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第三十九話 三竦み
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「雄二も今終わったのか」
そこには別の会場で俺と同じように模擬戦をやっていた雅人の姿があった。雅人も俺同様に相手が弱くて模擬戦自体はすぐに終わってしまったらしい。だがその後在校生やら教職員に捕まってしまい、今はそこから何とか逃げ出して来たそうだ。
合格発表は明日行われるので今日はこのまま宿に戻ろうとしたその時、目の前のT字路で明らかにこちらの世界と違う服装の人が左右からそれぞれ歩いてきた。
右からきているのは軍服に竜のスカジャンを羽織っている男で左から来ているのは和服を着た女だった。
俺たちはそこで立ち止まった。それは左右から来た人も同じで俺たちの顔を見るなり立ち止まった。
「誰かと思えば王国の雑魚と聖王国のまじょじゃねぇか」
「そういうアンタは帝国の猿とちゃいますか」
こいつらはお互いのことを知っているようだった。それに雅人のことを王国と言ったってことはこいつらの正体はそれぞれ帝国、聖王国に召喚された勇者か。
各国の勇者が一堂に会する。状況はまさに三竦みである。いや一人余計なのがいるな。てことで俺は関係ないためすぐさまその場を離脱することを決意した。
だがその歩みを邪魔しようとばかりに誰かに首根っこを掴まれてしまう。そのにはさっき左側にいたはずのスカジャンの男だった。
「ところでさっきから気になっていたんだが誰だ、テメェは?」
こいつの目は何というか本当に竜に睨まれている感覚に陥る。だが不思議と怖くない。目力は強いが逃げようと思えば逃げれる自身があるからだろうか。
「心配せんでもその子は何でもないどすよ。どうやら王国の勇者召喚の際に多くの人が巻き込まれたそうやし。その一人とちゃいますか」
やはりこいつらこちらの事情をある程度把握しているようだ。しかし何だろうこの違和感。この男の目とは違うまるで舐め回すようなあの女の目は。
すると雅人がスカジャンの男の肩を掴んだ。
「その辺で話してくれないかな」
「は? 王国程度の弱小国家の勇者が俺に命令?」
「そうだ。離せと言っている」
男の威圧に対して雅人は一歩も引かない。これが以前の雅人なら黙っていたかもしれない。
俺は嬉しくなり少し笑った。全身に一瞬魔力を込め、首根っこにある手を掴み、そのまま投げ飛ばした。
やはり腐っても勇者だけあり、うまく受け身を取られてしまった。男の目力はさらに強くなり、頭には血管が浮かび上がっていた。
「上等だ。お前ら。王国の勇者とその巾着袋如きが俺に喧嘩売ったこと後悔させてやる」
随分と頭に血が上りやすいのか立ち上がり、構える。対する俺たちも武器を抜き、構える。
互いの目が交差する。踏み込もうとした瞬間、空から光の柱が落ちる。そこに薄っすらと人影が見える。
「感心しないね。初めて会うであろう各国の勇者がいきなり争い合うのは」
そこには純白のローブに身を包んだ男が立っていた。だがそれよりも俺たちは体が一切動かないことに驚いていた。それは雅人が動けにということは状態異常ではなく魔法で動きを封じていることに他ならない。
拘束魔法は中級のその中でも上位の魔法だ。それも人間三人を完全に動きを停止させるほどの力を持っているのは異常だった。
「体が動きやしね」
「無理やり動こうとしても無駄だよ。帝国の勇者君。今の君たちぐらいなら杖を使わずとも拘束は容易だ。それよりもこれから楽しい学園生活を送るのだからまずはお互いに自己紹介から入ったらどうだい」
この状況でノーと言える人間などいない。仕方なく従うしかないのだ。
「飛龍玄斗(ひりゅうげんと)だ」
「桐山雅人(きりやままさと)です」
「はぁ~あちきもですか。八雲奈津菜(やくもなづな)と申します」
これで勇者全員の名前が分かった。だがローブの男は俺の顔を見る。
「君もだよ。王国の英雄」
英雄? なんの話だ?
それでも今の俺には拒否権がないのは確かだ
「真部雄二(まべゆうじ)だ」
男はうんうんと頷き、体が徐々に薄くなっていき完全に消えてしまった。その瞬間体が動くようになった。俺は飛龍の方を見た。飛龍は大きくため息を吐いた。
「興がそがれたわ。けど次はないぞ」
最後に捨て台詞のようなものを吐いて、歩いて行った。後ろにいたはずの八雲はすでにおらず、さっきまでうるさかった周りは静まり返っていた。俺はため息を吐き一安心する。
「しかし雅人よくあいつに楯突いたな」
隣の雅人を見ると蹲って居た。どうやら腰が抜けたそうだ。俺は久しぶりに大笑いした。
「折角かっこよかったのに最後の最後で締まらないな」
「うるさい」
雅人は少し顔が赤くなっていた。俺は雅人を支えながら宿へと向かった。
白いローブを着た男はゆっくりと目を開けた。そこにはまるでテレビのモニターのようなものが無数に広がっており、学園内のあらゆるところを映し出している。
あれが、各国が召喚した勇者か。素質はなかなか良さそうだね。だけど・・・・。
男はクスクスと笑う。モニターには王国の勇者とそれを支える男子が映っていた。男は目に魔力を込める。すると目が光り出し、その男子を見つめる。
さっきと見えるものは同じ。だけどやはりその先が見えない。
またクスクスと笑う。そして男はまた目を閉じた。
そこには別の会場で俺と同じように模擬戦をやっていた雅人の姿があった。雅人も俺同様に相手が弱くて模擬戦自体はすぐに終わってしまったらしい。だがその後在校生やら教職員に捕まってしまい、今はそこから何とか逃げ出して来たそうだ。
合格発表は明日行われるので今日はこのまま宿に戻ろうとしたその時、目の前のT字路で明らかにこちらの世界と違う服装の人が左右からそれぞれ歩いてきた。
右からきているのは軍服に竜のスカジャンを羽織っている男で左から来ているのは和服を着た女だった。
俺たちはそこで立ち止まった。それは左右から来た人も同じで俺たちの顔を見るなり立ち止まった。
「誰かと思えば王国の雑魚と聖王国のまじょじゃねぇか」
「そういうアンタは帝国の猿とちゃいますか」
こいつらはお互いのことを知っているようだった。それに雅人のことを王国と言ったってことはこいつらの正体はそれぞれ帝国、聖王国に召喚された勇者か。
各国の勇者が一堂に会する。状況はまさに三竦みである。いや一人余計なのがいるな。てことで俺は関係ないためすぐさまその場を離脱することを決意した。
だがその歩みを邪魔しようとばかりに誰かに首根っこを掴まれてしまう。そのにはさっき左側にいたはずのスカジャンの男だった。
「ところでさっきから気になっていたんだが誰だ、テメェは?」
こいつの目は何というか本当に竜に睨まれている感覚に陥る。だが不思議と怖くない。目力は強いが逃げようと思えば逃げれる自身があるからだろうか。
「心配せんでもその子は何でもないどすよ。どうやら王国の勇者召喚の際に多くの人が巻き込まれたそうやし。その一人とちゃいますか」
やはりこいつらこちらの事情をある程度把握しているようだ。しかし何だろうこの違和感。この男の目とは違うまるで舐め回すようなあの女の目は。
すると雅人がスカジャンの男の肩を掴んだ。
「その辺で話してくれないかな」
「は? 王国程度の弱小国家の勇者が俺に命令?」
「そうだ。離せと言っている」
男の威圧に対して雅人は一歩も引かない。これが以前の雅人なら黙っていたかもしれない。
俺は嬉しくなり少し笑った。全身に一瞬魔力を込め、首根っこにある手を掴み、そのまま投げ飛ばした。
やはり腐っても勇者だけあり、うまく受け身を取られてしまった。男の目力はさらに強くなり、頭には血管が浮かび上がっていた。
「上等だ。お前ら。王国の勇者とその巾着袋如きが俺に喧嘩売ったこと後悔させてやる」
随分と頭に血が上りやすいのか立ち上がり、構える。対する俺たちも武器を抜き、構える。
互いの目が交差する。踏み込もうとした瞬間、空から光の柱が落ちる。そこに薄っすらと人影が見える。
「感心しないね。初めて会うであろう各国の勇者がいきなり争い合うのは」
そこには純白のローブに身を包んだ男が立っていた。だがそれよりも俺たちは体が一切動かないことに驚いていた。それは雅人が動けにということは状態異常ではなく魔法で動きを封じていることに他ならない。
拘束魔法は中級のその中でも上位の魔法だ。それも人間三人を完全に動きを停止させるほどの力を持っているのは異常だった。
「体が動きやしね」
「無理やり動こうとしても無駄だよ。帝国の勇者君。今の君たちぐらいなら杖を使わずとも拘束は容易だ。それよりもこれから楽しい学園生活を送るのだからまずはお互いに自己紹介から入ったらどうだい」
この状況でノーと言える人間などいない。仕方なく従うしかないのだ。
「飛龍玄斗(ひりゅうげんと)だ」
「桐山雅人(きりやままさと)です」
「はぁ~あちきもですか。八雲奈津菜(やくもなづな)と申します」
これで勇者全員の名前が分かった。だがローブの男は俺の顔を見る。
「君もだよ。王国の英雄」
英雄? なんの話だ?
それでも今の俺には拒否権がないのは確かだ
「真部雄二(まべゆうじ)だ」
男はうんうんと頷き、体が徐々に薄くなっていき完全に消えてしまった。その瞬間体が動くようになった。俺は飛龍の方を見た。飛龍は大きくため息を吐いた。
「興がそがれたわ。けど次はないぞ」
最後に捨て台詞のようなものを吐いて、歩いて行った。後ろにいたはずの八雲はすでにおらず、さっきまでうるさかった周りは静まり返っていた。俺はため息を吐き一安心する。
「しかし雅人よくあいつに楯突いたな」
隣の雅人を見ると蹲って居た。どうやら腰が抜けたそうだ。俺は久しぶりに大笑いした。
「折角かっこよかったのに最後の最後で締まらないな」
「うるさい」
雅人は少し顔が赤くなっていた。俺は雅人を支えながら宿へと向かった。
白いローブを着た男はゆっくりと目を開けた。そこにはまるでテレビのモニターのようなものが無数に広がっており、学園内のあらゆるところを映し出している。
あれが、各国が召喚した勇者か。素質はなかなか良さそうだね。だけど・・・・。
男はクスクスと笑う。モニターには王国の勇者とそれを支える男子が映っていた。男は目に魔力を込める。すると目が光り出し、その男子を見つめる。
さっきと見えるものは同じ。だけどやはりその先が見えない。
またクスクスと笑う。そして男はまた目を閉じた。
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