嫌われものと爽やか君

黒猫鈴

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朝起きてキッチンに立ったら鍋に付いていたお米…お粥をみて何だか虚しい気持ちになった。

「勿体無い」
仕方ないから朝ご飯はお粥になった。
電子レンジで温めてから梅干しを乗せて食べる。
質素だがそれなりに美味しくお腹もいっぱいになった。
そのまま着替えて登校する。

気持ちは憂鬱だが、授業をサボっていい身分ではないので出来るだけ遅れずに出ている…のだが…


「っ」

息をするのを忘れてしまう。
まさか、こんなことされるとは思わなかった。

僕の机は見るも無惨な姿となり、更に上には花束が上がっている
周りは見て見ぬ振りで、たまに笑っている人もいて…

悲しくて…
虚しくて…

でも僕も制裁相手にこんなことをしたのだと考えたら、酷く…悔しくなった。

クスクス笑われる声に耐えられず僕は教室を飛び出した。



何処に行きたいとかなくて、ただ走った。
走って、この悔しい気持ちをどうにかしたかった。

そして、謝りたいと切実に思った。

あんなことをしてどんなに辛かっただろうか?
悲しかっただろうか?

僕はなんて取り返しのつかないことをしてしまったのだろうか…っ!

「っごめんなさい…!」

きっと誰も許してくれないだろうけれど…
でも…!

「ごめんなさい…!」

傷付けて…ごめんなさい…

「――――誰に謝っているんだ?」
「っ、深、文様…」

場所は校舎裏…
窓から顔を出したのは深文様だった。

「んな大声出されっと迷惑なんだよ」
「っすみ、ません…」

顔を見る限り、昨日より調子が良さそうに見えてホッとした。
隈も少し薄くなったみたいだ。

「―――で?何故謝っていた?」
「っ」

そうだ、聞かれていたのだ。
寧ろあんな大声を出して気付かないなんて可笑しいのかもしれないけれど…。

僕はぼんやり、好きな人を見つめて…
そして頭を下げた

「すみません、でした」
「はっ…どういうつもりだ?」
「大声のことと…、深文様に必要以上に詮索したこと…近付く者全てに…制裁したこと。あなたの親衛隊を汚すような行動、全てです」
「…」
「許されないこと、だと思います…制裁などただのいじめで…傷付けてきたこと…」

でも、
でも…言い訳かもしれないけれど…!

「僕は、深文様が好き…です。誰にも近付いてほしくなかった…だからってあんなことしたらいけないって…わかっていたんです!でも、近付けたくない気持ちが何より勝ってしまったのは事実で…!」

すみませんでした、ともう一度謝った。
しかし鼻を鳴らされただけだった。

「…ただの言い訳に過ぎないな。謝って何になる?」
「っ何にもならない…けれど、謝りたかったんです、間違いに気付いて…だから!」
「くだらねぇ」
「っ」

何もいえなくて唇を噛んだ。
「――大体俺が好きってなんだ?」
「深文、様?」

苦しそうに言った彼。

「お前ら親衛隊はどこまでも自分勝手だ。本当の俺を見ていないくせに好きだという。」
「そんなっ!」
「この顔か?それとも体か?身分が目当てか?…お前は何が目的なんだ?」

…どこまでも冷めている瞳。
その瞳を見つめ僕は口を開く

「僕は、…深文様が好きです、…あなたの全てが好きなんです」
「深文様の喜怒哀楽を表す顔も、そのしなやかに動かれる体も…あなたの性格を作った身分も…でも、なにより」

僕は小さく微笑んだ

「性格が好きなんです。俺様なのに生真面目で、何事にも真剣に取り組んで…諦めない…強い心が好きです。」
「…嘘くせ」

呆れたように言われるが僕は続けた

「羨ましいと常々思っていました。深文様のようになれならいいな、と。憧れが恋心に変わっていきました…。そしたら、次は心配しました。深文様は生真面目の所為か、無茶をしますから…何時も何処かで倒れていないかと心配していました…」
「っ」
「そしたら昨日無理して倒れていました。…頑張るのは素晴らしいことだと思います。僕はそんな所に惹かれましたから。でも…倒れるまで頑張るのは、嫌です…どうか、体を…大切にしてください」
「…お前は―――」
「生意気なことを言ってすみません。…でも、僕は深文様が好きでずっと見ていたから、少しのことは分かるつもりです。」
「っ」
「…制裁のことは本当にすみません、でした…僕…退学、しようと思います」

別に逃げる訳ではないけれど、でも今まで制裁でしてきたことと…最終的に退学に追いやったこと。
どうせなら同じ道を辿りたい。

なんて勝手な自己満足なんだけれど…

「今まで、本当にすみませんでした」

そう言って、踵を返した。

謝られた…
何故だか謝ったらとても、気持ちがスッキリした。

言いたいことが言えたから。

「菅原君に感謝しなきゃ…」

菅原がいなかったら今みたいにはなってなかったかもしれない。
未練たっぷりで退学していたことを考えて、やはりよかったと…安心するのだ。

とりあえず今から親に電話して退学の旨を伝えてから学園に退学届を出して…荷物も纏めなきゃ…
それから…

思考を巡らせ、ゆっくりと歩いていた…そんな時不意に後ろから抱き締められた。

「ちょっ…」

大きな体に覆い被さるように抱きしめられ慌てて払いのけようと暴れるけれど…

「――暴れるな」

耳に囁かれた掠れた声に思考が停止する

「っ深、文様?」

呼べば背後の人物がのどを鳴らし笑った。
顔だけ振り返ってみれば確かに深文様で。

何故抱き締められているのかわからず、ただぼんやりと美しく格好いい顔を眺める

「…お前が言った言葉は本当なのか?」
「え?」
「顔や体、身分目当てじゃないという…俺の本心が好きだと…」
「嘘じゃないです」

キッパリと言い放った。
だって本当のことだから。

惹かれたのは、深文様の性格…
確かに第一印象は格好いいなぁ…だったけれど、惹かれたのは…やっぱり本心だから
「…生徒会は、全く機能しない。高宮は確かに面白い奴だが、結局は俺の顔だけを見ていた…。わかってからは遅く高宮達は何もせず遊んでばかりだ。仕事をするのは俺ばかりで…正直疲れている…って何故んなことを話すかよくわらねぇが…」
「いいえ…深文様、言っていただけて嬉しいです」

強くて…でも心配になるのは誰にも弱音を言わないから。
だから僕に弱音を言ってくれたのは素直に嬉しい

「深文様はよく頑張っていますよ…お疲れ様です」
「っ」

ギュッと更に抱きしめられる力が強くなる。


「…なんだろうな…認められる、俺をわかってくれる奴がいて、こんなに嬉しいと思う」
「っ深文様…」

優しい声に体が震えた
甘い、まるで恋人へ出すような声で…

「同時に愛しいとも」
「っ」

ドクリ。
心臓が信じられない鼓動をする。
顔が赤くなる。

そんなまさか…

「っ深文様、あの、」

深文様が愛しいなんて…そんなこと…

「聞こえなかったか…、好きだと言ったんだが?」
「…え!?でも、」

信じられない。
僕は…あんなことをしてきたのに…好きだなんて…

でも同時に信じたくて…愛おしい気持ちもあって。
溢れて…

「…何度も言わせるな、お前が好きだ」

顎に手をやり上を向かされた。
そして自然と落ちてくる深文様の顔。
それをぼんやり見ながら、ゆっくり瞳を閉じた…

「っおい、待て!」

いきなり響いた怒声。
声の方を向けば菅原がいた。
何故こんな場所に?
戸惑う気持ちで菅原を見つめていれば、彼は足早に僕の元に来ると

「近い!」

深文様と引き離した。

「…菅原君、なんでここに?」

引き剥がされ、しかも菅原に抱き締められている僕は一体どうしたらいいのかわからない。

「…槻島が心配だったからだよ。俺らのクラスまで噂が来てた。槻島の机が落書きだらけで滅茶苦茶だ…って。それなのにみんな笑っていて…」
「…」

ああ聞いてしまったのか。

「それで心配になって槻島のクラス行って聞けば走って逃げ出したっていうし…心配した」

温かい体に抱きしめられ安心するのは何故か?
なんでこんなに菅原に抱き締められると心地良いんだろう?

「それに…。来る途中優雅と会ったんだ。理由言って槻島見なかったか?って聞いたらあいつ笑ってさ、俺をいじめたがら罰が当たったんだ!って言って…なんだかそれ聞いた途端冷めた…」
「菅、原君…?」
「槻島…、あのな俺…ずっとお前が嫌いだった。好きな奴の為に制裁して冷たい奴だって…」
「はは、何言ってるの?」

僕は、構わず制裁した冷たい人間なんだ…。

「違う、冷たい人間だったら、悪いことすら気付かない…。それに気付いて謝ろうとする…お前が…なんだ…その、」

言いにくそうに言葉を切って…でも、

「好きなんだ…」
「え?」
「…可愛いなって自然と思えた。…だから、」
「おい、菅原とやら、いい加減にしろよ」

苛々とした口調でこちらに歩み寄ってくる深文様。

「あ?なんですか、深文会長様?」
「俺が先に告白しただろ?見てなかったか?」
「すみません、俺目悪いんで?」
「ンだと!?」

僕を挟んで始めだした喧嘩に冷や汗が流れた。

「あ、あの!」

叫んだら、2人同時に此方を見て頭がクラクラする

「…お前はどうするんだ?」
「…槻島はどっちがいいの?」

2人に迫られ…僕は経験したことのない幸せと威圧感を感じ混乱した。

確かに僕は深文様が好きだった。
僕の憧れの人…
ずっと見ていたくて、独占したくて…
初めて本当に好きになった人だった

菅原は、…最初は興味がなかった。
でも、あの日僕を諭してくれた。
壊れた僕を抱き締めてくれた時の温かなぬくもりは今でも忘れられない。

でも、

「っ僕は、悪いことをして…」

沢山の人をいじめた犯人だ。簡単に許されることはない。
それに、

「汚い…」

いっぱい犯された体
何度もお尻に精液を吐き出された。
誰の精液かもわからないくらいグチャグチャにされた時もあった。
弄ばれたこの体は、既に汚い中古品だ

それでも、

「僕を受け入れてくれますか?」

問うたら2人は真剣に頷いてくれて…

「…っ」

嬉しくて泣きそうだった。

「…ありがとう、あの、僕は…」

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