上 下
88 / 90

088

しおりを挟む

頬を染めて俯いていたエレナが顔を上げて真っ直ぐに俺を見つめてくる。その表情に胸が高まる。これは、もしかするともしかしちゃうのか?

「タカは、いま、気になる女の子とか、いるの?」

必死で絞り出すようにエレナが尋ねてきた。潤んだ瞳からは今にも涙が溢れてきそうだ。特に悪いことはしていないのに罪悪感に囚われる。

「ええ、いますよ。とても素直で可愛らしくて、頑張り屋さんの女の子です。初めて逢った時から、ずっと気になってました。この娘の笑顔を見るには、どうしたら良いんだろう、って。」

そう言うとエレナは悲しそうな顔をして俯く。

「そう、だったんだ。ごめんね。私、タカが想いを寄せる人がいるなんて思ってなくて。こんな風に一緒に食事したり、お買い物に付き合ってもらったり、迷惑だったよね。ごめんね。」

泣きそうな顔で唇を噛み締めている。俺は席を立つとエレナの側に寄って跪いて手を取る。

エレナは驚いた顔で俺を見つめる。何が起きているのか理解できない、と言うような感じだ。

「何で気になる女の子と食事をするのが迷惑なんですか?何で気になる女の子と買い物するのが迷惑なんですか?私は迷惑だなんて一度も思ったことはありませんよ?むしろこうして一緒に居てくれることを嬉しく思っているんです。」

そう言うとエレナは訳が分からないと言うかのように慌てだした。

「あ、あの、タカ、それって、つまりその、私、え?えと、え、どうしよう、どうすれば良いの?」

慌てふためくエレナの手の甲に口づけして改めて告げる。

「私が気になる女性は、エレナ、貴女です。初めて逢った時から、ずっと貴女のことを思っていました。貴女をもっと知りたい、貴女ともっと一緒に居たい、ずっとそう思っていました。

エレナ、私とパーティーを組んでください。そして、これからも一緒に居てください。」

そう言うとエレナの大きな瞳からポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。

「はい、よろしくお願いします。ずっとずっと、一緒にいてください。」

エレナがイスから降りて膝立ちになり、俺に抱きついてきた。俺からも力を入れて抱きしめ返す。しばしお互いの体温を確かめ合うように抱きしめあい、ゆっくりと身体を離すとエレナが目を瞑った。俺はそっとエレナの背に手を回して優しく抱き寄せ、唇を重ねた。柔らかく温かな唇は俺の理性を押し流しそうだったが何とか踏み止まった。

「主、エレナ様、おめでとうございます。これで2人は番になられたのですね。これからはお2人に尽くします。」

ウォルターから念話が飛んできた。盛り上がりすぎて従魔達のことをすっかり忘れてた。慌ててエレナから離れると、エレナも真っ赤な顔を両手で覆っていた。俺も多分真っ赤な顔をしているだろう。火が出そうなくらい顔が熱い。

「せっかく番になったのだから、2人っきりにしてあげましょうか。ウォルター、リリー、あっちの部屋へ行きましょう?」

イスラが変に気を利かせてウォルターとリリーに声をかける。やはり従魔も雌の方が気が利くのか(笑)。

「えーっ、リリーはエレナといっしょにいたーい。もちろんタカもいっしょでいいよ!」

リリーが無邪気な声で言う。うん、お子様にはこの状況は分からないか。

「リリー、エレナとタカは大事なお話をしなきゃならないの。たとえ私たちでも聞いてはいけない話なのよ。これからは頻繁にそういう夜が来るわ。だから、私たちだけで過ごす事に慣れないとね。さあ、行きましょう。」

そう言うとリリーの入ったバスケットを咥えて持ち上げる。ウォルターがレバータイプのドアノブに手をかけてドアを開け、従魔達は従者用の部屋へ行ってしまった。

呆気に取られて従魔達のことを見送っていた俺たちだが、何となく互いの顔を見合って今の状況を把握し、お互いに真っ赤になった。こういうのも据え膳って言っていいのか?と言うか、この場合据えられてるのは俺か?エレナか?どっちだ?

「あ、あの、私、タカが望むなら、良いよ?」

エレナは真っ赤になりながら俯き加減で言う。もうこれ以上は無理だ。我慢できん。俺は優しくエレナの肩に手をおく。エレナはビクリと身体を震わせて俺に目を合わせてきた。

「エレナ、正直に言う。私はエレナが欲しい。でも、私たちはまだ未成年だし、冒険者にも成り立てだ。しかもこれからパーティーを組もうとしているのに、妊娠してしまったら活動できなくなってしまう。だから最後まではしない。」

そう言うとエレナがキョトンとした顔で言う。

「タカ、避妊魔法を知らないの?そっか、お父さんと暮らしてたって言ってたもんね。あのね、魔法で1年間生理を止めることができるの。これは冒険者が生理痛で活動できなくなったり、依頼中に生理になってしまったり、血の匂いで動物や魔獣を呼び寄せることを防ぐための魔法なんだけど、生理を止める事によって当然妊娠もしなくなるの。冒険者ギルドと連携した治療所で銀貨10枚でかけてもらえるのよ。しかも、行為をしてから1週間以内にかけて貰えば大丈夫なんだよ。だから、今したとしても、明日治療所で避妊魔法をかけて貰えば問題ないんだよ。」

エレナから衝撃的な事実を明かされた。そんな便利な魔法があったとは!いやいやそうじゃない。それは将来的には使うかもしれんが、今はまだ早いんだっての。

「エレナ、確かにそう言う魔法があるのなら心配は減るけど、私たちはまだ未成年だ、という事も忘れてはいけない。それに出逢ってからまだ日も浅い。もっとお互いの事を分かり合ってからするべきではないかな?」

エレナにそう告げるとエレナは悲しそうな顔をする。

「私だってタカの事を欲しいんだよ?お互いに同じ気持ちなんだから、求めあったって良いじゃない。どうして?」

潤んだ瞳で見つめられてもう我慢も限界だ。俺は身体強化を使ってエレナをお姫様抱っこした。

「キャッ!タカ、急にどうしたの?」

エレナが首にしがみつきながらそう言う。その唇にキスを落として告げる。

「エレナ、俺はもう限界だ。エレナが欲しくて堪らない。でも、絶対に最後まではしない。それは互いに成人してからだ。だから、違う方法でエレナを貰う。エレナは全て俺に任せて身を委ねて欲しい。良いね?」

そう言うと、エレナは真っ赤な顔で頷いた。俺はエレナをお姫様抱っこしたまま寝室へと向かう。そしてこの日が初めてこの宿のベッドを使った日になった。




翌朝、いつも通り5時に目覚める。エレナは俺の左手を枕にし、俺に抱きつくようにして横になり眠っていた。何も身につけていないので、ダイレクトに柔らかな双丘が当たっている。優しく左手を頭に回しておでこにキスをした。

「エレナ、朝だよ。起きて身支度しないと、朝食が来ちゃうよ。」

そう声をかけるとエレナが目を覚まし、真っ赤な顔で抱きつき俺の胸に顔を埋めた。

「あまり時間がない。さっとシャワーを浴びて服を着てしまおう。さ、急いで。」

エレナを促し服を持って風呂場に向かう。シャワーを浴びて汗やら何やら色々なものを洗い流して身体を綺麗にした。身体を拭いて着替えてから従魔達を呼び、風呂場で用を足させて収納してトイレで処理をし、自分たちも用を足す。エレナが一緒なので今日はポーション作成は無しだ。

一息ついたところでベルが鳴った。ドアを開けボーイ達を迎え入れ、洗濯物を受け取って朝食をセッティングしてもらう。従魔達の食事もセットされ、ボーイ達が出ていったので席に着く。

「さあ皆んな、食べよう。いただきます。」

そう声をかけて皆で食事を始める。昨晩の行為のおかげで腹ペコだった俺とエレナはいつもの倍の量のパンを食べてしまった。

「エレナ、きょうはいっぱいたべるね!リリーもまけないから!」

リリーのそんな言葉に頬を赤らめるエレナ。その表情が可愛くて元気になってしまいそうなのを必死で宥めながら食事を進める。フルーツもいつも以上に食べて、残ったパンとフルーツを収納し、お茶を入れる。

「エレナ、今日はギルドに顔を出して、問題がなければイスラの鞍を見に行こう。轡なんかもちゃんとした物に変えた方がいい。パーティー結成祝いにプレゼントするよ。」

お茶を飲みながらエレナにそう言うと嬉しそうに頷く。

「ありがとうタカ。お言葉に甘えるわ。これからパーティーメンバーとして頑張って恩を返すからね。」

律儀な子だな。パートナーとして選んで良かった。良いタイミングなので収納から時間経過1/10のマジックバッグを取り出す。ウエストポーチ型の方には魔道具も入れてある。

「エレナ、これもプレゼント。どちらも時間経過が1/10の物だよ。ウエストポーチ型は馬車2台分の物で自分の荷物用に、ヒップバッグ型は馬車10台分の物で採取物や獲物を入れるのに使って。たとえパーティーでも荷物を1人で全て持ってしまうと、万が一の時に困るからね。ウエストポーチ型の方には2口の魔道コンロと中型の魔道ランプ、中型魔獣避けが入ってる。もし万が一逸れたりした時に使って。鍋やフライパン、食器なんかは持ってるよね?もしなければ買い足そう。他にも気付いた物があったら言ってね。これからパーティーとして活動するには装備を充実させないといけないからね。」

エレナは目を丸くして驚いている。まさかこんな物を渡されるとは思っていなかったのだろう。驚いた顔も可愛いね。

「えと、あの、これ、いつの間に用意してたの?あの魔道具屋さんでは何も買ってなかったよね?」

いやいや、貴女が気付かなかっただけです。

「エレナとエヴリンさんが2人で盛り上がってる隙に買っておいたんだ。初めて同じ技能と職業を得た大事な仲間にプレゼントしようと思って。」

そう言うとまた頬を染める。いちいち可愛い顔されるとこっちも困る。理性が保たない。

「そろそろギルドでの検証作業なども終わると思う。そうなると当然ここへの宿泊は終了になる。その対策としてもマジックバッグは必要でしょ?とりあえず荷物は全てマジックバッグに入れておいてほしい。そうすれば身軽に行動できるからね。」

エレナに告げると大きく頷く。

「分かったわ。じゃあ部屋に戻って着替えてくるね。依頼を受ける前提で良いのよね?」

エレナはそう言うと残っていたお茶を飲み干して、マジックバッグを手に自分の部屋へと戻って行った。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

本一冊で事足りる異世界流浪物語

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:1,192

グレート・グランド・マム ~私を溺愛する悪役令嬢は転生者らしい~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:1

第九王女と中年騎士 左遷された王国最強戦力の田舎領地暮らし

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:24

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,203pt お気に入り:3,063

【完結】勇者パーティーの裏切り者は、どうやら「俺」じゃないらしい

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:58

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:134pt お気に入り:224

処理中です...