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狂った彼ら

チェシャ猫視点

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「…あー…詰まらないなぁ」

ああ、詰まらない

ただひたすら呟く。
猫の姿をしたそれは木の上で空を見上げた
空には大きな三日月があり、女王にはよく自分の口をそれに例えていたことを思い出した。

「―――女王」

呼んだ。
しかし居ない人を呼んでも返事などあるわけがなく空虚だけが広がる。

ああ…なんで女王はいなくなってしまったんだろう。

いや、

「…いや、わかるよ」

――自分達が女王を殺したからだ。

大切だった。
大好きだった。
愛していたのに。

「…何で、だろ」

何でアリスなんて女に惚れてしまったのだろう
何で女王の悪口なんて言ってしまったんだろう
何で殺したんだろう

「…女王」

会いたい
優しい声で名前を呼んでもらって撫でてもらって…

「ああ、」

もう女王の手の感触が思い出せないよ。

「詰まらない」

こんな詰まらない世界が嫌になる。

白兎は女王を探しに行ったっきり帰ってこないし、イかれ帽子屋は女王を殺した兵士以外の兵士も刃物で滅多刺しにした。
三日月兎は女王の部屋のベッドで愛おしげに何か言っているし、双子は夜な夜な女王を想って鳴いている。

みんな、みんな、いかれている…

―――そう、自分もいかれている。

「女王」

呼ぶ声が震えていることくらいわかる。
紙を見て――女王が別の男と結婚したことを知っている。
そして白兎同様許せない気持ちがあることも自分はわかっていた。

「…女王」

三日月だと例えてくれたお前がいなければ…三日月なんか好きになれない

「詰まらない…」

女王がいなければ詰まらないこんな世界は嫌いだ。
詰まらない、こんな世界なんていらない。

ほしいのはただ1人

「女王、だけなのに…」
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