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しおりを挟む馬車に戻るとエヴリンさんは打って変わって静かになってしまった。うーん、困った。俺は女性の扱いには慣れてないんだ。女神様に助言を求めようか?(笑)。
そうだ、ヴァレンティナで飲めるというアレの事を聞いてみよう。
「エヴリンさん、教えていただきたい事があるのですが、よろしいですか?」
エヴリンさんは急に声をかけられて驚いたようだ。
「えっ、あっ、はい!な、何でしょうか!?」
いや、そんなに慌てなくても(笑)。俺が何か悪い事したみたいじゃん(笑)。
「噂で聞いたのですが、この街ではコーヒーという異国の飲み物を出すお店が有るそうですね。
一度飲んでみたいのですが、北居住区でコーヒーを飲めるお店は有りますか?」
そう聞くとエヴリンさんは少し困った顔をする。
「はい、最近出来たばかりのお店があります。ですが元々貴族や高位冒険者を相手にした高級酒場から独立したお店なので、お値段がすごく高いんです。
コーヒーは1杯30銅貨、紅茶でも20銅貨もするんです。お酒も質は良いのでしょうが、お値段は3倍するそうです。
若い人たちの中では特別なお祝いの時なんかに使われているくらいです。私も行った事が無いんですよ。」
なるほど、エヴリンさんは自分が行った事が無いお店だから案内できるか悩んでいるのか。
「エヴリンさん、その高級酒場に案内していただけませんか?今日は私に半日付き合っていただいたので、エヴリンさんにお礼をしたいんです。私にご馳走させてください。」
俺がそう言うとエヴリンさんはアワアワしだす。くっ、可愛い。破壊力は抜群だ(笑)。
「そ、そんな、私はお仕事の一環としてご案内したのですから、お礼なんてそんな。」
そう言ってパタパタと両手を振る。可愛さの暴力だな(笑)。
「それでは私の気持ちが済みません。これもお仕事だと思って、宿に向かう前に私の我儘に付き合ってください。
御者さん、すいませんが最近出来たという高級酒場に案内してください。お願いします。」
少し大きな声で窓に向かって言うと、馬車は静かに走り出した。エヴリンさんはまだアワアワしている。
「エヴリンさん、私を案内してくれるのがお仕事なんですよね?でしたら高級酒場もお願いしますね。喉がカラカラなんです。」
ダメ押しをするとようやく落ち着いたようだ。
「そ、そうですね。分かりました。しっかりご案内させていただきます。」
ようやく笑顔が戻ってきた。うん、やっぱり女の子は笑顔が良いね。
しばらく走ると馬車は高級酒場に着いた。
なんと馬車5台分の駐車場を備えている。さすが貴族や高位冒険者を相手にしたお店だな。
馬を繋いで留められるようになっているので、御者さんも休めるだろう。俺は馬車を降りると御者さんの所へ向かい話しかける。
「ここは馬を繋ぎ止められるようになっています。どうぞ御者さんも飲み物を飲んで休んでください。」
そう言って銀貨を1枚取り出して御者さんに渡す。
「これはお客様、お心遣いありがとうございます。遠慮なく休ませていただきます。」
そう言うと恭しく礼をした。こういうコミニュケーションも大切よね。
「ウォルター、このお店は一緒には入れないと思うんだ。悪いけど馬車の所で待っててくれるかな。水は出しておくからね。」
そう言って盥を出して水を満たしてやる。
「畏まりました主。行ってらっしゃいませ。」
ウォルターの声を背に入口へと向かう。
高級酒場の重厚な扉を開ける。そこには高級で落ち着いた雰囲気の空間が広がっていた。札幌のススキノにあった喫茶店サンローゼを思わせる雰囲気だ。
エヴリンさんが重厚な雰囲気に圧倒されたのか、腕にしがみついてきた。
そっと腕を絡め取ってちゃんと腕を組む。
驚いた顔で見上げてきたのでニッコリと微笑んでやると、ポッと頬を染めて俯いた。
また女神様に注意されるな(笑)。
そんな事をしているとボーイが1人やって来た。スマートな身のこなしだ。
「いらっしゃいませ。お2人様ですね。お席へご案内します。こちらへどうぞ。」
そう言って先に立って歩き出す。俺はエヴリンさんと腕を組んだまま、席までゆっくりとエスコートする。
「こちらのお席でよろしいですか?」
ボーイが確認してくる。窓際の席で、庭の美しい花がよく見える。エヴリンさんの顔を見ると嬉しそうに頷いた。
「はい、こちらでお願いします。」
そう言うとボーイが椅子を引いてエヴリンさんに着席を促すので、優しく腕を離して手を繋ぎ、席へエスコートする。
エヴリンさんが着席したのを確認して俺も対面の席へ向かうと、ボーイが席を引いてくれた。
「ありがとうございます。」
礼を言って席に着く。すぐにメニューを渡してくれる。もちろん女性からだ。
中を眺めると、コーヒーは浅煎りと深煎りの2種類、紅茶がハーブティーを含めて5種類、その下には果実水や酒類が並ぶ。お菓子とのセットもあるようだ。
「エヴリンさん、せっかくだからコーヒーにしたらどうかと思うのですが、苦いのは得意ですか?」
エヴリンさんに尋ねるとプルプルと首を横に振る。可愛いなちくしょう。ボーイの方をチラリと見ると小さく頷く。
「それでしたらお嬢様は浅煎りのコーヒーがよろしいかと思います。浅煎りでしたら紅茶とそれほど変わらない苦さです。甘いお菓子とのセットもありますが、いかがなさいますか?」
ボーイが勧めてくれる。エヴリンさんが困っているので助け船を出す。
「エヴリンさん、私も初めてですので、ボーイさんのお勧めにして見ましょう。良いですよね?」
エヴリンさんに声をかけるとホッとしたような顔をする。
「はい、そうですね。おすすめ頂いた浅煎りのコーヒーとお菓子のセットでお願いします。」
エヴリンさんがそう言うと、ボーイが続ける。
「お菓子はマドレーヌとスコーンがありますが、どちらがよろしいですか?」
ありゃま、また困った顔になっちゃった(笑)。ここは男の出番だな。
「彼女にはスコーンをお願いします。ジャムをたっぷりと添えてあげてください。私は深煎りのコーヒーとマドレーヌのセットでお願いします。ミルクはありますか?」
ボーイに確認すると笑顔で頷いた。
「もちろんございます。お2人分ご用意いたしますか?」
せっかくだけど、俺は前世ではブラック派だったのよ。
「彼女の分だけお願いします。」
そう言うとボーイは笑顔で頷いた。
「畏まりました。少々お待ちください。」
メニューを回収して奥に引っ込んでいく。
「何だか緊張しますね。エヴリンさんが一緒でよかったです。」
そう言ってエヴリンさんに笑顔を向けると、真っ赤な顔をして俯いた。チラチラと上目遣いに俺の顔を見る。
「わ、私も、タカさんと一緒に来れて良かったです。」
上目遣いは反則です。・・・・惚れてまうやろー!(笑)。
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