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第二十一話 爆弾

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 俺と雅人との決闘から二日が経った。俺たちは依然魔力が回復せず、キャンプ場で居残りとなっている。
 多くの者が入った森では予想外な事態が起こっていた。それは森で一切魔物に遭遇しないことである。
 原因はもちろん俺と雅人である。森の浅地での決闘は、周辺の魔物とって脅威そのもので森の奥へと逃げてしまっていた。
 そのため今はこうして森から王都へ帰還している最中である。

「君たち王都に帰ったら私のところに来なさい」

 出発際、吉田先生からそういわれてしまった俺たちは憂鬱な気分が拭えない。いくら強くなっても先生に怒られるのは嫌なのだ。

 流石に前回のことがあったため、誰一人として気を抜いている人はいなかった。俺も未だ倦怠感は残るが短剣と盾を装備している。
 出発から慣れたもので五時間近くかかっていた道のりも今では、二時間ほどで森から出ることが出来た。
森から出るとすぐに馬車に乗り王都に帰る。
 俺と雅人は王都に帰る馬車の中この後に待つお説教のことを考えながら馬車に揺られる。
 王都の正門を通り城下町の大通りを進む。しかし城下町は出発前とは違いあちらこちらにきれいな飾りや出店が立ち並んでいた。
 王城に着くとそこには最近姿を見なかったギリアズ宰相が立っていた。

「お帰りをお待ちにしておりました。勇者様」

 馬車に向かって一礼するギリアズ。その瞬間ドンっと王城の扉が勢いよく開く。
 そこには短くも太陽の光で輝く金髪に青い瞳を持つ中性的な顔立ちの美男子が立っていた。着ている服はどちらかと言うと軍服に近いような服だが所々に装飾されている金色の模様や白いマントがその男の位の高さを物語っていた。恐らくはこの国の王子なのだろう。
 その顔に女子の何人かは頬を赤く染め蕩けている。

「貴君らが異世界から参られて勇者御一行だな。さて勇者殿はどなたかな」

 俺たち一人一人に顔を近づけうーんと睨んでいる。臥竜院や滝下には「君かな?」問いかけるが、俺は一見されてスルーされた。
 違うのはそうだが、これでも俺は雅人の次に強い自信があり、勘違いされないことに少し腹をたててしまった。一瞬だが近くで見ると雅人とはまた違ったタイプのイケメンだった。だが俺はここである違和感がした。

「かっこいい人だね」

 馬車から降りてきた東方さんは王子を見て言っている。だが他の女子と比べ見惚れてはいない。俺は事の顛末を静かに見ていた。

「勇者は僕だ」

 雅人が声を上げる。王子は雅人に顔を近づける。その距離は近く、メイド含め多くの女性が声を上げる。こうして近くで並んでみると絵になる。
 一冊薄い本ができるほどの接触だ。だが王子が顔を離すことで夢の時間は終了した。王子は一瞬俺の方を見たような気がするが、すぐさま目線を雅人に戻し、膝を着き右手を上げる。

「勇者殿、私と結婚してほしい」

 それに誰もが驚愕で声を上げる。一部の女性の方々は鼻血を抑えられず、手で鼻を覆う。流石のこれには雅人も驚き、目が点になっている。
 そこに慌ててギリアズが割り込み王子を止めようとする。

「お戯れはお止めください。ラディア王女殿下」

 その言葉に静まり返る一同。雅人は情けなくも口を大きく開けてポカーンとしている。

「そういえば名乗り遅れたな。私はファルディア王国第一王女ラディア・サン・ファルディアだ」

 その仕草は王女というより王子そのものだった。

「いきなり結婚は・・・・」

 呆気にとられていた雅人は息を吹き返し、提案にやんわり反対する。王女様は少し考えるように顎に手を当てる。

「それもそうだな。なら婚約者というのはどうだろうか?」

 なにもよろしくない。いつもは主導権を握っている雅人は王女の勢いに負け、あれよあれよと話が進んでいく。そのたびに反対するが王女は折れない。
 気が付けば雅人は王女につられ、何処かへいなくなった。ギリアズはそれを追って王城に入る。俺たちは完全に放置である。

 ジルバルさんの号令で荷物を片付ける。ほとんどのクラスメイトはさっきのやり取りを羨ましがっていたが、女子からの威圧に屈し黙り込む。

 桐山協定。これは学校では有名な話で、学校内で雅人へのアピール行動を禁止とした女子たちの女子たちによる協定である。
 もしもこれを破ろうものなら親衛隊から粛清を受けるという恐ろしいものだ。
 だが異世界に来たことでライバルは片手で数えられるまで減少した。これにより協定は破棄。女子たちの雅人争奪戦が勃発するかと思ったが、なんとお互いがお互いを牽制することで拮抗状態が完成。
 これにより雅人へのアピールは一時的に止まった。

 しかしここにこちらの事情を知らない絶世の美女が現る。そうラディア王女殿下である。拮抗状態は彼女が落とした爆弾で崩壊。というか明らかに出遅れた形となった。
 これには女子たちは気が気でない。常にイライラしており、その火花は雅人に嫉妬していた男子に飛び火。この惨事を生んでいる。

「滝下君、あれどうにか出来ない?」

 男子の一人が滝下に解決を促す。しかし滝下は黙って大きく首を振る。俺は巻き込まれる前にこの場を離れようと自分の荷物を持って出ようとする。
だが目の前に一人俺の行く手を阻むものがいる。それは吉田先生だ。俺はその場で正座させられこっぴどく怒られている。
 部屋の前方では女子たちが怒っており、後ろでは俺が吉田先生に怒られている。それに挟まれたクラスメイトは小一時間ほど部屋から出ることはできなかった。

 ひどい目にあった。
 俺は荷物を持って自室へ向かう。大理石の床は正座には厳しく膝が真っ赤である。あれはお説教ではなく一種の拷問だった。
 フラフラと歩く俺の進行方向に同様にフラフラと歩く人影が向かって来る。それは王女に連れていかれた雅人だった。

「どうした雅人?随分とフラフラじゃないか」

「雄二こそ。そんなにフラフラと歩いていたら危ないんじゃないか」

 俺たちはお互い荷物を持ったまま裏庭に行った。

 裏庭に着くと雅人は一気に気を抜き、腰を下ろした。そのままあの後の顛末を話し始めた。
 あの後雅人は王女に連れられ王の書斎まで連れて行かれ、いきなりの父親への挨拶が始まってしまった。王女は雅人を婿に迎え入れたいと言い放ちそれには王様もびっくり。
 しかし王様も初めて会った男と娘を結婚させることはないと思っていた雅人はその時はかなり悠長に構えており、王様がどうにか丸く収めてくれると思っていたらしい。
 だが貴族や王族では初めて会って婚約は当たり前な世の中。現に王様も王妃と会ったのは一度だけで婚姻が成立している。
 結果としてある意味丸く収まってしまった。

 だがそこで助け舟を出したのは意外にもギリアズで雅人は異世界から来た勇者。その勇者が王女と婚約したと聞いた貴族連中が何を言い出すか分からないといい、王様を宥めた。
 王国も一枚岩ではなく王族派を貴族派で分かれており、今は王族派も貴族派もお互いがけん制し合い俺たち召喚者を陣営に取り込もうと水面下で動いているとのこと。
 しかしもし王女との婚約が知られた場合その水面下の動きが表面上に出る恐れがあると指摘され、結果として婚約はしないが諦める気はないと宣戦布告されて戻ってきたそうだ。

 俺も吉田先生にこっぴどく怒られたことを話す。大理石の床での正座やキメラベアー以上の圧。正直生きた心地がしなかった。

「お互い大変だったな・・・・」

 俺たちはため息を漏らす。

「それで雅人は今後どうすんの?どうせお前、周りの女子の気持ちに気づいてたんだろ?」

 雅人は首を縦に振る。俺はもう一度ため息を吐く。フラグ管理はちゃんとしないとどこかで総崩れするのだ。これは三次元を諦め二次元へ逃げた男が初心者の頃感じたことだ。
 これに関しては外野ができることはないに等しい。何より雅人が解決すべきことなのだ。

「しっかりしろよ、勇者様。女に刺されて死ぬとか笑えないし、そんなでお前に勝ってもうれしくもなんともないからな」

 これが、俺が雅人に言える最大の励ましの言葉だ。自分で言ってて何だがツンデレのヒロインみたいだな、俺。
 雅人は覚悟を決めたのかは知らないが、そのまま何も言わず解散となった。
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