを伝えた。
「え、えと、お湯を沸かしました!お風呂になさいませんか?」
私はモーガン様が、『何勝手なことをしやがるんだ、このクズ!』や、『私は今そんな気分ではないのだ!水を無駄にしたな!お前が沸かした湯だ、お前が全て飲みやがれ!』などと言い、ラプンツェルの腹を足の先で殴りつけるのを待った。
だが、どんな罵倒も暴力もラプンツェルの身に降り掛からなかった。
不思議に思い、ラプンツェルが顔を上げると、モーガン様は無言にこちらを見つめていた。
ラプンツェルは瞬時に理解した!
モーガン様が何もおっしゃらないと言うことは、私を痛めつけないということは、私の行為がおきに召したということでは?!
モーガン様が、私のしたことを否定なさらない?!
もしかして私、モーガン様に少しは心を許され始めたのか?!
ああ、もうともかく!きっとモーガン様は早くお風呂に入りたいのだ!
私は自分の口角が徐々に上がっていくのを感じた。
「ありがたき幸せ。桶の傍に替えの衣を用意してます。ごゆっくりどうぞ!」
ラプンツェルはそう言ってそそくさとモーガン様の部屋を出た後、ラプンツェルの部屋に戻り、わらに顔を埋め、しばらく悶えた。
、、、、、約三十分後
私は風呂桶の部屋の前に来ていた。
モーガン様の入った後の残りの湯に自分が浸かるために。
もう、モーガン様はお風呂に浸かり終えただろうか。
私は息を大きく吸った後、風呂桶の部屋をノックした。
「入れ」
「は、はい!」
モーガン様から部屋への入室の許可を得たラプンツェルは恐る恐るドアを開けた。
「え」
ラプンツェルがドアを開けた先にいたのは緑色の髪の毛に水色のまつ毛をしていて、奇抜な化粧をしているいつものモーガン様ではなかった。
ドアの先にいたのは、、、
「し、白、、、」
そう、透き通るように真っ白な輝く髪に、真っ白な長いまつげ、ピンク色の形の整った唇、すっとキレイな三角形の鼻、健康的な美しい素肌、、、、、モーガン様のいつもの奇抜な化粧はすっかり取れて美しい素顔が露わになっていた。
ラプンツェルはモーガン様の《すっぴんの》あまりの美しさに、天女が現れたのかと思った
ラプンツェルは不意打ちに超絶美しい人を見たことで、目がシパシパした。
ラプンツェルはこれ程美しい女性を見るのは初めてであった。
しばらくぽーとしていると、モーガン様が自分の方をじっと見つめてきた。
、、、美しい人が、私を見ている!
私はそう思うと、自身の体温が急激に上がるのを感じた。
心臓の鼓動がとてつもない速さで鳴り響く。
「お、お湯を塔の上から捨てますね!」
ラプンツェルは今まで感じたことのない気持ちに不安を覚えながらも、いても立ってもいられなくなり、自分が使うはずだった風呂桶の湯を無心に塔の外に捨て続けた。
これ以上何も考えたくなかったのだ。
………………………………………………………………………………
モーガン様が自室に戻ってからも、私の中に目覚めたおかしな気持ちはなかなか消えてくれなかった。
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