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ギルドマスターの言葉に先に反応したのはカタリナさんだった。

「ヘイゼルのギルドマスターから連絡が来ていた件ですね?なんでもカワシャチを撃退したとか。どんな魔道具なのか、楽しみです。」

ヨセフさんも続く。

「全くです。カワシャチは動きが速くて狙いをつけずらいし、普通は複数パーティーで討伐にあたる獲物です。

大量の矢で傷つけて弱らせてから投槍で仕留めるのがセオリーなのに、タカさんとウォルターさんだけで撃退してしまったとか。一体どんな魔道具なのか、想像もつきませんよ。」

そりゃあ想像もつかないさ。異世界の武器なんだから(笑)。しかし、こうも期待されるとプレッシャーがスゴいな。

「皆さんのご期待に添えると良いのですが。あまり期待しないでくださいね。」

そう言ってやんわりとプレッシャーを交わす。その間に何とカタリナさんがお茶の用意を始めた。申し訳ない事だ。

「副ギルドマスター自らお茶の用意をしていただくなんて恐れ多い事です。ありがとうございます。」

そう言うと笑顔を見せる。

「私は家でも自分で淹れているので、別段どうって事はないですよ。お気になさらずに。」

そう言ってテーブルにティーカップを並べる。最初に出してくれたのと同じカモミールティーだ。

口をつけてみると、女性職員が淹れてくれた物よりも香りが良く、甘さすら感じるほどの味だった。

ほう、と息をついてカタリナさんを見る。

「とても美味しいです。失礼ながら職員さんが淹れてくれた物よりもずっと美味しい。やはりゾーイさんのおかげでしょうか?」

そう言うと嬉しそうに頷く。

「そうよ。ゾーイさんからは茶葉の量からお湯の温度、蒸らす時間まで色々教わったわ。おかげでこうして今でも美味しいお茶を楽しめてるの。知識と技術は大事よね。」

そう言ってウインクされた。チャーミングな仕草にドキッとする。未成年の小僧をからかわないでくださいまし。中身はアラフィフですが(笑)。

思い思いにお茶を楽しみ、腹も落ち着いたところでギルドマスターから声がかかる。

「さて、それじゃ移動するか。カタリナ、魔法訓練場を開けてくれ。俺たち以外の人間は入れるな。

ヨセフ、廃棄処分にして良い板金鎧を2体分、魔法訓練場に運ばせてくれ。的にするそうだ。

今回は他の冒険者はもちろん、職員も全て立ち入り禁止とする。良いな。」

そう言うと立ち上がる。俺も立ち上がり、出してあった盥を収納する。ヨセフさんは一足先に部屋を出て行き、俺はカタリナさんの案内で後ろを着いて行く。

一旦事務室に立ち寄り、鍵を持ったカタリナさんに案内されて広い廊下を歩く。

5分ほど歩くと大きな扉に突き当たった。

カタリナさんが鍵を開け、分厚い扉を開くと、そこはバスケットコートが横に4面取れるほど広い空間だった。天井も高く、大きな明かりの魔道具が幾つも設けられている。

ギルドマスターがスイッチのような物に手を触れると明かりの魔道具が次々と光を放ち、たちまち屋外と変わらない明るさになる。

奥行きは30mちょいあるか。標的の設置台まではおよそ30m。ジニアルの魔法訓練場より奥行きがある。

横幅は2倍くらいはあるな。天井は15mほどの高さだ。これだけ空間があるなら音が響いて耳をやられることもないだろう。

室内を見回しながらそんなことを考えていると、ヨセフさんが鎧を抱えて職員と共にやって来た。

鎧を設置し、職員が出て行くとカタリナさんが内側から鍵をかけた。準備は万端だ。

「それではまずウォルターの魔法からお見せします。ウォルターは雷、風、土の魔法を使います。それぞれ1種類ずつ鎧に向けて放ちますのでご覧ください。」

そう言ってからわざと口に出してウォルターに話しかける。

「ウォルター、向かって右側の鎧に魔法を放って。前回と同じく3属性を1つずつ。壊しちゃって良いのも前回と同じだから、思い切りやって良いよ。」

そう言うとウォルターも心得た物で、

「ウォン」

と声を出して返事をしながら念話でも返事を寄越す。

「畏まりました主。では、参ります。」

ウォルターは前回と同じように土魔法で地面から鋭く尖った棘を生やして鎧を貫いた。

ん?棘の数が増えてない?前回は1本だったのに、4本で四方から囲むように貫いたぞ?

その棘を消したと思うと風魔法でカマイタチを作り出して飛ばし、鎧を縦横十文字にに切り裂いた。これも増えてるよね?前回はただの真っ二つだったよ?

そして最後の仕上げに雷を身に纏い、稲妻を迸らせた。稲妻を食らった板金鎧は真っ赤に焼けて、まるで飴のようにグニャリと崩れ落ちた。

これだって前回はただ真っ赤に焼けただけだったじゃん?ウォルター、お前いつの間にこんなにレベルアップしたの?

「主、私の魔法、強くなったみたいです。いかがでしたでしょうか?」

ウォルターが褒めて褒めて、と言わんばかりにウォフウォフと鳴きながら擦り寄ってくる。甘えんぼさんめ(笑)。

「ビックリだよウォルター。いつの間にこんなに強くなったんだい?すごいすごい。」

そう念話で話しかけながらワシャワシャと撫で回す。ウォルターは嬉しそうに尻尾を振りまくった。

ギルドマスターと副ギルドマスター2人は固まっていた。あまりの魔法の威力に理解が追いつかないのだろう。

口こそ開けてないものの、目は大きく見開いて瞬きすら忘れているようだ。
   
「ん、んんっ!」

咳払いしてやるとようやく動き出した。

「いやいや、この魔法は反則だろ。こんなの宮廷魔導師クラスだぞ。」

ギルドマスター、半笑いです。

「高位魔法使いでもこれ程の威力は出せませんよ。放てる数にもよりますが、これならウォルターさんだけで一軍を蹴散らせますね。」

カタリナさんが冷静に分析する。やはり女性は客観的な分析が得意なのね。

「これならカワシャチを撃退できたのも納得です。あの稲妻を食らえば一溜まりもないでしょう。恐ろしい威力です。」

ヨセフさんが口にする。どうです、うちのウォルター。凄いでしょ(笑)。

これで俺の銃の印象が少し薄くなってくれると良いんだけどね。さて、いきますか。

「では次に私の魔道具です。2つお見せします。」

そう言ってM45を抜く。サプレッサーを取り外してポケットに入れ、ジャキンッ!とスライドを引き弾を込める。

「ウォルター、前回と同じく耳伏せといてね。」

そう言うとウォルターはペタリと耳を伏せる。

「まずは3発撃ち込みます。大きな音がしますので驚かないでください。」

そう言って下腹部の辺りを狙って撃ち込む。

バンカインッ!バンカインッ!バンカインッ!

3人は1発目の音でビクリと身体を震わせたが、臆することなく耳も塞がずにそのまま見ていた。やはり本部付けともなると違うねぇ。

「一度鎧を確認してください。」

そう声をかけると連れ立って鎧に近づき、小さい丸い穴が3cm程に纏まって3つ空いているのを確認して、後ろに回って背中側を見て驚いた顔をした。貫通しているのを見てその威力に驚いたのだろう。

「こいつはボウガン並みの威力ってことか。あの大きさでこの威力を出せるなんて信じられねえ。」

ギルドマスターがブツブツ言いながら戻ってくる。副ギルドマスター2人もしきりに何か話している。

その間にサプレッサーを装着しなおし、3人に声をかける。

「一旦こちらに戻ってください。次は音を抑える魔道具を使います。違いを確認してください。」

3人は慌てて戻り、俺の後ろに回る。

「今度はかなり音が抑えられますので安心してください。少し上を狙って3発撃ち込みます。」

そう声をかけ、また3発撃ち込む。

ガシュカインッ!ガシュカインッ!ガシュカインッ!

あまりの音の違いに驚いたのだろう、男2人は口があんぐりと開いている。カタリナさんは手で口元を隠している。うん、上品さが滲み出てるね(笑)。

俺が手で鎧を指し示すと3人とも急いで向かって行き、鎧の前後を確認して戻ってくる。

「このくらいまで音を抑えられたら、攻撃されても分からんな。」

「森の中や夜の闇の中で襲われたら、なす術もありません。」

「舞踏会などの大きな音がなっている場所に持ち込まれたら、防ぐことも捕らえることも出来ませんね。」

夢中で話しながら戻ってくる。

俺はその間にスライドを引いて弾を抜き、マガジンを交換してM45をホルスターに戻す。

抜いた弾と空になったマガジンを収納し、レミントンM870MCSロングを取り出してサプレッサーを外す。外したサプレッサーはポッケにイン、だ。

「カワシャチを撃退した魔道具を試します。戻ってください。」

慌てて戻って来る。

「これは先ほどの物より大きな音が出ますが、撃つのは1発だけですので我慢してください。まずは左胸を狙います。」

そう言ってレミントンM870MCSのフォアエンドを引いて戻す。ジャキンッ!くう、堪らん。これぞ男の浪漫(笑)。

慎重に狙いをつけ安全装置を外し、ユックリと引き金に力を加える。

ドゴガインガコッ!オオオオオン!

銃の射撃音、鎧をぶち抜いた音、そして後ろの石壁に当たった音が一纏めになって響く。3人は案外平気そうだが、ここから見ても大きな穴が開いているのに驚愕している。

「鎧を確認してください。後ろの石壁もお願いします。」

俺が促すと、3人は鎧へ向かった。鎧の前後に空いた大きな穴を確認して驚き、後ろの石壁が割れているのを見て目を見開いた。

そんな様子を確認しながらサプレッサーを装着する。

「こちらも音を抑える魔道具を装着しました。試しますので戻ってください。」

そう言うと3人が小走りに戻ってきた。3人ともちょっと顔色が悪い。

「では右胸を撃ちます。音の違いをご確認ください。」

そう声をかけてフォアエンドをスライドして薬莢を排出し、次弾を込める。右胸を狙う。

ドムガインガコッ!ィィィィン

3人を見ると魂が抜けたように呆然としていた。完全にフリーズしてしまっている。

「ん、んんっ!」

咳払いをするとようやく魂が戻ったようで、ノロノロと首を回して3人で見つめ合った。

「鎧の確認をお願いして良いですか?後ろの壁も。」

そう声をかけるとノロノロと動き出した。その間に弾抜き、弾込めをして安全装置をかけレミントンM870MCSを収納してしまう。

鎧と壁を確認した3人は呆れた顔で戻ってきた。

「タカ、この魔道具はどれくらいまで狙えるんだ?」

ギルドマスターが訊いてくる。うーん、どのくらいまでいけるかな?

「小さい方の魔道具はこれくらいが限界ですかね。当てるだけなら50mくらいまでは当てられますが、角度によっては鎧に弾かれます。

大きい方は100mまではいけると思います。ただし、どちらも動いていない標的に限りますが。」

うん、だいたいそんなもんだろ。

「恐ろしいわね・・・・。顔も分からない距離からこんな攻撃を受けたら、自分が死んだことにも気づかないかもしれないわ。」

カタリナさんがボソリとそんな事を口にする。そうですね、1発で急所を撃ち抜けば、痛みを感じることもなく死ぬと思います。

「この武器は大っぴらに知られるとマズいですね。誰もがこの武器を欲するでしょう。善人も、悪人もです。」

そこはご心配なく。私以外は入手できませんので。

「タカのオヤジさんはどうやってこの武器を手にしたんだろうな?何か聞いていないのか?」

ギルドマスターが訪ねてくる。うん、実際に入手したのはオヤジではなく俺だからね。当然入手経路も方法も分かってるけど話せないのよ(笑)。

「申し訳ありません。そういう話を聞く前に、父は亡くなってしまいました。」

そう言って俯く。ちょっと演技しておこう。

「あ、ああ、すまん、その、なんだ、そんなに気にするな。あまりにも強力な武器にちょっと興味が湧いただけだ、な、もう気にしなくて良いから。」

ギルドマスターが慌てて取り繕う。やっぱ良い人だなぁ。

「今日のところはこれで充分だ。宿へ案内させるからゆっくり休め。明日は8時に使いの者を迎えに行かせるから、それまでノンビリしててくれ。

カタリナ、宿への案内を準備してくれ。ヨセフすまんが後片付けを頼む。俺は部屋に戻って2人の魔法と魔道具について書類に纏める。

じゃあタカ、ウォルター、また明日、よろしく頼むな。」

ギルドマスターはそう言ってカタリナさんを促して扉を開け、一人先に出て行った。

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