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「次は八百屋さんです。少し離れているので馬車で行きましょう。」

エヴリンさんに促されて馬車に乗り込む。10分ほど馬車に揺られて八百屋に到着した。

店の中を見ると葉物野菜が多い。さすがは王都だ。サラダ菜を5玉、キャベツを2玉、レタスを2玉、白菜を2玉、小松菜を5株、水菜を5株、ブロッコリーを5株、セロリを5株、キュウリを50本、アスパラを100本、大根を3本購入する。全部で373銅貨だったが、370銅貨にオマケしてくれた。銀貨3枚と棒銅貨7枚で支払いすぐに収納する。これで野営の時なども美味しい野菜を食べる事ができるな。良い買い物だ。

「タカさん、葉物野菜は傷みやすいのに、一遍にこんなにいっぱい買って大丈夫なんですか?」

エヴリンさんが俺に尋ねる。そりゃそうよね。普通なら考えられないよね。

「もちろんこのままだとすぐに駄目になってしまうので、適当な大きさに切って酢、塩、香辛料などを合わせた漬け込み液に漬けるんです。そうすると保存が効き、しかも美味しく食べられます。マジックバッグを持っている冒険者たちにぜひお勧めしたい保存食ですね。そうだ、オヤジさん、胡椒と唐辛子はありますか?あるなら値段を教えていただきたいのですが。」

エヴリンさんに答えながら思い出したのでオヤジさんに聞いてみる。

「あるよ。胡椒は1粒2銅貨、唐辛子は1本2銅貨だ。どれくらい欲しいんだ?」

ふむ、同じ重さの金で売買すると言う程の高額ではないが、中々の金額だな。でも、香辛料が有ると無いとでは味が段違いだからな。それに、ここで買っておけばこれからいつでも使えるようになるか。良し、行っちゃおう。

「胡椒は200粒、唐辛子は50本お願いします。」

そう言って収納から銀貨を5枚取り出しオヤジさんに渡すと、すぐに何枚も皿を用意して慎重に数を数えながら用意し始めた。ちょっと時間がかかりそうだが、これで堂々と胡椒と唐辛子を使えるようになるぜ。一人ほくそ笑んでいるとエヴリンさんが声をかけてきた。

「タカさん、野菜の保存食の作り方なんですが、詳しく教えていただく事は出来ませんか?私たち冒険者ギルドで冒険者たちに保存食として販売できるようにしたら良いのではないかと思うんです。特に森ではなくダンジョンをメインに活動している冒険者たちにはお勧めだと思います。ダンジョン内で山菜や野草、果物などを採取するのは不可能に近いですからね。時間がある時にギルマスたちに詳しく説明してもらっても良いですか?きっと依頼の形を取って報酬もちゃんと支払われると思いますよ。」

おお、見た目によらず中々遣り手だな合法ロリ(笑)。ギルド職員がこんな風に冒険者の事を考えてくれていると知れば、多くの冒険者たちが感動するだろう。

「そうですね、報酬金額次第で引き受けます。とりあえず冒険者ギルド主導で販売するに値するかどうか判断していただくために、試食用に少し作っておきます。それが出来たら改めてお話ししますね。」

そう告げるとエヴリンさんはとても嬉しそうに頷いた。小娘め、味見する気満々だな(笑)。

さらにドライフルーツと木の実を眺める。ポルカ村には無かったイチジク、サンザシ、デーツ(ナツメヤシ)、プルーン、松の実、クコの実、ヒマワリの種、かぼちゃの種があったので1kgずつ購入する。木の実はどれも100g50銅貨、ドライフルーツは100g80銅貨とポルカ村と同じ値段だった。棒銀貨5枚と銀貨2枚を支払う。

「ドライフルーツや木の実も何か美味しい食べ方があるのですか?」

エヴリンさんが訪ねてくる。美味しい物、甘い物にはグイグイ来るね(笑)。

「そうですね、一番簡単で美味しい食べ方は、何種類かのドライフルーツと木の実を同量混ぜ合わせて、そこに蜂蜜をかけてよく混ぜ合わせて絡めて食べるのが美味しいですね。オヤツやデザートとしてだけでなく酒のツマミにもなります。」

そう教えてあげるとキラキラした目で見つめてくる。いやいや、俺は作らないからね。自分で作りなさいな。ここは笑顔でごまかしておこう。

ざっと店内を見させてもらい、一通り琴線に触れた物を買わせてもらったので店を出る事にする。そこそこの金額になるまとめ買いだったので、店員たち総出でお見送りしてくれた。なんだかこそばゆいわぁ。

「次は肉屋さんですね。三軒隣なので馬車についてきてもらって歩きましょう。」

エヴリンさんの提案に頷き、御者さんに声をかけて歩き始める。馬車は少し遅れてついてきて、店の脇の邪魔にならないところに停まった。肉屋もかなり大きい。中に入ってみると、すぐ目の前にある生肉を販売するスペースでは、皮剥ぎなどが終わった肉の塊が梁から下がったフックに掛けられてぶら下がっている。客はその肉を見ながらどの部分をどれくらい欲しいのか伝え、その場で切り分けて秤に掛けられて売り渡される。大きな作業台のような物も置いてあり、客の要望に合わせて細かく切り分けたりもしているようだ。部位にもよるが100gで15銅貨が最低金額のようだ。やはり人口が多く需要が高いので値段も高めなんだな。それでも肉はどんどん売れていき、吊るされた肉が無くなるとマジックバッグから新たな肉を取り出してフックに掛ける。なるほど、マジックバッグにはこんな使い方もあるのか。ポルカ村の雑貨屋のおばちゃんも収納魔法が使えれば品出しが楽になる、なんて言ってたもんな。

暫し生肉の販売スペースを眺めてから奥のスペースへと移動する。そこでは干し肉と塩漬けにした肉が売られていた。他のお客さんとのやりとりを見ていると、大きな甕の中に塩で埋めるように漬けられている肉は分厚い脂身が付いていた。ほほう、これは良い。このまま燻煙をかければ簡易ベーコンになるじゃないか。まあ実際には色々な香辛料を足して漬け直さなけりゃならないだろうけどね。値段は100gで40銅貨みたいだ。塩漬けにしてあるんだからそれくらいしても当然か。

「ここの塩漬け肉には脂身が付いているんですね。とても美味しそうです。」

このスペースを担当している若い女性に声をかけると笑顔で頷いた。

「どうしても傷みやすいから他の店では脂身を外して漬ける所が多いんですけどね。うちは新鮮なうちに血抜きや下処理をしっかりやって脂身を付けたまま塩漬けにしてるんです。おかげで評判が良いんですよ。」

塩の中から三枚肉(バラ肉)の塊を引き出して見せてくれる。丁寧に処理されているようでとても綺麗な色だ。

「本当に綺麗なお肉です。これならこのまま薄切りにして食べられそうですね。」

そう言うと女性は驚いた顔をして俺を見る。

「へぇ?よくそんな食べ方を知ってるねお兄さん?私ら肉屋の人間くらいしか知らない食べ方だよ?ひょっとして他のお店から偵察にでも来たのかい?」

別のちょっと年嵩の女性が冗談めかして言う。店の評判が上がれば、同業者の偵察のような事もあるのだろう。俺は笑いながら首を振った。

「私は元猟師で今は冒険者なんです。父と獲物を狩って暮らしていましたので、肉の扱いは父から教わりました。塩漬けにした肉を薄切りにしてそのまま食べたり、細かく刻んだ肉を野草や木の実と一緒に刃物で細かく叩いて混ぜ合わせて食べたりもしていました。もちろん煮たり焼いたりもしていましたよ。新鮮な心臓や肝臓は生のまま薄く切って塩を振って食べたりもしましたけどね。」

そう言うと年嵩の女性はまた驚いた顔をする。

「お兄さんの食べ方は異国の食べ方に似ているね。親御さんは旅商人とか傭兵なんかの経験があったのかもしれないね。それとも何か理由があって国を出て猟師になったとかかな?いずれにせよ、お兄さんの知識は大したもんだよ。お嬢さん、こんな良い男なかなかいないよ?逃さないようにしっかり手綱を握っとくんだよ。」

女性はそう言って笑う。エヴリンさんは顔を赤くしてモジモジしている。

「残念ながらそう言う間柄では無いんですよ。こちらのお嬢さんは冒険者ギルドの職員さんで、今日はこの街に来たばかりの私を案内してくれているんです。それに私はまだ14です。所帯を持つなんてとてもとても。」

そう言うと年嵩の女性は大きな声で笑い始めた。

「それはすまなかったね。2人ともとてもお似合いだったから、恋人同士かと思ったよ。まあ、これからそういう仲になるかもしれないしね。お嬢さん、頑張んなよ」

年嵩の女性はそう言うと別のお客さんの相手をし始めた。体良く揶揄われた感じだ。エヴリンさんはまだ顔を赤くしていた。別に俺のせいでは無いのだが、何だか申し訳ない気分になる。とりあえず最初に話しかけた若い女性に大きめの塊を6つ頼む。合わせて22.5kgだったので、9,000銅貨になる。銀貨なら90枚だ。金貨を1枚渡し、棒銀貨1枚をお釣りでもらい、塩漬け肉を収納して売り場を離れる。

一番奥はチーズの販売スペースだ。一通り品物を見せてもらうが、特に珍しい物は無かったのでここはスルーだ。ポルカ村で買ったチーズがあるしね。

「エヴリンさん、ここはもう大丈夫です。次の店に案内してもらえますか?」

エヴリンさんに声をかける。

「分かりました。次は魚屋さんですね。隣の隣なのでここも歩いていきましょう。」

エヴリンさんに促されて店を出て、御者さんに声をかけて魚屋を目指して歩き出す。馬車は先ほどと同じように後ろをついてきた。魚屋も大きい。やはり人口が多いから店構えも大きくなるんだろうな。中に入ると一夜干しや燻製が並べられていた。やはり生の魚を流通させるのは難しいか。ただ、淡水魚だけでなく海水魚も並んでいる。この辺はやはり王都という事なんだろうな。

買い物風景を眺めていると、甕で塩漬けにした魚もあるようだ。腹を割いて内臓を抜いて塩漬けにしてあるようだ。売り子の女性に声をかけて話を聞くと、100g20銅貨からのようで、肉よりは安いようだ。ヤマメ、イワナ、ニジマス、ヒメマス、ブラウントラウト、サケ、タラ、ニシン、ホッケ、ソイの10種類が塩漬けにされているそうなので、それぞれ5尾ずつ買う。全部合わせると22,600銅貨になった。銀貨なら226枚だ。金貨2枚と棒銀貨3枚で支払い、銀貨4枚をお釣りでもらう。

「お魚はどうやって食べるのが美味しいんですかね?」

エヴリンさんから質問がきた。あまり魚を食べる機会が無いのかな?

「焼いて食べるのはもちろんですが、食べやすい大きさに切り分けて野菜と一緒に煮込んで食べるのも美味しいですよ。あとはカリカリに焼いてから細かく砕いてスープの出汁をとったりもします。もちろん出汁をとったあとの身はそのまま食べても良いですし、取り分けて潰して団子にしたりしても美味しいです。」

そんな話をしながら収納する。せっかく教えてあげたんだからちゃんと覚えてね(笑)。

「先ほどから色々と教えてもらっていますが、かなり手の込んだ料理方法も多いですよね。それに山の中で猟師をしていたのに魚の食べ方や料理の仕方も知ってらっしゃるし、言葉遣いや立ち居振る舞いも洗練されてますし、もしかしてタカさんのご両親は異国のかなり高貴な血筋の方だったのでしょうか?」

エヴリンさんに尋ねられる。どんどん俺の設定が独り歩きしていくな(笑)。

「どうなんでしょうね?父はそう言うことはまったく話してはくれませんでした。ただ、私が成人するのに合わせて人里に降りる、とは言っていましたね。父が亡くなってしまった今となってはその理由も分かりません。母は私が物心つく前に亡くなってしまいましたし、もう自分の出自を知ることは叶いません。でも、今こうして自分の力で生きているわけですから、自分の出自など別に気にもなりませんけどね。」

そう言ってエヴリンさんに微笑みかけると、悲しそうな顔をした。えーえーえー、何で何で、別に傷つけるような事は言ってないよ?

「ごめんなさい。ご両親を亡くしていらっしゃるタカさんの気持ちも考えずに無神経な発言をしてしまいました。心からお詫びします。お許しください。」

あ、そういう事ね。別にそんな事は気にしなくて良いのに。

「気にしなくて大丈夫ですよ。私にはウォルターと言う家族がいますから。」

そう言うとますます悲しそうな顔をして俯いてしまった。うーんどうしよう?とりあえず馬車に向かうとするか。
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