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人魚姫

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「人魚姫」…海にいる自分の状況を理解し、すぐにとある童話を頭に浮かべた。
そしてどこか遠くで綺麗な声がして。
自分の声を波に乗らせれば、酷く枯れた醜い声が聞こえた。

ああ、やっぱり。…やっぱり私は

人魚達は綺麗な声。
そうして私は醜い声

となれば今回も決まっていた。
私はまた悪役に…人魚姫の声を奪う悪役になってしまった。

私は自嘲する。

もう悲しくなかった。
慣れてしまったのだ。
それに諦めていた。

もうどうでもいい。
私が醜い枯れた声だって、人魚姫が私のところにきたって…
もうどうだっていい…。



それから数日。
私の面前に綺麗な人魚の女性がいた。
一目でわかる。
彼女は人魚姫だ。

人魚姫は言った。
人間にしてほしい、と。人間になる薬がほしい…そう私に懇願してきた。

必死な瞳…
綺麗な声…
全てが私と違う彼女が憎いし羨ましい。

彼女みたいに綺麗になりたかった、そんなことを胸に抱きながら、私はそれを無視するように人魚姫に笑って見せた。

いいよ、持って行って。

彼女に優しく言った

その綺麗な声はいらない。何も要らないから。

ただ幸せになって…

そう漏らした。



彼女が笑みを浮かべ、浜の方へ泳いでいったのを見送ったのは一週間前。
幸せになってほしいと、切に願った私。
でも物語は何処までも忠実だった。

今日はいつになく騒がしく、海が荒れていた。
原因はすぐに分かった。
人魚達が騒いでいるのだ。

争うような海の音に、ビクビク体を震わせた。
そうして当然大人数の私とは違う…綺麗な人魚達が家の扉を壊して入ってくる。
人魚達の綺麗な瞳。
だけどその瞳は幾度か見たことがあった。
何時も私にばかり向けられる理不尽な怒りの瞳。

私が何をした?
私は、人魚姫に足を生やす薬をあげただけ。
声も姿も羨ましいと思っただけで望んだ覚えはない。

それなのに…

「性悪」「醜い」「出ていけ」

消えろ!と口々に悪く言われた。

人魚姫が死んでしまった。
おまえの所為だと。
おまえが薬なんてやるからと

なんて理不尽な怒り。
私は人魚姫が人間の王子と幸せになってほしいと願っていただけなのに。

出ていけ!と次には槍を投げられた。
槍は体中に刺さった

痛い
痛いよ

どこがって…心が、一番痛かった…



槍が刺さった体を引きずり、逃げるように逆流していれば着いたのは小さな湖。

そこに着くと同時に力尽きたのか体が倒れた。
真っ赤な血が池の水を汚していく。
綺麗な水を汚したことに謝りながら、私は大声をあげ泣いた。

そしてもう生まれたくない、と強く思った
こんな悲しい人生を送るくらいならもう生まれ変わりたくない。
あんなに憎まれ、殺されるなら初めから生きていたくない。




綺麗なままでいたかった

綺麗な人達を憎んだり…妬んだりなんてしない綺麗な私のまま。

普通の…17歳の女で…憎んだり妬んだりとか、そんな感情なんてなくて…。クラスの気になる男の子がいて、親しい友人と仲良くしている、そんな私がよかったのに

戻して、呟いた

もとに戻してよ!

誰もいない、その空間にただ私の声が響き…そして消えてしまった。
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