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宿に到着し、馬車から降りてエヴリンさんと別れる。エヴリンさんは馬車の窓から顔を出し、元気良くブンブンと手を振って帰って行った。エレナも負けじと手を振り返していた。今生の別れでもあるまいに(笑)。

フロントで鍵を受け取り、エレナに声をかける。

「エレナ、買って来た物の整理もしたいでしょう?夕食は何時にしますか?」

エレナはピンと立てた人差し指を頬に当てて考え込む。無意識でやってるんだろうなぁ。きっと女の子には可愛いの遺伝子が流れてるんだね。

「そうね、少し整理したいから、9時にお願いしても良いかな?」

そう言ってコテンと小首を傾げる。いちいち可愛いなおい!勘弁してくれ!

「分かりました。すいません、食事は9時に、私の部屋に運んでください。私の分はエールの小樽を、彼女の分は『今日はワインで!』・・・だそうです。エレナ、朝食はどうします?」

横から被せるようにエレナがワインを頼んだ事にちょっと驚いた。今日は色々楽しかったから、ワインで気持ち良く酔って良い夢を見たい、と言う感じなのかな。

「朝食は時間も場所もいつも通りで良いわ。」

エレナが答える。

「では朝食は6時に私の部屋にお願いします。」

フロントにお願いして皆んなで階段を上りそれぞれの部屋に戻る。

「じゃあ後でね!」

エレナが手を振りながら部屋に入っていった。大分打ち解けてきたのは間違いないが、それにしても随分とご機嫌だな。きっとお買い物とエヴリンさんとの女子会が楽しかったのだろう。楽しめたなら良かったよ。

俺は部屋に入り、ウォルターと共に水を飲むと風呂の準備をした。今日買ったばかりの下着と部屋着を脱衣所に出し、靴を編み上げサンダルに変える。うん、楽で良い。

酒棚にある火酒を飲みながら湯が溜まるのを待つ。最近お気に入りのウィスキーっぽいやつだ。樽で熟成していないから荒々しさが強いけど悪くない味だ。ウォルターもすっかり寛いでいる。

風呂に湯が溜まったのでウォルターと一緒に入る。全身洗って湯船に浸からせ、ウォルターが温まっている間に自分の身体と頭を洗う。ウォルターが上がるのに合わせて脱衣所に盥を出してタップリと水を注いでおく。ウォルターは身体を拭いてやらなくても自分でブルブルと身体を震わせて乾かすので楽で良い。

ウォルターを上がらせてノンビリと湯船に浸かる。思い切り伸びをして頭を浴槽の縁に載せ、プカリと身体を浮かせる。ふう、良い気持ちだ。

存分に温まったら収納の中の物の汚れを排水口に捨て、風呂の湯を抜く。身体を拭いて新しい下着と部屋着に着替え、サンダルをつっかける。袋を出して脱いだ服を入れて洗濯に出す準備をしておく。ウォルターに出した盥を収納する。

リビングに戻り、カップとナルゲンボトルを出して冷たい水を飲む。風呂上がりの冷たい水は美味いねぇ。ついついお代わりした。

ふと思いついてネットショッピングを立ち上げてインスタントスープとスティックコーヒーを買い込む。どちらも前世で非常食としてリュックに入れていた分しか無かったから、もう在庫が無くなりそうだったからね。ついでに炭酸飲料やスポーツドリンク、エナジードリンクなども買い込む。

乾パン、長期保存用羊羹、長期保存ドロップ、長期保存クッキー、長期保存野菜ジュースなども買う。この辺は半分趣味だね(笑)。他にもレトルトやフリーズドライの非常食を山ほど買う。もちろんインスタントラーメンやカップそばなども大量に買う。温めるご飯もだ。それからカレーの素やシチューの素なども買う。いろいろな鍋のレトルトスープなども買う。顆粒だしや中華だし、香味ペースト、各種薬味チューブ、粗挽き塩胡椒やハーブソルト、ガーリックソルトなども買い込む。同時に収納に「異世界食材」「異世界調味料」のフォルダーを作る。購入すれば自動的にフォルダー分けされるだろう。どんどんカートに入れて精算する。うん、上手く振り分けられたようだ。

ネットショッピングを終えて、今度は異世界ショッピングを立ち上げる。カイルさんに金貨を50枚送金し、40枚はレストランの開業資金に使ってもらうように告げ、各弾薬を二千発ずつ頼む。これで俺の専属になって貰えるだろう。

「これでレストランを始めれば、表向きは引退したように見せかけて私の専属になっていただけますよね?私もその方が安心ですから。」

しきりに恐縮するカイルさんにそう告げる。もしカイルさんが捕まったり何者かに害されたりしたら、困るのはこっちだからね。俺の専属になってもらった方がこちらとしても都合が良いのだ。win-winってね。

異世界ショッピングを終了し、寛いでいるとベルが鳴った。エレナだろう。ドアを開けると、涼やかな水色のミニ丈ワンピースで身を包んだエレナが立っていた。大きな胸が挑発するかのようにワンピースを持ち上げ、裾から見えるムチムチした太ももが艶かしい。思わずゴクリと生唾を飲んだ。ヤバい、理性が吹っ飛びそうだ。

「ごめん、あまりにも可愛くて見とれてしまった。すごく似合ってるよ。どうぞ入って。」

何とか声を絞り出してエレナたちを招き入れ、テーブルへとエスコートする。イスを引いてエレナを座らせるとベルが鳴った。ドアを開けるとボーイたちが入ってきて、テキパキと食事をセッティングしていく。

セッティングが終わったところで洗濯物を渡し、明日の朝食と一緒に持って来てもらうようにお願いする。

「そういえば昨日もお洗濯を頼んでたよね。そんなサービスがあるなんて知らなかった。私も明日頼もうかな。」

エレナがそう言った。うんうん、利用できるサービスはどんどん利用すべきだ。

エレナのグラスにワインを注いでやり、乾杯して食事を始める。今日の夕食も実に美味しい。昼間の買い物や高級酒場の話などをしながら和やかに食べ進めていく。エレナは酒に強いようで、ワインを何度もお代わりした。グラスを干す度に頬が赤らみ、瞳が潤んでいく。スゴく色っぽい。これは本当にヤバい。耐えるんだ俺!

食事を終え、余ったパンとフルーツを収納してテーブルを片付けてワゴンを廊下に出し、木の実とドライフルーツの蜂蜜がけを作ってエレナに出してやるととても喜んだ。スゴく良い笑顔で食べていく。プルプルとした唇が木匙を咥える度に邪な思いが浮かぶ。これはいよいよ娼館に行かないとダメだな。何時までやってるんだろう?

そんな事を考えていると、エレナが俺を見つめながら口を開いた。

「ねえ、タカに聞きたい事があるんだけど良いかな?」

潤んだ瞳で見つめられると胸が高鳴る。

「何でしょう?何でも聞いてください。答えられる事なら良いんですが。」

そう答えるとエレナはクスリと笑った。

「じゃあ1つ目。タカはこのまま王都で冒険者を続けるの?」

エレナからそう聞かれる。

「しばらくはこの街で冒険者を続けようと思っています。ですが、この街に骨を埋めるかどうかは分かりません。せっかく冒険者になったのだから、他の国に行ってみたいという気持ちもあります。」

自分の今の気持ちを素直に答える。どうせなら色々な国を回ってみたい気持ちはあるのだ。

「そっか。他の国に行ってみたいんだ。それも良いね。色んな国を回ったら楽しそうだね。

じゃあ2つ目、誰かとパーティーを組む気はある?」

パーティーか。正直、ウォルターと2人で充分なんだよな。

「パーティーについては今のところは考えていません。エレナも知っている通り、私はウォルターに乗せてもらって移動するのが基本なので、普通の冒険者とは移動速度が違いすぎます。それに魔道具の事もありますし、正直に言えば余程の相手でなければ難しいと思います。」

これについても正直な気持ちだ。

「そう言われたら確かにそうよね。私もイスラに乗せてもらって移動するようになったら、他の冒険者とは組み辛いかも。でも、私の力ではイスラと2人きりは無理だよなぁ。」

エレナがそうぼやく。だが、俺はそうは思わなかった。

「エレナ、冒険者の仕事は討伐だけではありません。採取だってあります。イスラに乗せて貰えば森の深いところで採取が出来るので、かなりの稼ぎになるはずです。それに、イスラのスピードなら大抵の魔獣からは逃れる事ができるでしょう。充分にやっていけると思いますよ。何なら自信がつくまで私と臨時でパーティーを組みますか?私は構いませんよ。」

エレナにそう告げると、嬉しそうに微笑んだ。

「良かった。実は3つ目の質問は、『私がパーティーを組んでって言ったらどうする?』だったの。でも2つ目の質問でパーティーを組む気は無いって言われちゃったから、どうしようかと思ってたんだ。ありがとう。」

なるほど、そういう事だったか。

「エレナは私以外で初めてビーストテイマーになった人ですからね。私にとっては特別な、大切な人です。心配しなくて大丈夫ですよ。」

そう告げると頬を染めて俯いた。ありゃ、これはまたやらかし案件か?



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