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案内された応接室は、ポルカ村のギルド出張所で案内された応接室とは段違いの広さだった。

大きな長方形のテーブルを中心に、囲むように大きなソファーが並べられている。一度に20人は座れそうだ。広すぎてどこに座れば良いか分かんねえよ(笑)。

いわゆるお誕生日席にはギルマスの席であろうシングルソファーが設えてあった。華美ではないが質の良さそうな椅子だ。ちなみにこちらの大ソファーも豪華すぎないように配慮されているように見える。

「タカ様と船長はこちらのお席に、レイクブリーズの皆様はこちらのお席にお掛けください。ただいまお茶をご用意します。少々お待ちください。」

ロミーさんは案内を終えて優雅に一礼すると、手伝いの職員と共にお茶を用意し始めた。ウォルターは俺の後ろで伏せている。

別の職員が先にお菓子を配ってくれる。掌くらいの大きさのマドレーヌみたいな焼き菓子だ。レイクブリーズのみんなは緊張で一言も喋ろうとしない。

「ありがとうございます。美味しそうですね。」

と職員に話しかけて見ると、ニッコリと笑顔を返してくれた。

「ヘイゼルで評判のお菓子なんです。きっとお口にあいますよ。」

そう言うと一礼して下がる。入れ替わるように別の職員が紅茶を配りだす。あ、これ、嗅ぎ慣れた匂いだ。

「良い香りですね。カモミールですか?」

職員に話しかけるとこちらもニッコリと笑顔を返してくれた。

「ヘイゼルで流行りのハーブティーです。ポルカ村から送られてくるハーブはあっという間に売り切れてしまうほどの人気なんですよ。ぜひいっぱい採ってくださいね。」

そう言うと一礼して下がっていった。いや本当に皆さん美人で立ち居振る舞いが綺麗だわ。アントンとマーフィーはもちろん、クラーラとメリナまで見惚れてるよ。

「おう!確かにこりゃ美味えや!甘い物なんて久しぶりだぜ!」

船長はマイペースだ(笑)。俺はまず紅茶に手を伸ばす。カップから立ち上る香りを楽しみ、一口含む。うん、美味しい。お湯の温度も蒸らしもピッタリだ。ふう、と一息ついた。

「美味しいなぁ。」

思わず呟いてしまった。そんな俺の姿を見て、レイクブリーズの4人もようやく動き出す。

女子2人はお菓子へと手を伸ばし、男子2人は紅茶に手を伸ばす。

紅茶を口にしたアントンは驚いた顔で呟いた。

「俺たちが採取したカモミールって、こんな風に美味しく飲まれてるんだな。知らなかったよ。」

思わず口にしてしまったようだ。

それを聞いて女子2人が紅茶に手を伸ばし、一口飲むとほう、と蕩けた表情をする。

「これ、村でもできるかしら。こんな美味しいお茶、村でも飲みたいわよね。」

「ゾーイさんにお願いしようよ。村に帰ったら、カモミールいっぱい採取しよう。」

女子の結束きたー!(笑)。まあ、男子チームもハーブティーの美味しさに驚いたようだし、自分たちが採取したハーブが、こんな風に町の人たちに利用してもらえてると分かったら、仕事にも精が出るでしょ。

俺はお菓子に手を伸ばす。少し千切って見ると、固めのパウンドケーキのような感触だ。口に入れるとバターの香りがふわりと広がる。

「バターの良い香りがします。贅沢なお菓子ですね。」

微笑みながらロミーさんに言うと、一瞬驚いた顔をして、すぐに笑顔に戻った。

「良くお分かりになりましたね。ジニアル領だけでなく、他領にも知られる高級菓子店の品です。今日は大切なお客様がお越しになるから、とのギルドマスターの命令でご用意いたしました。お口に合って良かったですわ。」

そう言いながら俺を探るように見つめる。ギルマスと同じ目をしてんじゃん!この人、絶対元高位冒険者とかでしょ。都会のギルドは怖いねぇ。

「おうロミー!ペンとインク貸してくれ!さっさと依頼書を仕上げてしまわにゃならん!時間は有効に使わなきゃな!」

お茶もお菓子も早々とやっつけた船長が騒ぎ出した。本当にマイペースな人だ(笑)。

「ロミーさん、私にもペンとインクをお願いします。レイクブリーズの護衛依頼書に完了のサインをしなければならないので。」

ロミーさんにお願いすると、笑顔で用意してくれた。アントンが慌ててバックパックから依頼書を取り出して寄越す。

「アントンさん、どこにサインすれば良いんです?」

俺はアントンに教えてもらいながら完了報告欄にサインして、依頼書をアントンに返した。

「ロミーさん、ありがとうございました。」

お礼を言いながらロミーさんにペンとインクを返す。

「おうロミー!こっちも上がりだ!受付に出してくれ!」
そう言いながら依頼書と金貨2枚をロミーさんに渡す。待機していた別の職員が依頼書と金貨2枚を携えて部屋を出て行った。

入れ違いにギルドマスターが入ってきた。立ち上がろうとする俺を手で制し、ふわりと席に着く。

「待たせて済まなかったね。改めて、当ギルドのギルドマスターをしているジョナサンだ。よろしくね。それじゃあ、カワシャチ討伐時の状況を詳しく聞かせてもらおうか。」

「では私からお話しします。今回私がヴァレンティナに呼ばれた事にも関係しますので。」

そう断りを入れ、状況説明を始めた。カワシャチが現れた時にとっさに左右に分かれた事、アントンの指示でそれぞれの攻撃手段を確認したところ、水中の動物に通用する攻撃手段を持ち合わせていたのが俺とウォルターだけだった事、そのためアントンの指示に従い、俺とウォルターでタイミングを合わせてカワシャチを攻撃して撃退した事、その後船長が来てくれたので状況を報告した事。

ちょっとだけ嘘が混じっているが大した事ではない。アントンたちは顔が引き攣ってるけどね。

黙って聞いていたギルマスが口を開く。

「うん、状況は把握できた。ありがとう。船長とレイクブリーズの皆さんは受付で依頼報酬を受け取り、解散してください。お疲れ様でした。タカさんはこちらの大事なお客様なので預からせてもらいます。船長、タカさんとの食事はまたの機会にお願いします。」

口調は優しいけど有無を言わさぬ威圧を乗せてきた。あ、この人、権力と自分の実力の両方をしっかり把握してる人だ。一番厄介なタイプじゃん。

「おいジョナサン。その言葉は、冒険者ギルドヘイゼル支部ギルドマスターとしての言葉なんだな?」

船長が静かな口調で問い質す。船長、静かにしゃべる事もできたんですね(笑)。

「はい。グランビア王国ジニアル領冒険者ギルド、ヘイゼル支部ギルドマスターとしての言葉です。」

まっすぐに船長の目を見据えて言う。どちらも真剣な表情だ。

数秒の見つめ合いの後、船長から視線を外した。

「分かった。今日は引き下がろう。タカ、いつでも良い、安息日の前の日に尋ねて来い。俺の奢りでしこたま飲ませてやる。じゃあ、またな。おい、お前ら、飯だ飯。とっとと付いてきやがれ。」

船長はそう言うと立ち上がり、ロミーさんが開けてくれたドアから出て行った。レイクブリーズの皆んなも慌てて立ち上がり、俺の事を気にしながら出て行った。

ドアが閉められ、沈黙が部屋を支配した。誰も身じろぎひとつしない。俺は溜め息を一つつき、紅茶のカップを手に取って温くなったお茶を一息に飲み干した。

「ロミーさん、お代わりを頂けますでしょうか?それとギルドマスターの分のお茶と、出来ればロミーさんもご一緒に。話が長くなるかもしれません。3人で腰を落ち着けて話しましょう。」

ギルマスがピクリと眉を動かした。

「何故ただの職員であるロミーを我々の話に混ぜようとするのかね?」

ロミーさんがティーポットにお湯を注ぐ音を聞きながら俺は答える。

「簡単です。ロミーさんは貴方と同じ目をしているからです。ただの職員ではないのでしょう。いえ、本当は職員ですら無いのかもしれません。そう思ったからです。」

ギルマスはじっと俺の顔を見つめていたが、不意に笑顔になった。

「本当に、君は恐ろしい少年だね。底が全く見えないよ。一体どんな世界を生きてきたのやら。」

肩を竦めながら首を振る。ロミーさんが3人分のお茶をテーブルに乗せ、俺の対面に座った。

「君の想像通りだ。ロミーはただのギルド職員では無い。詳しくは話せないが、それだけは教えておこう。」

「結構ですよ。色々想像するのも楽しいですから。例えば、ロミーさんは元高位冒険者で、現在は裏の副ギルドマスターであり、ギルドマスターのお目付役兼護衛なんだろうな、なんて想像するとワクワクしてしまいますよ。」

そう返すとガチャリ、とカップが音を立てた。ロミーさんがカップを掴み損ねたのだ。幸い紅茶は溢れなかったが、ロミーさんが動揺しているのは明らかだった。当たらずとも遠からじ、って感じか?

「・・・・失礼しました。」

ロミーさんが動揺を隠すように頭を下げた。

「いえ、私の想像があまりにも突飛で驚かれたのでしょう。私こそ失礼をお詫びします。」
頭を下げると2人から強烈な威圧が飛んできた。

その瞬間ウォルターが跳ね上がるように俺の後ろに立ち上がり、全身に雷を纏った。

俺も威圧がきた瞬間に左手を火涼天翠のグリップに、右手をM45のグリップにかけていた。ゆっくりと頭を上げる。武器を手にした事で俺の殺気が溢れたのだろう。2人がたじろいだ。

「すいません。いきなり威圧を受けたのでこちらも殺気立ってしまいました。ウォルター、大丈夫だから魔法の準備を解除して。」

「分かりました主。ですがこのまま警戒します。」

ウォルターの念話が届いた時、2人が明らかに驚いた。ウォルター、念話が2人にも聞こえるようにわざと強めて飛ばしたな。全くこいつは。

「ウォルター?念話は2人だけで、って言っておいたはずだけど?」

「申し訳ありません主。ですが一方的に威圧をかけてくるような相手です。警戒して当然かと。」

2人が俺とウォルターの念話を聞いて険しい顔をしている。おそらくウォルターの強さを推し測っているのだろう。残念ながら、あんたらに俺たちは測りきれないと思うよ。

「心配してくれてありがとうウォルター。もう大丈夫だから。」

「畏まりました主。」

そう言いながらウォルターはお座り姿勢で2人への警戒を続ける。振り返ってその首筋を撫でてやり、ソファーにかけなおした。お遊びは終わりかな?

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