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商業ギルドは冒険者ギルドの3倍くらいの大きさだった。周囲には大きな倉庫が幾つも並んでいる。すごい迫力だ。
中に入ると大勢の人がいた。これだけの街を維持するためには膨大な量の物資が必要になる。当然出入りする商人の数も莫大になるわけだ。
俺はウォルターの背に乗ったまま相談窓口と書かれた窓口へ向かう。危険がない事を示すにはこれが一番だと思ったからだ。
窓口に着くと受付嬢が引き攣った顔で迎えてくれた。ごめんね驚かせて。
俺はウォルターの背から滑り降りてウォルターを伏せさせた。
「すいません、幾つか紹介していただきたいお店があるのですがお願いできますか?」
そう言うと受付嬢が不思議そうな顔をした。
「紹介して欲しいお店ですか?具体的にはどのようなお店でしょう?」
そう尋ねられる。
「はい、携帯食を作っているお店と、バターを作っているお店、ラードを作っているお店、火酒を作っているお店です。
出来れば作業を見学をさせてもらいたいのですが、王都にはありませんでしょうか?」
そう聞いてみる。
「ある事はありますが、どこも職人が作業している所は見学できませんね。それぞれ秘伝の技術がありますので。」
うーん、そう言われれば確かにそうか。もっと考えれば良かった。
「仰る通りですね。申し訳ありません。それでは、新しい商品を作った場合、具体的に言うと食品なんですが、商業ギルドに製造方法を販売する、という事は可能ですか?」
レシピの登録や販売が可能かどうか確認する。
「そうですね。審査を受けてもらい、合格すれば買取可能です。ギルドから製造者へ販売した件数で手数料が入ります。なので、よほど人気が出るようなものでないと大きな儲けにはなりません。ですのでご自分で商売を始められた方がよろしいかと思いますよ?」
まあ確かにそうだよね。しょうがない。直接売り込みに行くか。
「ご親切にありがとうございます。考えてみます。携帯食を作っているお店だけ紹介していただけませんか?お話だけでもしてみたいんです。」
そう言うと受付嬢は一軒のお店を紹介してくれたので、礼を言って商業ギルドを出た。
教えられた道を進むと、大きな煙突がある建物が見えてきた。ここだろう。家の裏に窯があるようだ。
とりあえずドアをノックするが返事はない。裏へ回ると夫婦が作業中だった。
「すいません」
と声をかける。
「はい、どちら様?」
女性の声が返ってきた。40手前くらいのスレンダーな女性だ。
「突然お邪魔してすいません。私は冒険者のタカと言います。こちらで携帯食を作っていらっしゃると聞いて伺いました。少々お話をお聞かせいただけませんでしょうか?」
そう声をかける。
「確かにうちで携帯食を作ってるけど、個人への販売はやっていないの。そうじゃないならどんなご用事かしら?」
小首を傾げてそう尋ねてくる。
「はい、新しい携帯食の提案です。話だけでも聞いていただけないかと思いまして。」
そう言うと笑顔になる。
「面白い子ね。良いわ。せっかく来たんだし、話くらい聞いてあげる。良いわよねあんた?」
そう言うとご主人が頷く。
「もうすぐ箱入れが終わるから待っててね。」
そう言って二人で作業をしていく。昔の握り飯のように、焼きあがった携帯食を大きな乾燥した葉で包み、木箱に収めていく。
全て収めるとご主人が木箱を持ち上げ、家の中へと運んでいく。
「貴方もいらっしゃい。狼さんはそこで待っててね?」
奥さんからそう言われ、ウォルターはペタリと伏せた。
「お邪魔します。」
そう言って中に入らせてもらう。居間にはテーブルが一つあり、イスが4脚置かれている。
「座ってちょうだい。今お茶を出してあげるわ。」
奥さんはそう言ってキッチンへ向かう。ご主人も奥から出てきてイスにかける。すぐに奥さんがお盆にカップを乗せて持ってきた。
「うちは火を扱う仕事だから、お茶は水出しなの。珍しいでしょ?」
そう言ってカップに口をつける。俺とご主人もお茶を口にする。お湯で入れたものより香りは弱いが、あっさりとした飲み口は悪くない。
「美味しいです。」
そう言うとニッコリと微笑んだ。
「新しい携帯食を考えたってことだが、どんな物なんだ?」
ご主人が口を開く。俺は収納から携帯食を一つ取り出した。
「こちらで作っている携帯食はこれと同じような感じでしょうか?」
ご主人に尋ねる。
「ああ、そうだな。塩の分量や麦の比率は分からんが、ほぼ同じだ。」
ご主人が答える。
「作り方は穀物を挽いて粉にした物に塩水を加えて練り、そこに荒く砕いた穀物を加えて混ぜ合わせ、さらに塩をまぶして焼いて乾燥させる、という感じで合ってますか?」
と尋ねると、ご主人が少し驚いた顔をする。
「ああ、その通りだ。混ぜる比率は製作者によって違う。それによって味も変わってくる。うちの携帯食はなかなか評判が良いんだ。」
ご主人が答える。なるほど、食べてみたいもんだ。
「携帯食はこのまま食べるのが当たり前の物ですが、一手間加えて美味しく食べられるような物が作れないかと思い伺ったんです。
具体的には、乾煎りした麦を砕かずに、練った生地にたっぷりと混ぜて焼いてみてはどうかと思うんです。
麦は乾煎りしてあるのでもちろんそのまま食べても大丈夫ですし、カップに入れて水を加えて煮れば麦粥のような物になるのではないかと思うんです。
練った生地は水に溶けてトロミを出すとともに塩味を出します。乾煎りした麦は水分を吸いやすいのですぐに煮えます。どうでしょうか?」
そう言うとご主人が腕組みをして考え出す。
「ふむ、面白いかもしれんな。練った生地の量と麦の比率が問題だな。あとは値段か。普通の携帯食よりも高くしないとならん。それと、本当に売れるかどうか、だ。」
ご主人が悩んでいる。
「そうですね。ですが美味しい物を食べたいと思う気持ちは誰もが持っているはずです。きっと売れると思います。」
そう言うとご主人が頷く。
「そうだな。携帯食を美味く食べる方法を考えるのも俺たちの仕事だな。暇を見て試作してみるか。」
そう言ってくれた。うん、成功だ。
「ありがとうございます。私も冒険者なので、野営の時に美味しい物が食べられるようになるのは嬉しいです。
それと、全く新しい携帯食の案もあるのですが、聞いていただけますか?」
そう言うとご主人は頷く。
「面白い。聞かせてもらおう。」
うん、良い人だ。
「炒り麦と乾煎りして適当な大きさに刻んだ木の実とドライフルーツを混ぜ合わせます。どちらも3~4種類くらい入れてください。
それに蜂蜜をかけて混ぜ合わせ、全体が纏まったら縁のある鉄板に詰めて窯で焼きます。時間は10~15分くらいで良いと思います。
焼きあがったら窯から出して冷まし、食べやすい大きさに切り分けて、乾燥させた豆を炒ってから挽いて粉にした物を塗して出来上がりです。シリアルバーと言います。
混ぜ合わせた木の実の食感と、ドライフルーツと蜂蜜の甘さはクセになると思います。甘い物は疲れを取り、気持ちを和らげます。きっと売れると思います。」
そう言うとご主人は感心したように頷く。
「若いのによくそんな事を思いつくもんだ。でも、俺なんかにそんな事を教えて良いのか?お前さんには何の得にもならんだろう?自分で作って売ったほうが良いんじゃないか?」
俺は答える。
「私は冒険者として生きていきたいので、商売を始める気はありません。なので、誰か作ってくれる人を探していたんです。
もしこちらで作って販売していただけるなら、僕自身が助かります。ぜひ検討してください。よろしくお願いします。」
そう言って頭を下げる。
「あんた、作ってみましょうよ。特に木の実とドライフルーツのやつは、冒険者や旅商人だけじゃなく、一般の人にも売れると思うわよ。仕事の合間とか、ちょっとした時間に手軽に食べられるんですもの。きっと人気が出るわ。ね、やりましょう?」
そう言う奥さんにご主人が笑顔で頷く。
「そうだな。新しい物に挑戦するのも面白いな。やってみるか。」
笑顔の二人に頭を下げる。
「ありがとうございます。私の考案した携帯食が食べられる日を楽しみにしています。よろしくお願いします。」
礼を言ってお暇する。ご夫婦は揃って手を振って見送ってくれた。
それから一ヶ月後、新しい携帯食が販売されると爆発的な人気が出た。
特にシリアルバーの方は、冒険者や旅商人だけでなく貴族がおやつ代わりに食べるようになり、どんどん人気が高まっていった。
当然他の工房も真似をし、独自のアレンジを加えて売り出すようになり、様々な携帯食とシリアルバーが販売されるようになっていった。
のちにあまりの種類の多さと人気の高さに、携帯食とシリアルバーだけを扱う専門店まで出来るのだが、それはまた別の話。
中に入ると大勢の人がいた。これだけの街を維持するためには膨大な量の物資が必要になる。当然出入りする商人の数も莫大になるわけだ。
俺はウォルターの背に乗ったまま相談窓口と書かれた窓口へ向かう。危険がない事を示すにはこれが一番だと思ったからだ。
窓口に着くと受付嬢が引き攣った顔で迎えてくれた。ごめんね驚かせて。
俺はウォルターの背から滑り降りてウォルターを伏せさせた。
「すいません、幾つか紹介していただきたいお店があるのですがお願いできますか?」
そう言うと受付嬢が不思議そうな顔をした。
「紹介して欲しいお店ですか?具体的にはどのようなお店でしょう?」
そう尋ねられる。
「はい、携帯食を作っているお店と、バターを作っているお店、ラードを作っているお店、火酒を作っているお店です。
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そう聞いてみる。
「ある事はありますが、どこも職人が作業している所は見学できませんね。それぞれ秘伝の技術がありますので。」
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「仰る通りですね。申し訳ありません。それでは、新しい商品を作った場合、具体的に言うと食品なんですが、商業ギルドに製造方法を販売する、という事は可能ですか?」
レシピの登録や販売が可能かどうか確認する。
「そうですね。審査を受けてもらい、合格すれば買取可能です。ギルドから製造者へ販売した件数で手数料が入ります。なので、よほど人気が出るようなものでないと大きな儲けにはなりません。ですのでご自分で商売を始められた方がよろしいかと思いますよ?」
まあ確かにそうだよね。しょうがない。直接売り込みに行くか。
「ご親切にありがとうございます。考えてみます。携帯食を作っているお店だけ紹介していただけませんか?お話だけでもしてみたいんです。」
そう言うと受付嬢は一軒のお店を紹介してくれたので、礼を言って商業ギルドを出た。
教えられた道を進むと、大きな煙突がある建物が見えてきた。ここだろう。家の裏に窯があるようだ。
とりあえずドアをノックするが返事はない。裏へ回ると夫婦が作業中だった。
「すいません」
と声をかける。
「はい、どちら様?」
女性の声が返ってきた。40手前くらいのスレンダーな女性だ。
「突然お邪魔してすいません。私は冒険者のタカと言います。こちらで携帯食を作っていらっしゃると聞いて伺いました。少々お話をお聞かせいただけませんでしょうか?」
そう声をかける。
「確かにうちで携帯食を作ってるけど、個人への販売はやっていないの。そうじゃないならどんなご用事かしら?」
小首を傾げてそう尋ねてくる。
「はい、新しい携帯食の提案です。話だけでも聞いていただけないかと思いまして。」
そう言うと笑顔になる。
「面白い子ね。良いわ。せっかく来たんだし、話くらい聞いてあげる。良いわよねあんた?」
そう言うとご主人が頷く。
「もうすぐ箱入れが終わるから待っててね。」
そう言って二人で作業をしていく。昔の握り飯のように、焼きあがった携帯食を大きな乾燥した葉で包み、木箱に収めていく。
全て収めるとご主人が木箱を持ち上げ、家の中へと運んでいく。
「貴方もいらっしゃい。狼さんはそこで待っててね?」
奥さんからそう言われ、ウォルターはペタリと伏せた。
「お邪魔します。」
そう言って中に入らせてもらう。居間にはテーブルが一つあり、イスが4脚置かれている。
「座ってちょうだい。今お茶を出してあげるわ。」
奥さんはそう言ってキッチンへ向かう。ご主人も奥から出てきてイスにかける。すぐに奥さんがお盆にカップを乗せて持ってきた。
「うちは火を扱う仕事だから、お茶は水出しなの。珍しいでしょ?」
そう言ってカップに口をつける。俺とご主人もお茶を口にする。お湯で入れたものより香りは弱いが、あっさりとした飲み口は悪くない。
「美味しいです。」
そう言うとニッコリと微笑んだ。
「新しい携帯食を考えたってことだが、どんな物なんだ?」
ご主人が口を開く。俺は収納から携帯食を一つ取り出した。
「こちらで作っている携帯食はこれと同じような感じでしょうか?」
ご主人に尋ねる。
「ああ、そうだな。塩の分量や麦の比率は分からんが、ほぼ同じだ。」
ご主人が答える。
「作り方は穀物を挽いて粉にした物に塩水を加えて練り、そこに荒く砕いた穀物を加えて混ぜ合わせ、さらに塩をまぶして焼いて乾燥させる、という感じで合ってますか?」
と尋ねると、ご主人が少し驚いた顔をする。
「ああ、その通りだ。混ぜる比率は製作者によって違う。それによって味も変わってくる。うちの携帯食はなかなか評判が良いんだ。」
ご主人が答える。なるほど、食べてみたいもんだ。
「携帯食はこのまま食べるのが当たり前の物ですが、一手間加えて美味しく食べられるような物が作れないかと思い伺ったんです。
具体的には、乾煎りした麦を砕かずに、練った生地にたっぷりと混ぜて焼いてみてはどうかと思うんです。
麦は乾煎りしてあるのでもちろんそのまま食べても大丈夫ですし、カップに入れて水を加えて煮れば麦粥のような物になるのではないかと思うんです。
練った生地は水に溶けてトロミを出すとともに塩味を出します。乾煎りした麦は水分を吸いやすいのですぐに煮えます。どうでしょうか?」
そう言うとご主人が腕組みをして考え出す。
「ふむ、面白いかもしれんな。練った生地の量と麦の比率が問題だな。あとは値段か。普通の携帯食よりも高くしないとならん。それと、本当に売れるかどうか、だ。」
ご主人が悩んでいる。
「そうですね。ですが美味しい物を食べたいと思う気持ちは誰もが持っているはずです。きっと売れると思います。」
そう言うとご主人が頷く。
「そうだな。携帯食を美味く食べる方法を考えるのも俺たちの仕事だな。暇を見て試作してみるか。」
そう言ってくれた。うん、成功だ。
「ありがとうございます。私も冒険者なので、野営の時に美味しい物が食べられるようになるのは嬉しいです。
それと、全く新しい携帯食の案もあるのですが、聞いていただけますか?」
そう言うとご主人は頷く。
「面白い。聞かせてもらおう。」
うん、良い人だ。
「炒り麦と乾煎りして適当な大きさに刻んだ木の実とドライフルーツを混ぜ合わせます。どちらも3~4種類くらい入れてください。
それに蜂蜜をかけて混ぜ合わせ、全体が纏まったら縁のある鉄板に詰めて窯で焼きます。時間は10~15分くらいで良いと思います。
焼きあがったら窯から出して冷まし、食べやすい大きさに切り分けて、乾燥させた豆を炒ってから挽いて粉にした物を塗して出来上がりです。シリアルバーと言います。
混ぜ合わせた木の実の食感と、ドライフルーツと蜂蜜の甘さはクセになると思います。甘い物は疲れを取り、気持ちを和らげます。きっと売れると思います。」
そう言うとご主人は感心したように頷く。
「若いのによくそんな事を思いつくもんだ。でも、俺なんかにそんな事を教えて良いのか?お前さんには何の得にもならんだろう?自分で作って売ったほうが良いんじゃないか?」
俺は答える。
「私は冒険者として生きていきたいので、商売を始める気はありません。なので、誰か作ってくれる人を探していたんです。
もしこちらで作って販売していただけるなら、僕自身が助かります。ぜひ検討してください。よろしくお願いします。」
そう言って頭を下げる。
「あんた、作ってみましょうよ。特に木の実とドライフルーツのやつは、冒険者や旅商人だけじゃなく、一般の人にも売れると思うわよ。仕事の合間とか、ちょっとした時間に手軽に食べられるんですもの。きっと人気が出るわ。ね、やりましょう?」
そう言う奥さんにご主人が笑顔で頷く。
「そうだな。新しい物に挑戦するのも面白いな。やってみるか。」
笑顔の二人に頭を下げる。
「ありがとうございます。私の考案した携帯食が食べられる日を楽しみにしています。よろしくお願いします。」
礼を言ってお暇する。ご夫婦は揃って手を振って見送ってくれた。
それから一ヶ月後、新しい携帯食が販売されると爆発的な人気が出た。
特にシリアルバーの方は、冒険者や旅商人だけでなく貴族がおやつ代わりに食べるようになり、どんどん人気が高まっていった。
当然他の工房も真似をし、独自のアレンジを加えて売り出すようになり、様々な携帯食とシリアルバーが販売されるようになっていった。
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