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船に乗り込み、水夫の案内で船首付近のオープンデッキへ案内される。初めて船に乗る客は船酔いしやすいので、風が当たる船首側に案内されるらしい。慣れている常連は中央付近で思い思いに腰を下ろし、ユッタリと談笑している。

俺たちも思い思いに腰を下ろした。メリナとマーティーは船首に張り付くように一番前に座り、その後ろにアントンとクラーラが、そしてその後ろが俺とウォルターだ。

ウォルターは頭だけを起こしてユッタリと横になり、俺はウォルターの腹によしかかってもたれ掛かる。クラーラが羨ましそうに此方を見ている。仲間にして欲しそうだ、ってやつだな(笑)。

「ね、ねえ、ウォルター、だっけ?触っても大丈夫かな?撫でても平気?」

クラーラが手をワキワキさせながら聞いてくる。目が輝いてる。

「ウォルター、クラーラさんが触らせて欲しいって。良いよね?」

ウォルターに声を出して尋ねると、

「ウォフ」

と返事をして頭を下げた。

「し、失礼するわね。」

恐る恐るウォルターの頭を撫でるクラーラ。その毛並みの柔らかさにだんだんと撫で方が大胆になり、しまいには抱きついてしまった。

「はああああ、最高・・・・。」

ウットリとした表情でウォルターの毛並みに埋まっている。

「あー!クラーラだけずるーい!メリナもオオカミさん抱っこするー!」

メリナが駆け寄ってきてモフッ!と抱きついた。すぐに毛並みに埋まっていく。

「ふああああ、しゅごい・・・・。」

蕩けてしまったようだ。残る男2人は苦笑している。

「ウォルター、2人の好きにさせてあげてね。」

そう声をかけてアントンとマーティーの所へ向かう。

「アントンさんは戦士でしたね?メインの武器は槍ですか?弓ですか?」

アントンに尋ねる。彼は身長が180cmくらいなのだが、自分の背よりも少し長い、おそらく2mくらいの槍を担ぎ、同じくらいの長さの弓と矢筒を背負っていたのだ。

「ああ。俺はもともと猟師で弓の方が得意なんだけど、この面子だと前衛がいなくなっちゃうからね。幸い止め刺しで槍を扱い慣れてたから、槍を鍛えて前衛に上がったんだ。

でも、初撃は今でも弓を使ってる。まず弓でダメージを稼ぎ、俺とマーティーが前衛として突っ込んで敵と相対、クラーラは中衛として取り零しを叩き、メリナが後方から魔法で支援、ってのが俺らの戦い方だ。」

なるほど、よく考えてる。バランスも悪くない。できれば完全前衛がもう1人と盾役が1人加われば、アントンとマーティーが遊撃に回ってよりバランスが取れるだろう。

「なるほど。パーティーを組むとなるとそういったバランスも考えなければならないのですね。参考になります。
マーティーさんは弓と剣ですか?」

今度はマーティーに話を振る。

「うん、僕は弓と短剣だよ。鍛えて盾役になろうと頑張ったんだけど、お前は身軽さと器用さを磨いて武器にしろ、ってアドバイスされてね。それで斥候になったんだ。君は?狼まかせで君自身は戦わないの?」

マーティーが屈託無く聞いてくる。

「こら、失礼だぞ。全くお前は。」

と言いながら、横からマーティーの頭を小突いている。

「私は短剣と体術を使うのですが、メインは珍しい魔道具なんです。先日、草原で雷が鳴り響いたでしょ?稲妻に似た光と礫を放つ魔道具が私の武器です。それを使えばクマくらいなら私1人で倒せます。」

2人は目を丸くして驚く。

「あのデカい音を鳴り響かせたのはお前の魔道具だったのか。何が起きたのかとビックリしたぜ。しっかし1人でクマを倒せる魔道具なんてスゲえな。なあ、その魔道具、見せてくんねえか?」

2人は目をキラキラさせている。

「魔道具を誰かに奪われたり狙われたりすると困るので、あまり人が多いところでは出せないんですよ。申し訳ありません。」

そう言って頭を下げる。

「そうかあ、そうだよな。貴族や王族に目をつけられて取り上げられるかもしれないもんな。ごめんな無茶言って。
でも、そんなスゴい魔道具持ってるなら、俺らの護衛なんて要らなかったんじゃねえの?」

うん、それは確かにそうなんだけど、そこはオトナの事情なのさ(笑)。

「私はまだ14歳で、クラスもレギュラーなんですよ。なので重要書類の移送依頼を受けることが出来なかったので、逆に私が移送される立場になったんです。本来は書類のみ先に送り、3週間くらい後に私が移動するはずだったんですが、面倒なので全部まとめて一緒にしていただきました。」

2人に詳しい事情を説明する。若いので面倒ごとは好きじゃないのだろう。露骨に嫌そうな顔をしている。

「新職業や新技能って大変なのな。ってか、14で即レギュラーに上がってて、しかもクマと一対一で勝てるなんて、恐ろしい強さだなお前。15になったらすぐにエースに上がるんじゃね?追いつかれないように頑張んねえとな。」

そう言いながらガリガリと頭を掻いた。

「私は親父とウォルターの3人だけで森の中で暮らしてたんです。おかげで徹底的に鍛えられました。物心ついた頃から冒険者として活動していたようなものですから、多少は強くないと割りに合わないですよ。」

そう言って笑って見せた。2人もつられて笑い始めた。

そんな話をしている最中に出港の時間になったようで、船は静かに動き始めた。







船は何頭ものカワイルカに引かれて進んでいく。スゴいスピードだ。下りだというのに船首に切り開かれた水面には白波が立っている。カワイルカ恐るべし。

クラーラとメリナはウォルターのお腹に埋もれてスヤスヤと寝ていた。とても幸せそうな寝顔だ(笑)。

そんなのどかな時間が突然失われた。なんの前触れもなくいきなりグラリと船が大きく揺らめいたのだ。立ち上がっていた人の中には転んだ人もいる。クラーラとメリナはウォルターのお腹から投げ出されて目をパチクリさせている。何が起こった?

「くそっ!カワシャチの群れだ!イルカたちが怯えて暴れてやがる!このままだとヤバいぞ!」

水夫の叫び声が聞こえた。左舷の船縁にしがみついて水面を見ると、背鰭が悠々と水面を切り裂いている。右舷にも複数の背鰭が浮かんでいた。

クソッタレめ。よりによって俺の乗った船にちょっかいかけてきやがって。後悔させてやるぜ。

「クラーラさん!カワシャチに襲われてます!雷系の魔法は使えますか!?」

大声で訊く。

「ダメ!私は火と風の系統なの!水中の動物とは相性が悪い!」

チッ!しょうがねぇ!

「ウォルター!カワシャチだ!雷系の魔法を準備しろ!合図したら右側の水面に浮かぶ背鰭に派手にぶっ放せ!」

口に出して大声で叫ぶ。

「分かりました主!」

ウォルターが右舷に向かい、全身に雷を纏う。

「アントンさん、マーティーさん、私の魔道具をお見せしますよ。」

そう言ってレミントンM870MCSロングを取り出す。

「こいつには音を抑える魔道具を取り付けてあります。心配しないでください。」

ジャキンッ!フォアエンドを操作して初弾を送り込む。俺の前に浮かぶ背鰭は3つ。2発ずつ撃ち込んでも大丈夫だ。

「ウォルター!俺が撃てと言ったら撃て!良いな!」

再び叫ぶ。

「はい主!お任せください!」

ウォルターが返事を返す。自分から一番遠い背鰭の付け根に狙いを定める。カウントを取る

「3、2、1、撃て!」

声に出してウォルターに叫ぶと同時に引き金を引いた。

ドムッジャキイン!ドムッジャキイン!
ドムッジャキイン!ドムッジャキイン!
ドムッジャキイン!ドムッジャキイン!

三頭の背に2発ずつスラッグを撃ち込んだ。水面に弾かれないように背鰭の近くを狙い、背中の肉を抉り飛ばす。すぐにスラッグを収納から取り出して弾を込めて行く。

シャコッシャコッシャコッシャコッシャコッシャコッ

浮き上がってくる背鰭がないか油断なく水面を見回す。水面に赤い筋が浮き上がる。背中に傷を負って逃げ出したようだ。赤い筋がどんどん船から離れていく。そのうち力尽きるだろう。撃退成功だ。

「ウォルター、そっちはどうだ?」

ウォルターに念話を飛ばして戦果を確認する。

「はい主、三頭ほど電撃で麻痺して水面に浮いています。主の銃でトドメを刺せませんか?」

ウォルターからの返答がくる。

「いや、そのままで良い。シャチは頭が良い。逆に生かしておけば、船のカワイルカを襲う事は無くなるだろう。そのまま放っておけ。」

そう言いながらフォアエンドを操作して薬室の弾を抜き、次弾を引っ張り出してフォアエンドを戻し、抜いた弾を込める。余った弾と共に収納する。

デッキ中央に戻ると4人の顔が引き攣っていた。

「あんな離れたカワシャチに怪我を負わすなんて、どんな威力なんだよその魔道具。」

「こんなの食らったら人間なんてひとたまりもないです。」

「ウォルターの魔法、私より強い。」

「マスター級の魔法を放つ狼なんて反則よ。」

俺はウォルターを撫でながら4人にニッコリと笑いかけて言った。

「これがヴァレンティナに呼ばれた理由です。」

「「「「(うん)(ええ)、よく分かった(よ)(わ)」」」」

4人揃ってブンブンと首を縦に振った。

後ろからハゲ頭の大男が走ってきた。いかにも海の男というガタイの良さだ。川だけどね(笑)。

「俺は船長のディランだ!カワシャチを撃退してくれたのはお前たちだな!良くやってくれた!ジニアルに着いたらギルドに事後依頼で依頼達成を出してやる!パーティー名を教えろ!」

すごい勢いでアントンの両肩を掴んで揺さぶっている。目を回しそうな勢いだ(笑)。

「パーティー名はレイクブリーズです。私とこの狼はパーティーメンバーではありませんが、彼らの指示に従って魔法と魔道具を放ちました。全て彼らの手柄です。」

そう言って4人に向かってウインクした。

「そうか!魔法の強さや魔道具の強さはもちろんだが、それらも的確な指示があってこそだ!レイクブリーズ、覚えておくぞ!で、お前さんは?ソロなのか?」

「はい、こちらの狼の従魔と組んでいます。私はまだ14歳で、おまけにレギュラーです。成功評価をいただいてもランクアップ出来ません。なので、評価は全てレイクブリーズにお願いします。」

そう言って頭を下げる。

「いやいやそう言う訳にはいかん!貢献値はちゃんと累積されるんだ!お前さんの手柄もちゃんとギルドに報告するからな!名前は!?」

チッ、逃げきれないか。

「私はタカ、コッチは家族で従魔のウォルターです。どうぞよろしく。」

あらためて頭を下げる。

「ああ!お前なら15になればすぐにエースに上がるだろう!いや、この調子で貢献値を貯めれば一気にヴェテランも夢じゃない!自分の手柄は遠慮したり隠したりせずにちゃんと主張するんだぞ!それが良い冒険者ってもんだ!じゃあな!」

ディラン船長はガッハッハと大声で笑いながら戻って行った。はあ、カワシャチ退治より疲れたよ。

気がつくとレイクブリーズの4人がジト目で俺を見ていた。

え?俺、何か悪い事した?

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