上 下
70 / 90

070

しおりを挟む

宿までの馬車の中では、コーヒーとお菓子の話で盛り上がった。

エヴリンさんがジャムの美味しかった順位を教えてくれた。一番美味しかったのはブルーベリーで、一番苦手だったのはオレンジのマーマレードっぽいジャムだったらしい。皮も刻んで果肉と一緒に煮るので、皮の苦味が出ているのが苦手だったようだ。

宿は北居住区の繁華街の中にあった。石造りで7階建ての立派な建物だった。

馬車から降りて2人と1匹で連れ立って歩き、入り口を潜ってフロントに向かう。エヴリンさんが書類を出してフロントマンに渡す。

「私、冒険者ギルドヴァレンティナ本部の職員エヴリンと申します。先日ギルドから予約したお部屋をご利用いただくお客様をお連れしましたので、宿泊手続きをお願いします。

宿泊者はこちらのタカさんと、タカさんの相棒のウォルターさんです。
宿泊期間は1週間の予定です。延長の場合は最終宿泊日の前日までにお知らせします。

支払いはギルドがしますので、チェックアウト時にこちらの書類に代金をご記入のうえサインしていただき、宿泊者をお迎えに上がったギルド職員にお渡しください。」

フロントマンに書類を渡しながら説明するエヴリンさん。お仕事はちゃんと出来るのね(笑)。

「こちらに宿泊させていただくタカと申します。こちらは私の相棒のウォルターです。ウォルターの食事で生肉や内臓を用意していただいたりとご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします。」

そう言って頭を下げる。フロントマンは和かに答える。

「ようこそお越しくださいました。お客様が快適に過ごせるよう取り計らわせていただくのは我々の仕事です。どうぞお気になさらずに。

早速ですがお部屋にご案内させていただいてもよろしいですか?」

もちろん異論はない。

「はい、よろしくお願いします。」

そう言うとフロントマンはベルを鳴らした。すぐにドアマンがやってくる。

「503へご案内を。」

フロントマンがドアマンに鍵を渡す。ドアマンが近づいて来て一礼する。

「お部屋へご案内いたします。お荷物はどちらですか?」

いつものやりとりだね。

「収納持ちなのでこのままお願いします。エヴリンさん、今日は本当にありがとうございました。また明日お会いしましょう。それでは失礼します。」

エヴリンさんに礼をしてドアマンの後ろについて歩き出す。

階段の所で振り向くと、エヴリンさんはそのまま見送ってくれていた。手を振ると笑顔で手を振り返してくれた。

彼女の見送りに暖かくなった心を抱きしめながら階段を登った。




案内された部屋はジニアルで泊まった部屋と同じ感じのスイートだった。間取りは待合室にリビング、寝室、セカンドルーム、トイレ、風呂だ。

酒棚があって自由に飲めるのも一緒だ。

ベッドも豪華で見るからにフカフカだった。これじゃあまた床で寝る事になるかな?(笑)。

一通りの説明を受け、夕食を7時に頼むとドアマンは出て行った。さあ、風呂だ。すぐに風呂に湯を張る。

ついでに盥や銃など、使った道具の汚れを取り出して排水口に捨てる。

リビングに戻り、装備類を外して収納し、風呂に入る前に水を飲む。もちろん盥を出してウォルターにも飲ませる。

少しリビングで寛ぎ時間を潰す。そろそろいい頃合いかな?

出した物を一旦収納して風呂へ向かう。

脱衣所で皮袋と着替えを出す。今日はジャケットとズボンも新しい物に替える。

脱いだ服は全て皮袋に入れる。ウォルターと一緒に風呂場に入る。

いつも通りウォルターを洗い、風呂に浸からせ、自分を洗い、ウォルターを上がらせて水を与え、自分が風呂に浸かる。

湯の中でのんびりと体をほぐす。

充分に体がほぐれて温まったらぬるめのシャワーを浴び、風呂の栓を抜いて上がる。

着替えて水を飲み、リビングで寛いでいるとベルが鳴った。夕食が届いたのだろう。

待合室を通り抜けてドアを開け、カートを押したボーイを出迎える。2人のボーイがテーブルの上に食事をセッティングしていく。

セッティングが終わったのを確認して、明日の朝食を6時に持ってきてくれるように頼み、一緒に洗濯サービスの利用をお願いして洗濯物を渡す。

朝食と一緒に持ってきてくれるように頼むと、ボーイたちは一礼して出て行った。

さあ、せっかくだから冷めないうちに食事にするか。

ウォルターの分は小鹿のようだ。皮を剥いだ丸の肉と、内臓がそれぞれ皿に盛られている。水も大きなボウルで2つ用意されている。

俺の分はなかなか豪華だ。

ヤマメの姿焼きが5尾、小魚の酢漬けの盛り合わせと刻んだ香味野菜の盛り合わせ、鳥のロースト、根菜の炒め物、マッシュポテト、ブロッコリーとニンジンを茹でた物、タマネギとセロリのチーズ焼き、ラタトゥイユのような野菜のトマト煮込み、アクアパッツァのような野菜と魚と貝のスープ、拍子切りの大根のサラダ、色々なフルーツを賽の目にカットして混ぜ合わせたフルーツサラダ、山盛りのパンだ。

酒棚から火酒とワイン、グラスを取り出してテーブルに置く。

「さあ食べようウォルター。いただきます。」

ウォルターに声をかけて食べ始める。

料理はどれもこれも美味かった。

前世ではイタリア料理が好物だったので、特にラタトゥイユもどきとアクアパッツァもどきは最高だった。おかげでワインを3本、火酒も2本も飲んでしまった(笑)。

普通なら二日酔い待った無しなのだろうが、全状態異常完全無効のおかげで二日酔い知らずだ(笑)。

存分に飲み食いし、余ったパンは収納する。パンがどんどん溜まっていくな。

食べ終えた食器類と飲み干した酒瓶をカートに乗せて、廊下に出しておく。

空いたテーブルの上でM45の弾込めだ。空のマガジンにポチポチと弾を詰め、収納する。

一通りやるべき事はやったはずだ。今日はもう寝よう。

俺はベッドから毛布を持って来て包まると、ウォルターに寄り添いながら床の上で横になった。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

1514億4000万円を失った自衛隊、派遣支援す

ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一箇月。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。 対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。 これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。 防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。 損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。 これは、「1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す(https://ncode.syosetu.com/n3570fj/)」の言わば海上自衛隊版です。アルファポリスにおいても公開させていただいております。 ※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈りいたします。

最弱職テイマーに転生したけど、規格外なのはお約束だよね?

ノデミチ
ファンタジー
ゲームをしていたと思われる者達が数十名変死を遂げ、そのゲームは運営諸共消滅する。 彼等は、そのゲーム世界に召喚或いは転生していた。 ゲームの中でもトップ級の実力を持つ騎団『地上の星』。 勇者マーズ。 盾騎士プルート。 魔法戦士ジュピター。 義賊マーキュリー。 大賢者サターン。 精霊使いガイア。 聖女ビーナス。 何者かに勇者召喚の形で、パーティ毎ベルン王国に転送される筈だった。 だが、何か違和感を感じたジュピターは召喚を拒み転生を選択する。 ゲーム内で最弱となっていたテイマー。 魔物が戦う事もあって自身のステータスは転職後軒並みダウンする不遇の存在。 ジュピターはロディと名乗り敢えてテイマーに転職して転生する。最弱職となったロディが連れていたのは、愛玩用と言っても良い魔物=ピクシー。 冒険者ギルドでも嘲笑され、パーティも組めないロディ。その彼がクエストをこなしていく事をギルドは訝しむ。 ロディには秘密がある。 転生者というだけでは無く…。 テイマー物第2弾。 ファンタジーカップ参加の為の新作。 応募に間に合いませんでしたが…。 今迄の作品と似た様な名前や同じ名前がありますが、根本的に違う世界の物語です。 カクヨムでも公開しました。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

処理中です...