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狂った彼ら

カエルの笑顔

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「――っ!」

目を見開き起き上がる。
荒い息を繰り返しながら、先程見た夢を思い出しうなだれた

怖かった。
昔の、大切だったみんなから嫌われる夢を見た。
シンデレラ王子から「死刑だ」と言われ、不思議の国の住人から「裏切り者だ」と刃物を向けられた。
ヘンゼルは炎の松明をむけられ、人魚からは槍や矢を投げられた。

怖くて悲しくて、夢の中で逃げ回っていた。
でも捕まって…みんなから蔑まれた目で見られ…刃物を振り上げられ…の所で起きた。

「―――はぁ、」

あれから結構時間が経ったのに、未だに忘れられないでいた


「どうしたの?」

隣に寝ていた愛しい王子様。
寝ぼけた掠れ掛かった声を出し髪の毛をかき上げる姿は本当に格好いい。

こんな人と結婚したことが未だ信じられなくて、でもそれが事実であり嬉しくもあった。

「何でもないよ。何時もの、夢だから」
「…そうかい?」

心配そうな顔。
そんな顔をさせたくないのに。

「…ごめんね」
「何故謝るんだ?…辛いのは君なのに」
「…」

黙ったままでいる私を王子様は優しく抱き締めてくれた。

「ああ、君を虐めた奴らを殺してやりたい」

ぼそりと呟くような声を私は拾い上げることが出来ず小首を傾げる

「ん?ああ、なんでもない」
「あの、…でも、今はあなたが居てくれるから、幸せだよ」
「ああ…、…俺も幸せだ」

近付いてくる顔に自然と目を閉じる。
…こんな幸せな日々を送って、罰は当たらないかな?

そんな心配が現実になるなんて…その時全く予想出来なかった



その日は酷く穏やかな日だった
太陽は優しい光を放っていたし、風はそよぐように吹いていて、鳥たちも楽しげに歌を歌っていた
今日もきっと良いことがあるんだと思って疑わなかった…そんな時

「っ…!」
「…あ、…!」

城門が騒がしい。
王子様と顔を見合わせる

「何かあったのかな…?」
「…少し見てくるよ」
「あ…あの、私も行ってもいい?」

慌てて言ってみる。
王子様は少しだけ考えた後、苦笑いを浮かべながらも頷いてくれた。
大きな部屋から出て門までの道のりを歩く。
王子様の長い足は私の歩幅に合わせてゆっくり進んでいく
同じ様に並んでくれる
そんな些細なことが嬉しくて、王子様の袖を掴んだ。
ちらりと此方をみた王子様。
微かに口元を上げて、袖を掴んだ手を取り絡めた。



騒がしい門に近付くにつれて騒がしさも強くなってくる
渋い表情を浮かべた王子様の顔を伺った時。

「え…っ」

目を見開き足を止めてしまった
「どうした?」
心配している王子様の声がどこか遠くで聞こえる。

「っ…、ど、して」

聞こえてきた声に酷く自分は動揺していた。
聞き覚えのある…前まで愛おしさを覚えていた――大切な人の声だったから。

「出せ!今すぐ!」

シンデレラの王子様…

「私の王女様…いるのでしょう」

白兎

「なぁ、入れてくれ!魔女!」

ヘンゼル…



「っ」
以前見た夢を思い出し体が震える
それを隣で見ていた王子様が私の体を強く抱き締めてくれた。

「あれが…彼奴等が、君を傷付けた人達か?」
「…」

なんと言って良いか分からず黙っていたが、小さく首を横に振った

「…違う…みんないい人達だよ…大切な…人達。」
「だが君を殺した」
「私が勝手に傷付いて死んだだけ…叶わないことなのに願ってしまった。それが罪で、だから死んでも仕方ないんだ。…そして、それを未練がましく勝手に忘れられないだけ…」
「じゃあ彼等は…何故ここにいるんだ?」
「それは――」

…そうだ。
…なんで、彼等がいるんだろう

「君を――忘れられないのは、寧ろ彼等ではないのか?」
王子様の目がゆっくりと細められた。
細められた目線は門で騒ぐみんなに向けられる

「…じゃあきっと…憎んでいるんだ…だから、」
「憎んではいない…目が憎みに歪んでいないし、何より叫んでいる彼等は君に謝りたいようだ」

王子様の目が此方に向くのを感じ背の高い王子様を見上げる

「…どうする我が妃」
「…」
「俺は君の判断に任せるよ。ただ君を…俺の妃に危害を加えようとしたらすぐにでも追い出すけれど」
「――怖い、けれど」

抱き締められている大きな腕。
包まれているようで安心できる。

王子様…私の王子様…あなたがいてくれるなら…私はなんだって出来る気がするんだ…

「―…話してみたい、なんで来たのか」
「ああ」

王子様の優しい瞳。
少し顔を伏せた私は抱き締めてくれた大きな腕の中から抜け出して門へ一歩、また一歩と歩いていく

門がハッキリと見える場所に着いた所で

「…」
騒がしい彼等の声が不意に静かになった
「あ…」
先に声を出たのは誰だったか。

「みんな…」
見つめる先には懐かしい面々が揃っていた

「…魔、女…」
「あ…あなたは」

口を開いたのはヘンゼルだった。
綺麗な顔をした美少年。
死に際にみた見下した様な顔を思い出してしまう。
燃えた体の熱さと共に悲しい記憶が蘇り顔を歪めた。
しかし相手に失礼だと慌て笑顔を作れば、ヘンゼルが酷く悲しそうに再度昔の名前を呟き頭を下げる

「…ごめん…なさい…、謝って許されるとは思っていないけれど…魔女の家にある宝石を売れば…親に捨てられずにすむと思って…なにも悪くないあなたを殺してしまった…」
「…宝、石」

そうか、彼等は宝石が欲しかったんだ…
ただそれだけのこと
ただそれだけのことで…私は殺されたの?

「親は喜んで僕らを迎入れてくれたけれど…死んだ…悲しい顔が、潤んだ瞳が忘れられなくて…!」

喋りながら私に近付いてくるヘンゼル

「ずっと、ずっと会いたかった。謝りたくて、そして愛してると言いたかった…魔女が好きだ!」
目の前にヘンゼルがいる。
美少年の顔が近くにある。
昔は顔を赤くして恥ずかしくて仕方なかったのに…今は怖いだけだった。

「…愛している」

顔はあの時のまま。
忘れることのない、歪んだ笑みだけで。

「…っいや!」

叫んで逃げる私を捕らえた腕はシンデレラの王子様だった
格好いい…私の理想だった王子様…
シンデレラ少女を騙した罪で処刑された時。
好きだったと告げたら冷たい瞳と声で殺せと…それから記憶がないからあそこで私は死んだんだ。

「姉君…」
「っ!?」

耳の近くで囁かれ驚き息を飲み込む

「俺はお前を誤解していた。シンデレラは酷い女だった。俺は騙されていたんだ。姉よ、お前が一番美しい…俺に相応しい…殺めたことをずっと後悔していた。…好きだ。妻になってくれ。」

どうして…、なんて言葉が出そうになった
どうしてあの時に言ってくれなかったの?と。
あの時に言ってくれたのなら…私は

「…私は」

言いかけた言葉を遮るようにシンデレラ王子が更に続ける

「昔処刑前に言ったお前の告白を、俺は受け入れようと言うのだ。嬉しいだろう?…好きだとお前は泣きながら乞うてきたじゃないか、忘れてしまったのか?」
「でも、今は好きな…愛してる人がいるんです」
「っそんなこと、俺は認めないぞ!お前は俺のものだ!」

興奮したように叫ぶシンデレラ王子が怖くて一歩下がった先には白兎がいた

「…白…兎」
「女王」

赤い瞳をした白兎。
不思議の国にいる住人…女王だった私を支えてくれていた1人。
アリスに惚れて…帰してしまった私を憎んでいた

「…ごめんなさい」

愛しいアリスを帰してしまって
怒っているのだろうと…、昔の臣下に謝る

「女王、違うのです。私は…私達は間違えていた。本当はアリスなんてどうでもよかった。ただ新しい人間が珍しかっただけで…好いてなどいなかったのです!一番に国を…私達を考えてくれていた女王が大好きだったのに…愛していたのに…!」
「白兎」
「女王の声が好きです。私を呼んでくれる声が…。みんなも女王を待っています…どうか国に戻ってください」
「ごめんなさい、それは出来ないです」
「っどうして…」

悲痛な顔をされ、申し訳なくなり顔を反らした。


「…っ」

みんなの言葉に混乱してしまう。

嬉しい。
彼等は私を愛してくれている。
愛してくれていた。
でも、

「―――手、離してもらえるかな?」
「っい」

白兎が顔をしかめた途端、私は何時もの優しい腕の中にいた。
上を見上げると少し瞳を曇らせる大好きな王子様。

どうしたのかな?
心配だけれど彼の腕の中は安心出来て胸に顔をうずめるのみで留まる。

「…俺の妃は、君しかいないんだよ…他人の腕で嬉しそうにしないで。嫉妬してしまう」

ああ…王子様…私の王子様。
彼が一等愛おしい。

「私にはあなたしかいない…私の王子様…」
「…ああ、よかった」

にっこり、いつものように笑い返してくれる笑顔にただ喜ぶ。
曇っていた瞳はキラキラした笑顔で見えないけれど。
きっと晴れやかになっていればいいと思う。

「俺の妃…城へ戻ろう。俺達の家に。」
「でも、彼等は…」

後ろにいる彼等を見ようと振り返ろうとしたけれど寸のところで王子様に目をふさがれてしまった。

「彼等を見ては駄目だ。俺が嫉妬してしまう。…帰ろう」

ドキドキと胸が高鳴る。

「―――はい」

頷いた。
後ろは振り向かず。
目の前の彼に従った。

「先に戻ってて」

王子様を置いていくのには気が引けたけれど何か用事があるのだろうと私は頷いて何時もの城への道をゆっくり歩いて戻っていった。




「さて。」
蛙王子が笑みを消した

「君達が悪い」

彼等を見つめる瞳は酷く冷めたもの。

「大切な人を手放してしまうから。好きなら大切に留めておいたらよかった」

「だから恨まないで。だって今は俺のもの」

「君達みたいに手放すことはないから、ずっと俺の妃になるけど」

残念だったな、と蛙王子は長い舌を出しニヤリとわらったのだった。
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