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第十九話 馴れ合い
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お披露目会終了後、女子は女子のテントに戻り、男子はそのまま談笑会となった。話題の内容はもちろんお披露目会がメインである。そんな中、俺は一度水を注ぎにテントの外に出た。外はもうすっかり暗く空には二つの月が輝きを放っている。月の光が強すぎる所為か星は見えない。
「僕も一緒にいいかな?」
振り向くと桐山が水筒を持って立っていた。俺はお好きにと言って先に歩き出した。
川への道は常にヒカリゴケが発光しており、はっきりと見える。だがなぜ桐山が俺と一緒に来たのかが読めなかった。まさか夜の外が怖いなんてと思ったが、その考えを振り払った。もし実際にそうだったら面白いが、なんとなく 拍子抜けしてしまいそうだ。
最近の俺の桐山への評価は嫌いなやつから倒したい相手に変わりつつある。いわゆる好敵手(ライバル)である。桐山が俺のことをどう思っているかは知らない。だがこいつの言動を見ていると常に俺を倒す方法を考えている。さっきのお披露目会でも桐山だけは、真剣に俺のスキルへの対策を考えていたように感じる。
お互い喋ることなく川までついた。順番に水を注ぎ、テントに戻ろうとしたその時、桐山が腰を下ろした。
このまま帰ってもよかったが、俺も少し離れたところに座った。しばらく川を眺め俺は諦めて聞くことにした。
「どうしてついて来たんだ?」
桐山は顔を動かさず川を見つめながら、なんとなくだと答えた。正直、気持ちが悪い。女子ならいざ知らず男とこんなラブコメ展開を繰り広げてもなんの需要にもならん。俺は腐ってないしな。
桐山は徐に剣を抜いた。その剣は日ごろ桐山が使っている剣で、勇者にはいってしまえば相応しくない。装飾も特別な力も宿ってないただの剣だ。
だがその剣は傷や凹みといったものがある。使い込まれた剣だ。俺はため息を吐き桐山に剣を渡すように言った。桐山は躊躇せず、俺に剣を渡した。俺はアイテムボックスから砥石を取り出し、『武器性能』と『適当』を発動した。
鉄の片手剣
「攻撃力」29/43 「耐久度」34/67
「特殊効果」なし
攻撃力も耐久度も半分近くまで下がっていた。剣の傷み具合からして恐らく一回も修理に出していない。柄もボロボロで下手をすれば、手から剣が飛んで行ってしまう。そして剣先も欠けていた。剣全体が赤く光っており、いつ折れてもおかしくないほど痛んでいた。
「なんでこんなになるまで放置したんだ。町に出れば格安で修理してくれる店はあるぞ」
忠告をするが桐山は一向に喋らない。寝てるんじゃないかと思い顔覗き込むと目はしっかり開いている。
仕方がないので喋り出すまで研磨をすることにした。
刃の部分を器具で取り、シャアシャアと砥石に剣が擦れる音が森の中に響き渡る。
「僕は君のことが嫌いだ」
やっと喋り出した。それにしてもやっと喋り出したかと思うといきなり嫌いだとか俺じゃなかったら泣き出してたかもしれないぞ。
「嫌いだと自覚したのはあの日だけど、僕はそれより以前から君のことが苦手だった。昨日と今日、君と戦ってその理由がやっとわかった。君は僕と違って物事を俯瞰して見ている。東方さんの才能にいち早く気づき、僕や吉田先生の欠点を露出させた。僕はね最近自信がないんだよ。いや正確には君に負けてから。勇者としてやっていけるのか」
俺は刃を研磨しながらその話を静かに聞いていた。またしばらく沈黙が続く。今俺ができるかぎりの研磨をし終わり『武器性能』を発動。
鉄の片手剣
「攻撃力」40/43 「耐久度」50/67
「特殊効果」なし
俺は内心少し驚いていた。桐山が弱音を吐いていることにではなく、それを言ったのが俺であるということに。何とか使える程度まで研磨した剣を鞘にしまいうずくまっている桐山の胸ぐらを掴み渡した。
俺が慰めてくれるとでも思っているのか、上げた顔は情けないほど暗いものだった。
「慰めねぇーぞ桐山。俺たちはあの日お互いに嫌いだと言い合った仲だ。馴れ合いはしない。その剣は俺が最初で最
後のお前との馴れ合いの証だ。それと俺の考えはあの時と何も変わってない。お前が勇者であることを辞めようが俺は責めない。それも自己責任だからだ。だから精々そこでうずくまってろ」
言いたいことを一方的に言って俺はテントに戻るため歩み出した。
「待てよ」
静かにだが確かな意思が、籠った声が森に響く。桐山は俺が渡した剣を鞘から抜き、鞘を川へ投げ捨てた。両手で剣をしっかり握り閉め、俺に向けて構える。
「お前も武器を出せ。一騎打ちだ」
あの時とは違う安全な木刀ではなく、敵を殺すための武器を構える。しかも桐山の基本スタイルである勇者スタイルではなく、防具も盾もない防御なしの決闘スタイル。
俺は桐山の覚悟に答えるため腰につけている短剣を外し、俺の奥の手とも言える武器をアイテムボックスから取り出す。それは桐山同様の片手剣であり鞘から抜き構える。
始めの合図も何もない。俺が武器を構えたその瞬間からすでに、勝負は始まっていた。俺と桐山の目線が交差する。お互い相手の出方を見ている。先に動いたのは桐山だった。
レベルアップにより以前より力強い踏み込みから出される速度は一瞬にして俺との間合いを詰め切りつけて来る。俺はそれを流れるようにいなし、カウンターを決める。それを剣の表面で防ぐ。カウンターの反動で体勢を崩しつつも桐山は距離を取り、また俺の動きを伺う。
俺はこのままカウンターに徹することも考えたがその考えをすぐに捨てた。桐山と俺は同時に踏み込む。しかしここがレベル制度のきついところで明らかに桐山の方が早い。お互いに相手の肩や足、腹といった部位を狙い攻撃を繰り出す。
だが徐々に俺の攻撃が減っていく。防御に手一杯になり始め、一度体勢を立て直すため引こうとするが桐山はそれを許さない。
剣のぶつかる音を聞きつけてギャラリーが集まり始める。吉田先生やジルバルさんが止めるように促すが、二人には一切聞こえてない。クラスメイトも桐山と真部が命のやり取りをしているのを見て唖然とする者、止めようと飛び出そうとする者、無事であれと願う者様々だ。
だがそんな周りの状況は今の彼らには一切入ってこない。五感は全て相手を倒すことのみに注がれている。
桐山の攻撃に徐々に押され始めた俺は仕方なく大ぶりな桐山の攻撃をいなし、カウンターを決めた。それをさっきと同様に剣の表面で防御する。だが違っていたのは桐山の体が俺の剣の衝撃にびくともしないことだった。
こいつ『不屈の精神』を使ってやがる。
時間が経過する度に俺の攻撃が意味をなさなくなってきた。フェイントもカウンターも防がれてしまい逆に反撃を受けてしまう始末。
「まさかスキルを使って来るとはな! それだけ本気ってことか! な、桐山!」
桐山は答えない。だが桐山の目はしっかり俺を捉えており、目で本気で来いと叫んでいる。俺は荒れている息を整え、もう一度剣を両手で握りしめ奥の手を開放する。
剣に魔力を流し込む。剣は青白く輝きだし魔力を纏う。そう付魔(エンチャント)である。俺を見て桐山も剣に魔力を流し込む。しばらくお互いの出方を見る。今度先に動いたのは俺だった。剣を高く振り上げ、勢いよく振り下ろす。桐山は俺が何をするのか気づき同じように振り下ろした。
「「飛ぶ斬撃(スラッシュ)」」
俺と桐山は空に向かって剣を振る。それは決して当たることはない。だが付魔(エンチャント)された剣からは魔力が飛び出す。ただの魔力の塊ではあるが確かな切れ味がある飛ぶ斬撃を作り出す。
お互いの飛んだ斬撃(スラッシュ)が中央でぶつかり合う。威力の高い飛ぶ斬撃(スラッシュ)にはその衝撃波にも斬撃性があり両者の強力な飛ぶ斬撃(スラッシュ)は周囲にいる人間にも被害を出している。
通常であれば込められている魔力が多い桐山の斬撃に打ち消されるはずの俺の斬撃は逆に桐山の斬撃を打ち消し桐山の所まで飛んでいく。
桐山は、想定外のことで驚きはしたが、冷静に回避をする。俺の斬撃はどこまででも飛んでいき一直線上にあった 木々を全て真っ二つに切った。
この現象が起こったのは俺が今使用している片手剣の効果である。
この片手剣は伸縮する剣(シュリンクソード)を完成させた後に作り出したもので、材料は鉄の片手剣にスライムゼリーと同じだが能力は全く違う。
この剣の最大の特徴は魔力伝導性である。スライムは鉄に比べ魔力伝導性が高い。同じ魔力量を流し込んで伝わる魔力は鉄の約二倍である。
そのため本来勝てるはずもない桐山との魔力差も武器のおかげで逆に打ち消すことが出来ている。
桐山が回避した瞬間、俺は魔力で足を強化し、一瞬で距離を詰める。回避直後で体勢を崩した状態ではあったが、スキルで常に防御が上がり続けているため俺の渾身の一撃も剣で防がれる。だが膝をついている桐山に俺は剣に全体重をかける。桐山の剣が少しずつ下がっていくが力技で無理やり立ち上がっていく。
俺も力を緩めることなく押さえつける。桐山は俺の腹を蹴り、今度は桐山が距離を取る。桐山はまた剣に付魔(エンチャント)を施し、すかさず至近距離の飛ぶ斬撃(スラッシュ)を繰り出す。
それを回避するが回避した先にも斬撃が飛んでくる。俺も剣に付魔(エンチャント)を施し、斬撃を飛ばす。結果はさっきと変わらす俺の斬撃が打ち消し飛んでいくが、その先には桐山はおらず高く飛び上がっており剣を叩きつける。それを回避し距離を取る。
お互い精根尽きており、魔力も残りわずかとなった。
「そろそろ決着を付けよう」
桐山は両足を大きく前後に開き肩よりも高いところで剣を構える。さらに剣に付魔(エンチャント)をかける。その姿はさながら歴代の勇者を彷彿とさせる美しさだった。
その光景に騎士団及び片手剣組は見覚えがある構えだった。それは模擬戦で桐山が考えた桐山の奥の手ともいえるものだった。
これは桐山が当時所有していた『不屈の精神』と『見切りⅠ』を併用することで使える技であり、時間経過による防御力アップを活かし、決してブレることのない体と『見切りⅠ』によりカウンターを決めるものである。
アイデアは真部のジャスガを参考に考えたものだ。
当時ⅠだったスキルはⅡに上がり、しかも付魔(エンチャント)をかけたこの技の威力がどの程度かは桐山本人も分からない。
俺は体全身の力を息と一緒に抜き、剣を鞘の中に入れ腰を低く、足を前後に開く。その姿は居合の構えそのものだった。鞘から付魔の青白い光が漏れ、俺の体全身を包み込む。まるで俺が青いオーラをまとっているように見える。 それは俺が毎日のように練習をしていたが動くことすらままらなかった体全身への付魔(エンチャント)名付けて渾身 付魔(フルエンチャント)という技である。魔力消費が激しすぎるため奥の手中の奥の手である。
「閃光反撃(フラッシュカウンター)‼」
「裂空‼」
二人の姿が一瞬見えなるのと同時に金色の光と青白い光がぶつかり合う。周囲に大爆発が起こり、衝撃波により何人か吹き飛ばされてしまう。
光が止み、土煙が徐々に晴れている誰もかれもが勝負の結果を今か今かと待ちわびている。立っていたのは桐山だった。だが剣は粉々に折れている。一方俺は地面に倒れており、動く様子がない状態になっている。
だが桐山も魔力切れと『不屈の精神』が切れた所為でそのまま倒れ込み、勝負の結果は桐山の勝利で終わった。
「僕も一緒にいいかな?」
振り向くと桐山が水筒を持って立っていた。俺はお好きにと言って先に歩き出した。
川への道は常にヒカリゴケが発光しており、はっきりと見える。だがなぜ桐山が俺と一緒に来たのかが読めなかった。まさか夜の外が怖いなんてと思ったが、その考えを振り払った。もし実際にそうだったら面白いが、なんとなく 拍子抜けしてしまいそうだ。
最近の俺の桐山への評価は嫌いなやつから倒したい相手に変わりつつある。いわゆる好敵手(ライバル)である。桐山が俺のことをどう思っているかは知らない。だがこいつの言動を見ていると常に俺を倒す方法を考えている。さっきのお披露目会でも桐山だけは、真剣に俺のスキルへの対策を考えていたように感じる。
お互い喋ることなく川までついた。順番に水を注ぎ、テントに戻ろうとしたその時、桐山が腰を下ろした。
このまま帰ってもよかったが、俺も少し離れたところに座った。しばらく川を眺め俺は諦めて聞くことにした。
「どうしてついて来たんだ?」
桐山は顔を動かさず川を見つめながら、なんとなくだと答えた。正直、気持ちが悪い。女子ならいざ知らず男とこんなラブコメ展開を繰り広げてもなんの需要にもならん。俺は腐ってないしな。
桐山は徐に剣を抜いた。その剣は日ごろ桐山が使っている剣で、勇者にはいってしまえば相応しくない。装飾も特別な力も宿ってないただの剣だ。
だがその剣は傷や凹みといったものがある。使い込まれた剣だ。俺はため息を吐き桐山に剣を渡すように言った。桐山は躊躇せず、俺に剣を渡した。俺はアイテムボックスから砥石を取り出し、『武器性能』と『適当』を発動した。
鉄の片手剣
「攻撃力」29/43 「耐久度」34/67
「特殊効果」なし
攻撃力も耐久度も半分近くまで下がっていた。剣の傷み具合からして恐らく一回も修理に出していない。柄もボロボロで下手をすれば、手から剣が飛んで行ってしまう。そして剣先も欠けていた。剣全体が赤く光っており、いつ折れてもおかしくないほど痛んでいた。
「なんでこんなになるまで放置したんだ。町に出れば格安で修理してくれる店はあるぞ」
忠告をするが桐山は一向に喋らない。寝てるんじゃないかと思い顔覗き込むと目はしっかり開いている。
仕方がないので喋り出すまで研磨をすることにした。
刃の部分を器具で取り、シャアシャアと砥石に剣が擦れる音が森の中に響き渡る。
「僕は君のことが嫌いだ」
やっと喋り出した。それにしてもやっと喋り出したかと思うといきなり嫌いだとか俺じゃなかったら泣き出してたかもしれないぞ。
「嫌いだと自覚したのはあの日だけど、僕はそれより以前から君のことが苦手だった。昨日と今日、君と戦ってその理由がやっとわかった。君は僕と違って物事を俯瞰して見ている。東方さんの才能にいち早く気づき、僕や吉田先生の欠点を露出させた。僕はね最近自信がないんだよ。いや正確には君に負けてから。勇者としてやっていけるのか」
俺は刃を研磨しながらその話を静かに聞いていた。またしばらく沈黙が続く。今俺ができるかぎりの研磨をし終わり『武器性能』を発動。
鉄の片手剣
「攻撃力」40/43 「耐久度」50/67
「特殊効果」なし
俺は内心少し驚いていた。桐山が弱音を吐いていることにではなく、それを言ったのが俺であるということに。何とか使える程度まで研磨した剣を鞘にしまいうずくまっている桐山の胸ぐらを掴み渡した。
俺が慰めてくれるとでも思っているのか、上げた顔は情けないほど暗いものだった。
「慰めねぇーぞ桐山。俺たちはあの日お互いに嫌いだと言い合った仲だ。馴れ合いはしない。その剣は俺が最初で最
後のお前との馴れ合いの証だ。それと俺の考えはあの時と何も変わってない。お前が勇者であることを辞めようが俺は責めない。それも自己責任だからだ。だから精々そこでうずくまってろ」
言いたいことを一方的に言って俺はテントに戻るため歩み出した。
「待てよ」
静かにだが確かな意思が、籠った声が森に響く。桐山は俺が渡した剣を鞘から抜き、鞘を川へ投げ捨てた。両手で剣をしっかり握り閉め、俺に向けて構える。
「お前も武器を出せ。一騎打ちだ」
あの時とは違う安全な木刀ではなく、敵を殺すための武器を構える。しかも桐山の基本スタイルである勇者スタイルではなく、防具も盾もない防御なしの決闘スタイル。
俺は桐山の覚悟に答えるため腰につけている短剣を外し、俺の奥の手とも言える武器をアイテムボックスから取り出す。それは桐山同様の片手剣であり鞘から抜き構える。
始めの合図も何もない。俺が武器を構えたその瞬間からすでに、勝負は始まっていた。俺と桐山の目線が交差する。お互い相手の出方を見ている。先に動いたのは桐山だった。
レベルアップにより以前より力強い踏み込みから出される速度は一瞬にして俺との間合いを詰め切りつけて来る。俺はそれを流れるようにいなし、カウンターを決める。それを剣の表面で防ぐ。カウンターの反動で体勢を崩しつつも桐山は距離を取り、また俺の動きを伺う。
俺はこのままカウンターに徹することも考えたがその考えをすぐに捨てた。桐山と俺は同時に踏み込む。しかしここがレベル制度のきついところで明らかに桐山の方が早い。お互いに相手の肩や足、腹といった部位を狙い攻撃を繰り出す。
だが徐々に俺の攻撃が減っていく。防御に手一杯になり始め、一度体勢を立て直すため引こうとするが桐山はそれを許さない。
剣のぶつかる音を聞きつけてギャラリーが集まり始める。吉田先生やジルバルさんが止めるように促すが、二人には一切聞こえてない。クラスメイトも桐山と真部が命のやり取りをしているのを見て唖然とする者、止めようと飛び出そうとする者、無事であれと願う者様々だ。
だがそんな周りの状況は今の彼らには一切入ってこない。五感は全て相手を倒すことのみに注がれている。
桐山の攻撃に徐々に押され始めた俺は仕方なく大ぶりな桐山の攻撃をいなし、カウンターを決めた。それをさっきと同様に剣の表面で防御する。だが違っていたのは桐山の体が俺の剣の衝撃にびくともしないことだった。
こいつ『不屈の精神』を使ってやがる。
時間が経過する度に俺の攻撃が意味をなさなくなってきた。フェイントもカウンターも防がれてしまい逆に反撃を受けてしまう始末。
「まさかスキルを使って来るとはな! それだけ本気ってことか! な、桐山!」
桐山は答えない。だが桐山の目はしっかり俺を捉えており、目で本気で来いと叫んでいる。俺は荒れている息を整え、もう一度剣を両手で握りしめ奥の手を開放する。
剣に魔力を流し込む。剣は青白く輝きだし魔力を纏う。そう付魔(エンチャント)である。俺を見て桐山も剣に魔力を流し込む。しばらくお互いの出方を見る。今度先に動いたのは俺だった。剣を高く振り上げ、勢いよく振り下ろす。桐山は俺が何をするのか気づき同じように振り下ろした。
「「飛ぶ斬撃(スラッシュ)」」
俺と桐山は空に向かって剣を振る。それは決して当たることはない。だが付魔(エンチャント)された剣からは魔力が飛び出す。ただの魔力の塊ではあるが確かな切れ味がある飛ぶ斬撃を作り出す。
お互いの飛んだ斬撃(スラッシュ)が中央でぶつかり合う。威力の高い飛ぶ斬撃(スラッシュ)にはその衝撃波にも斬撃性があり両者の強力な飛ぶ斬撃(スラッシュ)は周囲にいる人間にも被害を出している。
通常であれば込められている魔力が多い桐山の斬撃に打ち消されるはずの俺の斬撃は逆に桐山の斬撃を打ち消し桐山の所まで飛んでいく。
桐山は、想定外のことで驚きはしたが、冷静に回避をする。俺の斬撃はどこまででも飛んでいき一直線上にあった 木々を全て真っ二つに切った。
この現象が起こったのは俺が今使用している片手剣の効果である。
この片手剣は伸縮する剣(シュリンクソード)を完成させた後に作り出したもので、材料は鉄の片手剣にスライムゼリーと同じだが能力は全く違う。
この剣の最大の特徴は魔力伝導性である。スライムは鉄に比べ魔力伝導性が高い。同じ魔力量を流し込んで伝わる魔力は鉄の約二倍である。
そのため本来勝てるはずもない桐山との魔力差も武器のおかげで逆に打ち消すことが出来ている。
桐山が回避した瞬間、俺は魔力で足を強化し、一瞬で距離を詰める。回避直後で体勢を崩した状態ではあったが、スキルで常に防御が上がり続けているため俺の渾身の一撃も剣で防がれる。だが膝をついている桐山に俺は剣に全体重をかける。桐山の剣が少しずつ下がっていくが力技で無理やり立ち上がっていく。
俺も力を緩めることなく押さえつける。桐山は俺の腹を蹴り、今度は桐山が距離を取る。桐山はまた剣に付魔(エンチャント)を施し、すかさず至近距離の飛ぶ斬撃(スラッシュ)を繰り出す。
それを回避するが回避した先にも斬撃が飛んでくる。俺も剣に付魔(エンチャント)を施し、斬撃を飛ばす。結果はさっきと変わらす俺の斬撃が打ち消し飛んでいくが、その先には桐山はおらず高く飛び上がっており剣を叩きつける。それを回避し距離を取る。
お互い精根尽きており、魔力も残りわずかとなった。
「そろそろ決着を付けよう」
桐山は両足を大きく前後に開き肩よりも高いところで剣を構える。さらに剣に付魔(エンチャント)をかける。その姿はさながら歴代の勇者を彷彿とさせる美しさだった。
その光景に騎士団及び片手剣組は見覚えがある構えだった。それは模擬戦で桐山が考えた桐山の奥の手ともいえるものだった。
これは桐山が当時所有していた『不屈の精神』と『見切りⅠ』を併用することで使える技であり、時間経過による防御力アップを活かし、決してブレることのない体と『見切りⅠ』によりカウンターを決めるものである。
アイデアは真部のジャスガを参考に考えたものだ。
当時ⅠだったスキルはⅡに上がり、しかも付魔(エンチャント)をかけたこの技の威力がどの程度かは桐山本人も分からない。
俺は体全身の力を息と一緒に抜き、剣を鞘の中に入れ腰を低く、足を前後に開く。その姿は居合の構えそのものだった。鞘から付魔の青白い光が漏れ、俺の体全身を包み込む。まるで俺が青いオーラをまとっているように見える。 それは俺が毎日のように練習をしていたが動くことすらままらなかった体全身への付魔(エンチャント)名付けて渾身 付魔(フルエンチャント)という技である。魔力消費が激しすぎるため奥の手中の奥の手である。
「閃光反撃(フラッシュカウンター)‼」
「裂空‼」
二人の姿が一瞬見えなるのと同時に金色の光と青白い光がぶつかり合う。周囲に大爆発が起こり、衝撃波により何人か吹き飛ばされてしまう。
光が止み、土煙が徐々に晴れている誰もかれもが勝負の結果を今か今かと待ちわびている。立っていたのは桐山だった。だが剣は粉々に折れている。一方俺は地面に倒れており、動く様子がない状態になっている。
だが桐山も魔力切れと『不屈の精神』が切れた所為でそのまま倒れ込み、勝負の結果は桐山の勝利で終わった。
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