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フェローズのメンバーたちの後ろに続いて、カールズの大きな石門の前で町に入るための手続きの列に並ぶ。

ウォルターを見てそっと距離を取る人もいるが、概ね気にしていないようだ。俺が背中に乗っているせいもあるかな。

それにテイマーが珍しくないのだろう。それだけ都会だという事なんだろうな。

どの町や村も同じ手順、同じ手続きなので、誰もが整然と並び、粛々と手続きが進められていく。

並びながらよく見ると門が3つあり、馬車の列、一般人と商人の列、冒険者の列と別々に並んでいる。

門の上にもそれぞれ馬車用、商人・一般用、冒険者用、と書かれている。フェローズのメンバーが居なければ別の列に知らずに並んでいたかもしれない。良かった。

そして、冒険者以外は一度身につけた武器を全て台に起き、水晶玉に手を乗せて

「これ以外に武器は持っていないか、禁止された薬物などは持っていないか、目録にない物品は持っていないか」

などと質問を受けている。

なるほど、嘘発見器か。収納と言う技能がある以上、こうでもしないと抜け荷を取り締まることが出来ない訳だ。

一方冒険者はというと、予備も含め複数の武器を持っているのは当たり前、採取や狩猟で得た物品の目録なんてあるはずない、毒薬なども武器として使う、薬師が欲しがる素材には危険な薬物の原料もある、と言うことで、

「この町や住む人に害なすようなものは持っていないか」

と言う簡単な質問で通らせてもらえる。

冒険者には冒険者のメリットもあるって事だ。そのため冒険者の列は非常にスムーズだ。

大きな町になるとこのような形になるのだろう。ヴァレンティナに行く前に経験できて良かった。

フェローズのメンバーたちの手続きが終わり、いよいよ俺の番だ。

ウォルターから滑り降りると、予め取り出しておいた冒険者タグを受付の衛兵に渡し、水晶玉に手を乗せる。

「そちらの狼も一緒だな?ちゃんと制御できるな?この町や住む人に害なすようなものは持っていないな?」

と尋ねられたので、

「はい、こちらの狼も一緒です。私の言う事は必ず聞きますので心配ありません。悪さをするような物も持っていません。」

と答える。水晶玉は青く光っている。

「うん、大丈夫だ。カールズへようこそ。」

受付してくれた衛兵がタグを返して寄こしながら笑顔でいう。

さあ、都会への第一歩だ。俺はワクワクしながら石門を潜った。





一歩入ったカールズの町は、今まで立ち寄った村とは全く違う様相だった。

お洒落なのだ。今まで立ち寄った村がアーリーアメリカン調だとすれば、どこもかしこもとにかくお洒落なヨーロッパ調なのだ。木造の建物も、非常にスマートで洗練されている。

そして人の多さだ。冒険者風、商人風、旅人風、一般市民風、老若男女問わず様々な人が歩いている。思わず圧倒されてしまい、その場で立ち竦んでしまった。

「ん、んんっ!」

後ろから咳払いが聞こえたので慌てて振り向くと、俺が立ち止まっている事によって後ろから来た人たちが進めなくなってしまっていた。ウォルターも一緒だから余計に邪魔になっている。

「す、すいません、田舎から出てきたものでつい。ウォルター、こっち。」

そう言って頭を下げながらウォルターと一緒に脇に避ける。

「初めてきたんじゃしょうがないな。ま、すぐに慣れるさ。頑張れよ。」

そう言って俺の肩を叩いてスタスタと行ってしまった。怒られるかと思ったが、良い人だ。ああいう冒険者に、私はなりたい(笑)。

とりあえず邪魔にならないよう脇に避けてキョロキョロしていると、アルヴィンさんが空いたスペースで手を振っているのを見つけた。

ウォルターと一緒にアルヴィンさんの所へ向かう。広場になっていて案内板が立てられていた。

「すまん。タカさんがカールズに来たのが初めて、というのをすっかり失念していた。」

アルヴィンさんがそう言って頭を掻いている。いやいや、俺が御上りさん丸出しだったから悪いんです。

「こちらこそ申し訳ありません。こんなに大きくてこんなに人が沢山いるなんて思っても見なくて、思わず立ち止まってしまいました。後ろの人たちには悪い事をしてしまいました。」

俺がそういうと、盾役さんが楽しそうに言った。

「いやあ、タカさんとウォルターさんはすごい魔法を操る冒険者だから、すっかり自分たちと同じかそれ以上だと錯覚していたが、改めてこうしてみるとやっぱり成人前の少年なんだな。何だか微笑ましいよ。」

「そうそう、この姿を見ていたら、あんな激しい戦闘ができるなんて思えないですね。」

回復士さんもそう言って笑う。俺はバツが悪くて照れ笑いしながら頭を掻いた。

「それではギルドに向かうとしよう。タカさん、依頼書の処理があるので俺たちと一緒にギルドまで頼む。

それと、タカさんはウォルターの背に乗ったままの方が良いと思う。その方がウォルターの安全性を強調できるだろう。」

アルヴィンさん、気を使わせて申し訳ない。

「分かりました。ウォルターに乗ったまま付いていきます。」

そう言うと、アルヴィンさんを戦闘にフェローズのメンバーたちも歩き出したので、俺はウォルターを最後尾に付かせて後を追わせた。





冒険者ギルドカールズ支部に辿り着くまでに30分ほどかかった。それだけ町が大きいという事だ。町中の移動にも馬車を使いたくなっちゃうね。

実際貴族は常に馬車での移動らしい。そのため町の中央の通りはかなり広く作られている。おそらくは馬車がすれ違える幅を確保してあるのだろう。

路面はしっかり固められてはいるが、石畳が敷かれるまでいってはいない。

雨が降ると危ないかもな、と思った。おそらく雨が降れば路面はツルツルになるだろう。気を付けなくちゃならんな。

辿り着いた冒険者ギルドは、石壁の立派な建物だった。大きさもポルカ出張所の5倍は有りそうだ。それだけ冒険者の数が多い、という事なのだろう。

そして驚く事に二階建てだった。異世界テンプレではギルドマスターの部屋は二階だもんね。後は会議室とか貴重な魔道具とかも二階だっけ?その辺は入って確認すれば良いか。

アルヴィンさんが分厚く重たい扉を開いて中に入っていく。俺もウォルターに乗ったまま後に続く。

ほう、とかへえ、とか言う言葉と視線に混じって、まあ、とかきゃあ、とか言う高い声も聞こえる。女性冒険者か。ウォルターのモフモフに釘付けだな(笑)。

フロアの広さはバスケットコートくらいあるだろうか。早めに仕事を終えたと思われる冒険者たちがカウンターで報酬を受け取っている。

カウンターの広さもすごい。新規登録・相談窓口1~2、依頼受付窓口1~3、報酬支払窓口1~2と7つも窓口がある。窓口につく職員さんは男女半々くらいか。

男性職員はイケメンの優男が多いな。女性冒険者の癒しのためか(笑)。

中にはそんなんじゃ女性冒険者に負けちゃうんじゃない?と言う感じの人もいる。母性本能をくすぐる作戦か?まあ、後ろにガタイの良いのが控えてるから、心配はないのか。

ここも壁際に何席か筆記台があるだけで、カウンターに面するフロアにはテーブルやイスはない。

飲食スペースはフロアに併設される形で隣に設けられている。ここはまともな食堂になっていて、テーブルが5台ほどおかれている。依頼完了後すぐに食事と酒を楽しめるようになっているのだろう。

厨房とバーカウンターが別々に設えられていて、デパートやスーパーのフードコートみたいな感じだ。どんな酒と料理を出してるのかな?

とりあえずウォルターから降りて筆記台に向かい、アルヴィンさんから依頼書を受け取ってサインすると、依頼書を持ったアルヴィンさんが報酬支払窓口へ向かう。

他のパーティーメンバーはフードコートの方に移動して、イスに腰掛けて待っている。解散の挨拶まで付き合うか。

アルヴィンさんが受け取った報酬を持ってやって来たので、一緒にパーティーメンバーの所へ向かう。

「無事依頼完了だ。タカさんとはここからは別行動になる。おかげさまで貴重な経験をさせて貰った。ありがとう。」

アルヴィンさんが右手を差し出して来たので握手する。他のパーティーメンバーとも代わる代わる握手した。

「俺たちはこれから宿を取って食事に出る。タカさんも一緒に打ち上げを、と言いたい所だが、ギルド側と色々話し合いなどがあるんだろう?すまんがここで失礼させて貰う。

ヴァレンティナで会う時間があったら、改めて一緒に一杯やろう。それでは。」

そう言ってフェローズの皆んなはギルドを後にした。ちょっと寂しい。

気を取り直して俺は俺の仕事をする事にしよう。ウォルターを伴って新規登録・相談窓口へと向かう。

窓口の職員は男女1人ずつだったが、空いていたのは女性の方だった。紅茶の名前が付いたキャラクターによく似た感じの人だ。もちろんお胸は超弩級です(笑)。

「いらっしゃいませ。冒険者ギルドカールズ支部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

和かに対応してくれる。自然とこちらも笑顔になる。

「はじめまして。私、ポルカ村から参りましたレギュラー級冒険者、タカと申します。こちらは私の家族で従魔のウォルターと言います。

この度はグランビア王国王都ヴァレンティナに御座います、冒険者ギルドグランビア王国本部からの要請でこちらに罷り越しました。

冒険者ギルドポルカ出張所のイエルク様より書状を賜っております。どうぞご確認ください。」

そう言いながら手紙を渡す。受付嬢は俺の口調に驚いたが、すぐに笑顔に戻った。

「畏まりました。ギルドマスターへお取り次ぎいたしますので、恐れ入りますが私とご一緒にお越しいただけますか?」

えーえーえー、何でここもギルマスが出て来んのよ。そもそも手紙にはギルマス宛てって書いてないじゃん。面倒は嫌なんだよー。

とは言ってもここまで来てそんな我儘も通るはずはないだろう。仕方ない。着いて行くしかないな。

「分かりました。よろしくお願いします。」

そう言うと、受付嬢は笑顔で立ち上がった。
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