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「ねえウォルター、村長の家にむかってくれるかな?」

ウォルターに頼む。

「村を出ることを報告するんですね。畏まりました。では、参ります。」

ウォルターは村長の家に向かって歩き出した。ちゃんと覚えてるのね。偉い偉い。



村長の家に着き、ウォルターから滑り降りる。馬留めの所にウォルターを待たせ、ドアをノックする。

「どなたかしらー?」

ゾーイさんの声がした。

「突然の訪問失礼いたします。猟師のタカです。ご報告があって伺いました。」

そう言うとすぐに扉が開いた。

「まあまあ、タカさん。報告なんて何か大変な事でも起きたのかしら?取り敢えず中にお入りなさいな。」

ゾーイさんが優しい声で言う。

「いえ、誠に勝手ながらこちらで失礼させていただきます。
実は冒険者ギルドの要請で、明日の朝出航する定期船でヴァレンティナへ向かう事になりました。そのご報告と、ゾーイさんにお渡ししたい物があってお伺いしたのです。」

ゾーイさんが不思議そうな顔をする。

「私に渡したい物?一体何かしら?」

小首を傾げる。女性は歳を取ってもチャーミングだね。

俺は収納からローズヒップ、ペパーミント、カモミール、レモングラス、などのハーブティーに向いたハーブを両手一杯に抱えるようにして取り出し、ゾーイさんに渡す。

「あらあらまあまあ。こんなに一杯の野草、嬉しいけどどうすれば良いのかしら?」

ゾーイさんは少し困った顔をした。

「これはどれも紅茶に混ぜるととても良い香りになる野草です。生のまま刻んでお茶に入れても良いですし、乾燥させてお茶の葉とブレンドしても大丈夫です。それぞれ香りが違うので色々試してください。美味しいお茶をご馳走になったお礼です。

フランクさんには、私のような何処の誰とも分からない風来坊を受け入れて頂き、心から感謝しています。どうぞくれぐれもよろしくお伝えください。

出発の準備がありますので、これで失礼させていただきます。どうかご無礼をお許しください。それでは。」

深々と頭を下げて背を向ける。両手がハーブで一杯だから、追っかけてこれないだろ。

「タカさん、ちょっと、ちょっと待って。フランク!フラーンク!お願いちょっと来て!タカさんが!フラーンク!」

あっはっは。別れが長くなりそうだったから、すぐに逃げれるように手を打ったのさ(笑)。

ウォルターの背に飛び乗り、振り返ってもう一度深々と頭を下げて、ウォルターに酒場に向かうように告げた。




ウォルターの背に揺られながら酒場に着いた。さすがにウォルターと酒場に一緒に入るのはマズいだろうから、食堂との間に隠れてもらう。

酒場に入ると既に沢山の人が飲んでいた。今日もカウンターの端が空いているので、隣の客に会釈して滑り込むように座る。

「マスター、相談があるのですが宜しいですか?」

カウンターの中へ声をかける。マスターはこちらの声に気づき、ユックリと近寄ってくる。

「うちはツケはお断り。物々交換もやってない。それ以外の相談なら聞くだけは聞いてやる。相談ってのは何だ?」

おおう、商売人だねぇ。好きだわこういう人。

「実は冒険者ギルドの要請で、明日出航の定期船に乗ってヴァレンティナに行く事になりました。道中に飲む酒を買いたいのですが、水筒の持ち合わせがありません。もし小樽で仕入れた酒があったら、樽ごと購入したいのですがお願いできませんか?」

マスターに相談内容を説明する。地球でも1樽の単位として使われている「バレル」はおよそ200リットルくらいだが、運搬用の小樽として「クオーター」や「オクタブ」という物が存在するのだ。もしそれに該当するサイズで仕入れている物があれば、そのまま買い取ってしまおうと思ったのだ。

「どうやって運ぶ?」

マスターが鋭い目付きで訊いてきた。冗談だと思っているのだろう。

マスターに手招きして顔を近づけてもらい耳打ちする。

「私は収納持ちなんです。内緒にしてますが容量がデカくて、普通の酒樽が10は入ります。
ですが、せっかく買った酒を飲みきれずにダメにしてしまってはもったいないので、小樽があればそれで売って頂きたいんです。
もちろん無理にとは言いません。こちらの商売の邪魔をするつもりはありませんので。」

マスターにそう告げる。

マスターはジロリと俺を一睨みして、カウンターに入っている若い男に何事か告げ、カウンターから出てきた。

俺を手招きして再びカウンターの中に戻っていく。俺は人の間をすり抜けてカウンターへ向かい中へ入る。

マスターは俺がカウンターに入ったのを確認し、奥にある扉の鍵を開けて中に入っていく。

慌てて後を追いかけると、中にはランプを持ったマスターが待っていた。

「扉を閉めろ。」

マスターの声に従い扉を閉めると、奥に向かって歩き出したので後をついて行く。

少し歩くと酒樽が沢山並んでいた。おそらく今回の定期船で仕入れた物で、これから整理して並べ直すのだろう。そして、やはり小樽は存在した。容量は60リットルくらいだろう。正直少し多いが、俺の収納は時間停止が付いてるんだから問題は無いか。

「俺が指示を出す。お前は俺に言われた通り樽を収納し、言われた所に出すんだ。良いな。」

なるほど。俺の収納の容量を試したいんだな。

「分かりました。報酬は何を頂けますか?私も冒険者ですから、タダ働きはしませんよ?」

そう言ってウィンクしてやった。

「ふふっ、若いのに大したもんだ。大小合わせて40樽ある。全部整理できたら、ワインかミードの小樽を一樽報酬としてやるよ。」

マスターが笑いながら言う。報酬としては妥当か。

「分かりました。ミードの小樽を一つ頂きましょう。その他に、ワインと火酒の小樽を一つずつ売ってください。この店での売値で構いません。お願いします。」

マスターは感心した顔でほう、と一言呟いた。

「商売の才もあるのか。お前、商人になったらどうだ?お前なら収納に頼らずに駆け引きでも大成功するぞ。俺が保証する。」

マスターに見込まれたようだ。

「せっかく冒険者になったんです。行ける所まで行ってみます。商人になるのはそれからでも遅くはないと思いますので。」

自分の気持ちを伝える。

「冒険者で稼いで元手を作っておきな。お前なら今までにいない面白い商人になれるだろうよ。」

楽しそうに言う。はは、見た目は怖そうだけど面白いわこの人。

「考えておきます。さあ、指示をください。そして早く終わらせて一杯飲ませてください。飛びっきりの美味しいやつをね。」

マスターにそう言うと楽しそうに笑い声をあげた。



その後マスターの指示に従って、収納を利用して樽をどんどん移動させていった。

どうせならと俺はマスターに提案し、既に倉庫にあった樽も含めて移動し、マスターが使いやすいように、先入れ先出しが楽にできるように、全ての樽を並び替えた。

1時間もかからずに全ての樽を整理し終えた。マスターは驚きと喜びでなんだか難しい顔をしていた。

酒の種類ごとに大樽と小樽をそれぞれ別に並べてあるのだが、マスターは先に出す樽の前で手招きをした。そちらへ向かう。

マスターは小樽を指し示して口を開く。

「こっちがミード、こっちがワイン、こっちが火酒の樽だ。それぞれ一樽ずつ収納に入れろ。報酬だ。」

そう言われて驚く。

「マスター、それではもらい過ぎです。最初に約束していただいた通り、ワインと火酒はお金を払いますよ。」

そう言ったが、マスターは首を横に振る。

「俺は新しく仕入れた樽の整理だけを頼むつもりだったんだ。なのにお前は、自分から申し出て全ての在庫を並び替えた。今後の出し入れもしやすいように考えて、だ。俺は商売人だ。仕事には正当な報酬を支払う。それが商売人としての誇りだ。受けとんな。」

仕事を認めてもらうのは嬉しいね。ここは素直に受け取ろう。

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます。」

そう言って指示された樽を収納する。

「じゃあ戻るぞ。着いてこい。」

歩き出したマスターの後ろに着いて進んだ。扉を開け、カウンターに戻る。

マスターが鍵をかけている間にカウンターの外に出ると、最初に着いた席がまだ空いていたので席へ向かう。

マスターがこちらに向かって来たので、お金を取り出して用意しておく。

マスターが口を開く前に銅貨をカウンターに並べる。

「火酒とエール、それと木の実を。」

カウンターに棒銅貨2枚、銅貨6枚を並べる。マスターはくつくつと笑いながら銅貨を受け取った。

「若いのに頑固なヤツだ。」

そう言って笑いながら酒を準備する。

そのマスターの笑顔を見て、カウンターに座った客の一人が声をかける。

「マスター、珍しく上機嫌じゃねえか。一体どうしたんだい?」

そう声をかけてきた客に答える。

「今日は良い取り引きができたんでな。」

そう一言だけ言って、俺の元にカップを置いた。一旦戻ってもう一杯カップにエールを注ぎ、木の実を入れた皿と一緒に持ってきた。

「乾杯くらいは付き合え。」

そう言ってカップを持ち上げたので、俺もエールのカップを持ち上げた。

「「乾杯」」

互いにそう言ってカップをぶつけ合う。マスターはエールを一気飲みした。もちろん俺もだ。

ほぼ同時に飲み終え、カウンターにカップを叩きつけるように置くと、マスターが大声で笑い始めた。

「今日は気持ちの良い日だ。」

そう言ってカウンターの中央に戻っていった。

「おい若いの。お前の飲みっぷりが気に入った。一杯おごるぜ。マスター、若いのにエールを一杯。俺のおごりだ。」

隣の男がそう言って俺にウインクしてきた。

「ありがとうございます。遠慮なくご馳走になります。」

そう礼を言い、届いたエールをまた一息に飲み干す。歓声が上がった。エールを二杯続けて飲んでちょっと腹に溜まって来たので、俺は火酒のカップを手に取った。

「それを一気に飲めたら1銀貨だ。どうだ?」

2つ隣の男がニヤニヤしながら言ってきた。

俺はニッコリと笑ってカップに口を付け、わざとゆっくりと、しかし一息で飲み干してカウンターにカップを叩きつけ、男に左手を差し出した。店中から歓声が湧いた。

その後、水夫の中で一番の酒豪という偉丈夫と火酒の飲み比べになった。周囲では賭けが行われていた。俺は自分に1金貨かけた。

勝負は11杯目まで進み、12杯目を頼もうとした時に水夫がゆっくりと後ろに倒れた。大歓声が響いた。

俺に賭けたのは俺以外2人しかいなかった。2人とも棒銀貨1枚ずつ賭けていたのでまず賭け金を返してやる。巻き上げた金を数える。最低レートは棒銀貨1枚だったようで、沢山の棒銀貨に金貨が数枚混じっていた。全部で金貨7枚、棒銀貨50枚あったので、賭け金と分配率について説明する。納得したので金貨1枚ずつ渡してやると飛び上がって喜んでいた。

火酒が22杯だと銀貨3枚に棒銅貨3枚か。ざっと店の中を眺めると80人ほどいる。俺はマスターを手招きして呼び、棒銀貨を2枚渡してマスターに言った。

「マスター、今ここにいる全員に火酒を一杯ずつ。もちろんマスターたちにも。それと、お釣りは要りません。」

また大きな歓声が上がった。もちろん俺の元にも火酒が届き、店にいる全員で乾杯した。マスターも店員も一緒だ。

俺は最後の火酒も一息で飲み干し、肩や背中を手荒く叩かれながら酒場を後にして宿へ戻った。

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