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「…なぁ!アカリ」
そう言って私の元に走ってきたのは友人のカイン。
彼はよく私の場所に来て…愛しの彼女のノロケから相談まで…話をしていく。
「また、何があったの?」
聞くと嬉しそうな顔。
きっと彼女といいことでもあったに違いない…確信した私は誰にも分からないように自嘲した笑いを浮かべた
「あのなっ!」
悠々と話し出すカインに耳を傾けながら、
…なんでこんなことしているんだろう?
私は悲しくなって目を伏せた。
私は飛田野 明。
そもそも、私はこの世界の住人じゃない。
所謂、トリップ…というものをした。
突然あらわれた見知らぬ土地に最初は驚いたが、親切な屋敷の夫婦に拾われ、今ではこうして普通に学園まで通わせもらっている。
その学園に通ってから、ここの世界が魔法×学園ものの乙女ゲーム『凌霄花の愛』のものだと気付いた。
最初は喜んだ。
やりこんだ大好きなゲームだったから。
推しのキャラクターに会えるんだって。
特に好きなのは赤い髪が似合うカイン。一国の第三王子で、学園では役員を努め、全生徒から人気があり何時でも学年上位をキープする頭脳もある。
ただ口調が少し荒く、気分屋なカイン。
主人公は聖女と言われる程美しく、強い魔力を持った女の子。学園で初めて出会って、主人公に一目惚れ。毎日主人公を口説く様な、情熱的なキャラクターだった。
私は画面越しで何度もみた学園に登校し、まず真っ先に彼に会いに行った。
ゲーム画面では顔がなかった主人公だから、私がもしかしたら主人公じゃないかと希望を持っていた。
「っ」
校舎裏に目立つ赤色を見付け止まる。
カインがいた。
近付くにつれ…誰かと抱き合っているのだとわかり愕然とした
やっと会えた彼は既に彼女が居たのである。
多分、抱き合っているが本来の主人公だとわかった瞬間頭が真っ白になった。
実際私には勿論魔力を持たないただの人間。
トリップなんてしてきたはいいものの物語は既に終わっていた。
後日聞いた話だと、学園内では有名な話で、カインと彼女はとても固い絆で結ばれているとか…。
兎に角私が入る隙間がなかった。
最初は悲しくて何度も何度も泣いた…
でも…数ヶ月して落ち着いて…遠くから見ているだけでいい。
それだけでいい、そう思うようになっていた。
そんな時、
「なぁ、お前よく俺を見てるだろ?なぁ、俺のこと好きなの?」
「え?」
「好きなの?」
「…い、いいえ?」
「ふーん?」
よく見ていることに気付かれたらしい。
カインから話しかけられた最初はその場を切り抜けたものの何を思ったのか何度も話しかけられる内に彼から懐かれ、仕舞いには女なら彼女の気持ち分かるだろ?!とか言って無理矢理恋愛相談に乗られ…そして現状が、相談やノロケを話せる友人になってしまったのである。
すごく辛いけど…友人として話出来るのは…少し嬉しくもあった。
だから現状で満足しよう。そう考えていたんだ…
そんなある日。
「っもうあいつ知らねぇ!」
仲良しだったカインと彼女が大喧嘩した…らしい。
迷わず私のところにきたカインはドスンと音を立てるようにして私の隣に座った。
昼休み中。ベンチに座ってサンドイッチを食べていた私は中身は冷たい紅茶のマグを怒って小刻みに足を動かす彼の前に置く。
「これ飲んで落ち着いて」
カインは無言でマグを傾け冷めた紅茶一気に飲む。
それから、はぁぁと息を吐いて顔を俯した。
「で、どうしたの?」
それに顔を伏したまま彼は
「…喧嘩した」
「うん、それは知ってるよ噂になってるから」
ピシャリと言うと、そうか、と一言。
「…原因は?」
「…彼女が作ったお弁当を食べなかった…食べれなかったんだよ昨日役員の仕事が忙しくてさ……あぁぁぁ……」
途切れてしまった言葉を促すように「で?」と問い掛ければ躊躇いながら口を開く
「折角作ったのに、とか言い出して怒って…俺も忙しかったから仕方ないって言うけど聞かなくて…イライラしたから…おまえの飯はおいしくないって言ったら…」
大嫌い!て…
が溜め息。
「…俺はもう駄目だぁ!嫌われたぁあ!」
なんだそれは…。
私は呆れ、ベンチにもたれ掛かる。
「…こんな場所でそんなこと言ってないで、彼女の所にいって謝って来ればいいのに。美味しくない、なんて…本心じゃないんでしょう?」
「勿論…美味いよ」
ぼそりと呟くカイン。
私はカインが飲み干したマグを貰い両手挟む。
「…じゃあ、それを言って仲直りしたらいいじゃない」
「それが出来たら、もう解決してる…」
だってそれしか方法ないじゃない、私が言うとカインが私をジィと見つめてきた。
大好きな…顔のいいカインに見つめられ、その瞳に吸い込まれそうになって…私は慌てて目線を逸らした。
そんなに見ないでよ…。
赤くなりそうな顔をなんとか平常に保つ。
しかし次にカインが口を開いた言葉に、それはすぐに崩れることになるんだけど。
「…アカリってなんか普通に可愛いし…あーあ、お前と付き合えばよかったなぁ」
「っ」
嗚呼…なんて酷な言葉を吐くの…
「アカリとならうまくいってたのかもなぁ」
私が好きでもないのに…
「…なぁ?俺のこと好き?」
大好きだよ…愛してる…世界で一番…きっと誰よりも…。
「まぁないか…」
苦笑するカインに私は崩れた顔を隠しながら立ち上がる
「ないない!それにカインには可愛い彼女がいるじゃない」
早く仲直りしなさいよ
そう言うとカインが笑った気配がした。
ほら、やっぱり彼女のことが大好きなんだ。
…わかってる。いや、わかってた。
私はいつでも外野なんだもの。
「じゃ私することあるから行くわよ」
「ん、ありがとう」
私は顔を隠して逃げるようにその場から去った。
辛い、辛い、辛い!
苦しい、苦しい、苦しい!
足早に去りながら、崩れる顔をもう止めることなく…
ボロボロとこぼれてくる涙を止める術もなく…
ただひたすら走って、人がいない場所を目指した。
そう言って私の元に走ってきたのは友人のカイン。
彼はよく私の場所に来て…愛しの彼女のノロケから相談まで…話をしていく。
「また、何があったの?」
聞くと嬉しそうな顔。
きっと彼女といいことでもあったに違いない…確信した私は誰にも分からないように自嘲した笑いを浮かべた
「あのなっ!」
悠々と話し出すカインに耳を傾けながら、
…なんでこんなことしているんだろう?
私は悲しくなって目を伏せた。
私は飛田野 明。
そもそも、私はこの世界の住人じゃない。
所謂、トリップ…というものをした。
突然あらわれた見知らぬ土地に最初は驚いたが、親切な屋敷の夫婦に拾われ、今ではこうして普通に学園まで通わせもらっている。
その学園に通ってから、ここの世界が魔法×学園ものの乙女ゲーム『凌霄花の愛』のものだと気付いた。
最初は喜んだ。
やりこんだ大好きなゲームだったから。
推しのキャラクターに会えるんだって。
特に好きなのは赤い髪が似合うカイン。一国の第三王子で、学園では役員を努め、全生徒から人気があり何時でも学年上位をキープする頭脳もある。
ただ口調が少し荒く、気分屋なカイン。
主人公は聖女と言われる程美しく、強い魔力を持った女の子。学園で初めて出会って、主人公に一目惚れ。毎日主人公を口説く様な、情熱的なキャラクターだった。
私は画面越しで何度もみた学園に登校し、まず真っ先に彼に会いに行った。
ゲーム画面では顔がなかった主人公だから、私がもしかしたら主人公じゃないかと希望を持っていた。
「っ」
校舎裏に目立つ赤色を見付け止まる。
カインがいた。
近付くにつれ…誰かと抱き合っているのだとわかり愕然とした
やっと会えた彼は既に彼女が居たのである。
多分、抱き合っているが本来の主人公だとわかった瞬間頭が真っ白になった。
実際私には勿論魔力を持たないただの人間。
トリップなんてしてきたはいいものの物語は既に終わっていた。
後日聞いた話だと、学園内では有名な話で、カインと彼女はとても固い絆で結ばれているとか…。
兎に角私が入る隙間がなかった。
最初は悲しくて何度も何度も泣いた…
でも…数ヶ月して落ち着いて…遠くから見ているだけでいい。
それだけでいい、そう思うようになっていた。
そんな時、
「なぁ、お前よく俺を見てるだろ?なぁ、俺のこと好きなの?」
「え?」
「好きなの?」
「…い、いいえ?」
「ふーん?」
よく見ていることに気付かれたらしい。
カインから話しかけられた最初はその場を切り抜けたものの何を思ったのか何度も話しかけられる内に彼から懐かれ、仕舞いには女なら彼女の気持ち分かるだろ?!とか言って無理矢理恋愛相談に乗られ…そして現状が、相談やノロケを話せる友人になってしまったのである。
すごく辛いけど…友人として話出来るのは…少し嬉しくもあった。
だから現状で満足しよう。そう考えていたんだ…
そんなある日。
「っもうあいつ知らねぇ!」
仲良しだったカインと彼女が大喧嘩した…らしい。
迷わず私のところにきたカインはドスンと音を立てるようにして私の隣に座った。
昼休み中。ベンチに座ってサンドイッチを食べていた私は中身は冷たい紅茶のマグを怒って小刻みに足を動かす彼の前に置く。
「これ飲んで落ち着いて」
カインは無言でマグを傾け冷めた紅茶一気に飲む。
それから、はぁぁと息を吐いて顔を俯した。
「で、どうしたの?」
それに顔を伏したまま彼は
「…喧嘩した」
「うん、それは知ってるよ噂になってるから」
ピシャリと言うと、そうか、と一言。
「…原因は?」
「…彼女が作ったお弁当を食べなかった…食べれなかったんだよ昨日役員の仕事が忙しくてさ……あぁぁぁ……」
途切れてしまった言葉を促すように「で?」と問い掛ければ躊躇いながら口を開く
「折角作ったのに、とか言い出して怒って…俺も忙しかったから仕方ないって言うけど聞かなくて…イライラしたから…おまえの飯はおいしくないって言ったら…」
大嫌い!て…
が溜め息。
「…俺はもう駄目だぁ!嫌われたぁあ!」
なんだそれは…。
私は呆れ、ベンチにもたれ掛かる。
「…こんな場所でそんなこと言ってないで、彼女の所にいって謝って来ればいいのに。美味しくない、なんて…本心じゃないんでしょう?」
「勿論…美味いよ」
ぼそりと呟くカイン。
私はカインが飲み干したマグを貰い両手挟む。
「…じゃあ、それを言って仲直りしたらいいじゃない」
「それが出来たら、もう解決してる…」
だってそれしか方法ないじゃない、私が言うとカインが私をジィと見つめてきた。
大好きな…顔のいいカインに見つめられ、その瞳に吸い込まれそうになって…私は慌てて目線を逸らした。
そんなに見ないでよ…。
赤くなりそうな顔をなんとか平常に保つ。
しかし次にカインが口を開いた言葉に、それはすぐに崩れることになるんだけど。
「…アカリってなんか普通に可愛いし…あーあ、お前と付き合えばよかったなぁ」
「っ」
嗚呼…なんて酷な言葉を吐くの…
「アカリとならうまくいってたのかもなぁ」
私が好きでもないのに…
「…なぁ?俺のこと好き?」
大好きだよ…愛してる…世界で一番…きっと誰よりも…。
「まぁないか…」
苦笑するカインに私は崩れた顔を隠しながら立ち上がる
「ないない!それにカインには可愛い彼女がいるじゃない」
早く仲直りしなさいよ
そう言うとカインが笑った気配がした。
ほら、やっぱり彼女のことが大好きなんだ。
…わかってる。いや、わかってた。
私はいつでも外野なんだもの。
「じゃ私することあるから行くわよ」
「ん、ありがとう」
私は顔を隠して逃げるようにその場から去った。
辛い、辛い、辛い!
苦しい、苦しい、苦しい!
足早に去りながら、崩れる顔をもう止めることなく…
ボロボロとこぼれてくる涙を止める術もなく…
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