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宿に戻った俺たちは、1時間後に夕食を頼み風呂に入る。もちろんウォルターも一緒だ。

汗を流してサッパリして、ウォルターと寛いでいるとベルが鳴った。食事が届いたのだろう。

ドアを開けボーイたちを招き入れ、食事をセッティングしてもらう。帰り際に朝食を6時に頼んでおく。

ウォルターは大きな鳥が2羽と内臓だ。飽きないように毎回違う肉を出してくれている。感謝だね。

俺の方は大きなマスのソテー、小魚の酢漬けの盛り合わせと刻んだ香味野菜の盛り合わせ、鹿のステーキ、根菜の炒め物、マッシュポテト、ブロッコリーとニンジンを茹でた物、ジャガイモのチーズ焼き、豆とトマトのスープ、生野菜のサラダ、色々なフルーツを賽の目にカットして混ぜ合わせたフルーツサラダ、山盛りのフルーツと山盛りのパンだ。

火酒とワインを飲みながら美味しくいただいて、余ったパンとフルーツを収納し、食べ終えた食器をワゴンに乗せて廊下に出す。

寝室へ行きベッドに横になるが、やはりふかふかすぎて身体が沈み込む感覚が受け入れられず、今夜も毛布だけを引っ張り出してウォルターと共に床で寝る。




翌朝は5時頃目が覚めた。ウォルターと共に冷たい水を飲み、歯磨きと洗顔をして、風呂場でウォルターに用を足させて収納、トイレで処理すると共に自分も用を足す。

ポーションを作成して収納し、寛いでいるとベルが鳴る。ドアを開けてボーイたちを招き入れ、朝食をセッティングしてもらう。

ウォルターは鹿と内臓だ。あのレバー美味そうだな(笑)。

俺の方は肉のパテ、酢漬けの魚に付け合わせの細かく刻んだ野菜類、何種類ものジャム、蜂蜜、バター、コールスローのように生野菜を細かく刻んで混ぜ合わせたサラダ、沢山のフルーツ、ヨーグルト、そして山盛りのパンだ。

美味しくいただき、ジャムとバター、余ったフルーツとパンを収納する。

20日くらいは食べていけそうな量のパンとフルーツが収納に入ってる。昼飯はこれを食うことにしよう。

収納から装備を一式出して身に着ける。部屋から出て鍵をかけ、フロントに向かう。

フロントに鍵を預けて冒険者ギルド本部へ向かう。狩り場を確認するためだ。ウォルターの背に乗り走らせる。

冒険者ギルド本部へ着くと多くの冒険者で賑わっていた。今日の依頼を確認しているのだろう。

俺の他にも犬や狼を連れたテイマーらしき冒険者がいたが、ウォルターを見てギョッとしている。そりゃそうよね。デカさが違うもん(笑)。

冒険者にテイムされている犬や狼たちは、ウォルターを見るなりひっくり返って腹を見せる。服従のポーズだ。

動物は力の見極めに優れてるからね。まあ、これだけ体格差があれば嫌でも力の差は分かるだろ(笑)。

俺は新規登録・相談窓口に向かう。昨日の赤髪爆乳お姉さんの窓口が空いていたのでそこに行く。

「昨日はありがとうございました。おかげで美味しい物を食べる事が出来ました。」

そう礼を言うと笑顔を返してくれる。

「そうですか。お役に立てて良かったです。本日はどのようなご用件でしょうか?」

お姉さんに尋ねられる。

「はい。今日は狩りと採取に出ようと思っているので、狩り場を教えていただきたいんです。よろしくお願いします。」

そう言って頭を下げる。

「そうですか。狩りも採取も北門を出て、畑と草原を越えて森に入れば大丈夫ですよ。

ヴェテランクラス以上になると、大物狙いで西か東に大きく回り込む人たちもいますが、まずは無難に北の森を目指すのをオススメします。

草原で野うさぎやハーブを狙うのも良いですよ。」

丁寧に教えてくれる。

「ありがとうございます。まずは北の森を目指してみます。行ってきますね。」

そう言って一礼し、席を立つ。

「行ってらっしゃい。お気をつけて。」

笑顔で手を振りながら見送ってくれた。

ウォルターの背に乗り北門を目指す。すでに何人もの冒険者たちが並んでいる。俺もウォルターに跨ったまま最後尾に着く。

「おう、見ない顔だな。新人か?それともどっか別の町から来たのか?」

前に並ぶ若い冒険者から声をかけられる。

「はい、ポルカ村からやって来ました。タカと言います。よろしくお願いします。」

ウォルターから滑り降りて挨拶する。

「それにその狼の魔獣はすげえな。角が3本なんて見た事ないぜ。一体どうやってテイムしたんだ?」

うん、当然の疑問だよね。

「実は生まれたばかりの赤ちゃんの頃に拾って育てたんですよ。おかげですっかり懐いてくれたんです。今では大切な家族です。」

そう答えておく。

「そうか。確かに子供の頃から飼い慣らしてテイムする奴が多いからな。魔獣も一緒って事か。俺も一角狼の子供でも探そうかな?」

若い冒険者がそんな事を言う。

「おいおい、一角狼の群れを相手にするなんて勘弁してくれよ。まして子供を狙うなんて命がいくつあっても足りないぜ?やるなら1人でやってくれよ?」

パーティーメンバーからそんな声がかかる。仲が良いんだな。

すっかりパーティーメンバー同士の会話になったので、何食わぬ顔で後に着いて進む。俺の後ろにどんどん冒険者が並んでいく。

俺の番になったので冒険者タグを受付の衛兵に渡す。

「狩りと採取で北側の森に入ります。」

そう告げると冒険者タグに藁半紙を乗せて墨で擦り、手早く記録を取る。

「新顔だな。無茶はするなよ?草原でも充分に稼げるからな。」

そう声をかけてくれる。衛兵ってもっと嫌な奴が多いと思ってたけど、基本的に良い人ばかりだな。

「ありがとうございます。気をつけて行ってきます。」

ぺこりと一礼し、ウォルターに跨って走らせる。あっという間に前を歩く冒険者たちを追い越し、畑を抜けて草原に入った。

ここでウォルターに声をかけて大きく西へ回ってもらう。クリスヴェクターとH.C.A.R.の試射のためだ。あまり他人に見られたくないからね。

気配察知と索敵で周囲を伺うが、俺を中心に半径1km以内には小動物しかいないようだ。よし、ここで大丈夫だな。

俺は収納を利用して地面を3m四方の大きさで切り取り、空いた穴の手前に収納した地面を出す。以前に収納しておいた薪を何本か埋め込み的にする。

クリスヴェクターを収納から取り出し、レバーを引いて初弾を込める。

まずは10mで3発撃ちこむ。若干右に逸れるので調整してもう3発撃ちこむ。うん、左右のズレはこれでOKだ。

続いて20m、30m、40m、50mと10m刻みで距離を離しながら撃ち込み、弾着を見ていく。

100mまで下がって弾着を確認し、50mの所に戻って照準を調整する。そこからまた10mまで戻り、また10m刻みで弾着を確認していく。

距離による着弾位置を覚えこみ、マガジンを外して弾を抜き、新しいマガジンに替えて収納する。

H.C.A.R.は500mから始め、50m刻みで1,000mまで下がる。そこから500mまで戻り、100mまで50m刻みで近づきながら撃ち込み、着弾位置を確認する。よし、OKだ。

マガジンを外して弾を抜き、新しいマガジンに替えて収納する。土嚢代わりにした切り取った地面を収納して元の場所に戻し、ウォルターに跨って森へと入る。

徒歩では1日では入ってこれない深さまで森に入り込み、ウォルターに自由に狩りをしてもらい、俺はアイに頼んでARを展開してもらい採取に励む。

ここも植生が濃く、様々な山菜、ハーブ、キノコ類、果物、木の実が表示される。どんどん採取しながら気配察知と索敵をかけ、獲物も同時に探す。

すると遠くから結構なスピードで近づいてくる集団が索敵に引っかかった。一匹の中型動物を違う動物の集団が追っているようだ。

狼の狩りかな?このままこっちに向かってくるならそのまま狩るか。

俺はH.C.A.R.を取り出して初弾を込める。進路を予測して少し開けた場所に移動して待ち構える。

「アイ、AR展開。狼を映し出して。」

アイに指令を出す。

「了解しましたマスター。狼を表示します。」

ARに狼のシルエットが表示される。全部で8頭。ほぼ正面からくる。大きく息を吸い込んで止める。

木々の間から飛び出してきた一角鹿は大きくジャンプした。それを追って駆けてくる一角狼の群れも飛び出してくる。

ARで出てくる場所は分かっていたので、予めある程度の狙いをつけていた俺は、次々と姿を現す獲物に向けて引き金を引く。

バキンッ!バキンッ!バキンッ!バキンッ!バキンッ!バキンッ!バキンッ!バキンッ!

サプレッサーのおかげで銃声は抑えられ、機関部が動き薬莢を排出する音だけが響く。4頭は頭を撃ち抜かれて即死、2頭は心臓を撃ち抜かれて即死、残る2頭は心臓をわずかにそれて胴体を貫かれ、キャインキャインと鳴きながらのたうちまわっている。

俺はゆっくりと近付き、火涼天翠で首を切ってトドメを刺した。まるで室温で柔らかくなったバターを切るように、何の抵抗もなくスルリと刃が入ったのには驚いた。さすが一流のナイフメイカーが作ったカスタムナイフだ。

火涼天翠を大きく振って血を飛ばし、一角狼の毛皮で拭いて鞘に戻し、倒した一角狼を収納する。

H.C.A.R.はマガジンを外して弾を抜き、新しいマガジンと交換して収納する。

その後も採取を続けながら一角キツネ、一角ウサギなどの獲物を狩っていく。

近距離だったのでクリスヴェクターを使った。これで手持ちの銃は全て狩りに使ったことになる。

太陽が中天に差し掛かる頃、ウォルターが現れた。

「主、獲物を纏めてありますので回収をお願いします。」

「分かったよウォルター。乗せてって。」

そう声をかけて背に跨る。ウォルターが軽快に走り出す。

5分ほど走ると小さな池があり、その畔に獲物が山積みになっていた。中には5mを超える一角グマもいる。すげえなウォルター。

「ウォルター、よくこんなでかいクマを倒したね。すごいよ。」

そう言ってワシャワシャと撫で回してやる。

「今日は魔法を使って狩りをしたので少し疲れました。でもそのおかげで魔法の威力が上がりましたし、新しい魔法も覚えられました。」

ウォルターも色々考えながら狩りをしているのね。

「偉いぞウォルター。これからも頑張ってくれな。さあ、好きな獲物を選びな。昼飯にしよう。」

そう声をかけて盥を出し、水を入れてやる。俺もカップを出して水で満たす。

ウォルターが大きな一角ウサギを引きずり出したので残りの獲物を収納し、パンとジャムを取り出してシャムサンドを作る。

「さあ食べようウォルター。いただきます。」

ジャムをたっぷり塗って二つ折りにしたジャムサンドをムシャムシャと食べる。ウォルターも一角ウサギの腹にかぶりついている。

俺はジャムサンドを2つ平らげた。もう1つくらい食えそうだったが、腹八分目で止めておく。

ウォルターは頭を残して綺麗に食べていた。魔石はちゃんと残してある。顔を綺麗にしながら水を飲み、今は毛繕いをしている。

俺は出したものを全て収納し、一角ウサギの角を火涼天翠で抉り取って魔石と角だけ収納した。

地面を1m四方で収納し、空いた穴に回収した獲物の余分な血液と弾丸を取り出して捨てる。

H.C.A.R.とクリスヴェクターの汚れと盥などの汚れも一緒に取り出して捨て、ついでに一角ウサギの頭も放り込み、収納した地面を元通りに戻す。

食休みしながらH.C.A.R.とクリスヴェクターの使用したマガジンに弾を込めて収納する。

30分ほど休んだのでウォルターに声をかける。

「ウォルター、今日は魔法をいっぱい使って疲れただろう。依頼も確認したいからまだ早いけどアガリにしよう。」

ウォルターはすぐに返事をよこす。

「かしこまりました主。では参りましょう。」

俺がウォルターの背に跨るとすぐに走り出した。

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