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野外活動用の服に着替えて仕込みジャケットと仕込みチャップス、レッグホルスターセットを身に着ける。鉢金とグローブも装着し、緑のハットを被って準備完了だ。

ついでに大急ぎでポーションを作成して収納しておく。1日くらいサボってもどうってことはないんだけど、気持ちの問題だね。

廊下に出てドアに鍵をかけるとエレナも出てきた。こちらも準備万端だ。

「部屋にあった荷物は全てマジックバッグに入れた?忘れ物はない?」

エレナに声をかける。

「心配しなくても大丈夫よ。それにしてもマジックバッグって凄いわね。中に荷物を入れても重さが変わらないなんて信じられないわ。マスター級以上の冒険者はマジックバッグを持って一人前、って言うのも分かるわね。これがあれば持ち込む荷物も持ち帰る荷物も何十倍にもなるもの。その分うんと頑張んなきゃね。」

エレナはそう言ってウインクしてきた。やめてくれ、抱き締めたくなってしまう。

「そうだね、これからは皆んなで頑張っていこう。じゃあまずはギルドだね。行こう皆んな。」

声をかけて先頭に立って歩き出す。エレナは俺の左隣に、ウォルターとイスラはそれぞれ後ろをついてくる。リリーのバスケットはイスラの角にかけられていた。中から伸び上がって顔を出している。ふふっ、めんこいもんだ。

フロントに鍵を預けて外に出る。収納から簡易轡と鐙を出し、イスラに着けてエレナを騎乗させる。俺もウォルターの背に跨ると速歩で冒険者ギルドへ向かった。

冒険者ギルドで新規依頼が貼り出されるのは朝の7時だ。街の開門は朝の6時なのだが、護衛依頼や常設依頼を行う冒険者たちが、開門と同時に出ていくために門の前で待ち合わせをする事が多いので、他の依頼を受けた者たちが同時に門に殺到すると捌き切れなくなるため、あえて時間差を設けているそうだ。

俺たちがギルドに着いたのは7時半くらいで、ちょうど依頼を受け終えた冒険者たちがギルドを出てくる時間帯だった。ゾロゾロと出てくる冒険者たちの波に飲まれぬように端に寄って進み、入り口で人の流れが収まるのを待った。

人の流れが空いたところで滑り込むように中に入り、新規受付・相談窓口へと向かう。いつもの赤髪爆乳お姉さんは他の冒険者の対応中だったので、たまには男の人の所へと思ったら別の冒険者たちが入ってしまった。仕方なく茶髪ショートのお姉さんの窓口が空いたのでそちらに入る。可変戦闘機が出てくるアニメで5人組ユニットのリーダー役だったキャラにそっくりだ。あのキャラ大好きだったんだよね。ちょっとときめいてしまう。ちなみにお胸は可もなく不可もなく。正直エレナの方が大きい。

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

笑顔で尋ねられる。

「はい、彼女と二人でパーティーを組みたいので手続きをお願いします。それと、新職業モンスターテイマーの調査依頼の関係で副ギルドマスターへの取次もお願いします。」

俺がそう告げると受付嬢さんは笑顔で書類を用意してくれた。

「それではこちらの書類に、パーティー名、パーティーリーダーのお名前とご職業、パーティーメンバーのお名前とご職業をそれぞれご記入ください。もしパーティー名が決まっていないなら空欄でも結構です。その間に副ギルドマスターにお2人のことを伝えて参りますので、そのままこちらの席でお待ちになってください。」

そう言って書類を渡すと後ろへと向かって行った。俺はパーティーリーダー、エレナはパーティーメンバーの欄にそれぞれ名前を記入する。

「エレナ、パーティーの名前に関して、何か良い案はない?」

エレナに質問すると難しい顔になる。

「うーん、パーティー名なんて考えていなかったわ。どんなのが良いのかしらね?タカは?何か格好良い名前を考えてあったりしないの?」

逆にエレナに質問される。実は一応は考えてはあるんだよね。

「一応は考えてはある。ヴァンガード (Vanguard)、先頭とか先導者とかって意味なんだ。初めて見つかった技能と職業の2人が組むパーティーにはピッタリなんじゃないかな、と思ったんだけど、どうかな?」

エレナに伝えるとキラキラとした瞳で見つめてくる。ええ?何でそんな目で見るの?

「タカ、凄い。そんな深い所まで考えていたなんて。ヴァンガード、素敵な名前だわ。それにしましょう!」

お、おう。そうかい。気に入ってくれたようなので、パーティー名にヴァンガードと記載する。よし、書類は完成だ。

「タカさん、お待たせしてすいませんでした。今日も朝からご足労頂きありがとうございます。」

いつの間にかカタリナさんが来ていた。おおう、気配を感じなかったぜ。さすが元高位冒険者は違うな。

「カタリナさん、おはようございます。昨日はすっかりお世話になりありがとうございました。エヴリンさんにもどうぞお礼をお伝えください。今日はエレナとパーティーを組むことにしたのでその登録と、モンスターテイマーの調査依頼の方で協力できることはないかの確認で伺いました。今日は私達に出来ることはありませんか?」

カタリナさんにそう告げる。一応はお仕事だからね。

「そうですね。現在はお2人にご協力いただいたデータを基に書類を作っている最中です。何かあればご助力をお願いすることになるでしょうが、今の所は大丈夫です。なので、2~3日お休みいただいても構いませんよ。何かあれば宿の方に使いを出しますので。」

カタリナさんからそう告げられる。でも、ホテルにカンヅメにされても何も楽しくないのよね。

「それならば、馬具を扱うお店を紹介していただけませんか?エレナの従魔になった一角鹿のイスラに乗せる鞍と轡一式が欲しいんです。どこか心当たりはありませんか?」

カタリナさんに尋ねるとニッコリと笑った。

「もちろんありますよ。どうぞお任せください。」

カタリナさんが自信満々に言うので、以前にもらった地図に店の場所を書き込んでもらい、礼を言ってギルドを出た。俺はウォルターに、エレナはイスラにそれぞれ騎乗して地図を見ながら進む。10分ほどで目的の店に着いた。

この店は馬用の道具はもちろん、テイマーの使役する狼や鹿に使える道具も扱っているそうだ。今回の目的にはピッタリだ。俺がウォルターから降りるとエレナも慌ててイスラから降りた。それぞれ隣に従えて店の中に入る。

大きなドアを開けて中に入ると、様々な商品が棚に飾られていた。作業場所も中にあり、作業工程を見る事ができるようになっている。これから自分が買おうとしている物がどうやって作られているのかを確認できるなんて、良い店じゃないか。

「いらっしゃい。どういった御用かしら?」

20代後半くらいのお姉さんが手を止めてこちらに話しかけてきた。赤髪をポニーテールに纏めた美人さんだ。あれだ、「誰がそのシャツを縫うんだい?」で有名な某キャラクターにそっくりだ。もちろんお胸も立派です。

「はじめまして。今日はこの一角鹿に騎乗するための鞍や轡などを一式見繕っていただきたくて伺いました。全くの素人なのでどうかよろしくお願いします。」

俺はそう言って頭を下げた。

「鞍を着けたいのはこの子で、乗るのは私です。何もわからないので、ご面倒をおかけしますがよろしくお願いします。」

エレナもそう言って頭を下げる。お姉さんは笑顔になった。

「任せといて。バッチリ良いヤツを選んであげるわ。その代わり、うちは安売りはしてないからね。覚悟しておいてね。」

そう言うとイタズラっぽい笑顔でウインクしてきた。年上の女性の余裕がある魅力も良いなぁ(笑)。

お姉さんが作業場所から出てきて、俺の作った簡易轡と鐙を手にとってシゲシゲと見つめている。何だろ、何かマズかったかな?

「これ、よく出来てるじゃない。誰に作ってもらったの?」

お姉さんに尋ねられる。まさか褒められるとは思わなかった。

「私です。手持ちのロープで適当に作った物ですが、お褒めいただき嬉しいです。」

そう言うとお姉さんは目を丸くして驚いていた。

「本当に貴方が作ったの?素人とは思えない作りだわ。このままでも充分に使えると思うけど?」

お姉さんはそんな事を言った。いやいや、せっかく買い物に来てるんですから、まずは商品を売り込みましょうよ。

「あくまでも手持ちのロープで簡易に作った物なので、強度と耐久性に自信がありませんし、メンテナンスもできません。やはりしっかりした革や金具で作られた物の方が安心です。それに、鐙は作れても鞍は作れないので、やはり専門家にしっかりと見立てていただいた物で揃えたほうが安全だと思うので、よろしくお願いします。」

お姉さんは、そう言う俺と隣に立つエレナを代わる代わる見てニヤニヤとしだした。

「そうか、使うのはお嬢さんだったわね。そりゃあ大事な彼女に万が一のことがないように、しっかりした物が欲しくなるわけよね。これは責任重大だわ。しっかりと選んであげなきゃね。」

エレナが真っ赤になって俯く。俺も顔が熱くなる。俺は前世でもこう言うのを上手く躱せるほどの恋愛経験は積んでいない。とりあえず黙っているしかないな。

お姉さんはそんな俺たちの反応を一頻り楽しむと、キリリと表情を切り替えて馬具を準備していった。イスラとエレナの体格に合わせて何種類か用意し、実際にフィッティングしていく。かなり細かいところまで調整を繰り返し、何度も試乗を繰り返す。最終的にコレと決まるまで3時間かかった。それから脱着の仕方や手入れの仕方を教わり、手入れ道具なども一緒に購入した。

手入れ道具の中には毛梳きブラシやマッサージブラシも入っていたので、俺もウォルター用に毛梳きブラシとマッサージブラシを買った。マッサージブラシは風呂で身体を洗ってやる時にも良いだろう。ふふふ、これでさらにモフモフだぜ。

全部で金貨2枚と思ったよりも安かった。いや、俺たちが稼げている額が桁違いなだけで、普通に見たら高級品か。この辺の認識は改めないとな。俺のギルドカードで支払い、礼を言って店を出た。もう少しで昼だ。さてどうしよう?

「エレナ、この後はどうする?どこかで昼飯食って宿に戻る?それとも他に何か見たい物や欲しい物がある?」

エレナに尋ねる。

「そうね、お昼を食べたら、この鞍や手綱に慣れるように少し騎乗訓練をしたいわ。冒険者ギルドの練兵場よりも森に出たいんだけど、付き合ってくれる?」

おお、感心感心。そりゃあもちろんお付き合いいたしますとも。

「もちろんさ。僕らはもうパーティーなんだから遠慮しなくて良いよ。じゃあギルドで昼飯食って森に入ろう。どうせ森に入るのなら常設の採取依頼を幾つかを受けようか。」

そう言うとエレナは笑顔で嬉しそうに頷いた。

「ありがとう。よろしくね。」

俺たちは連れ立って冒険者ギルドへと向かった。
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