上 下
39 / 90

039

しおりを挟む
しばらくするとテオさんと知らない壮年の男性がやってきた。この人がラファエルさんか。

ラファエルさんは横たわるクマを一目見て言う。

「首回りのタテガミのような金色の毛。間違いない。こいつだ。これで一安心だ。」

ラファエルさんが言うと、おお!と歓声が上がった。相当困っていたようだね。

「こいつを討伐したのは君かね?」

ラファエルさんに尋ねられる。

「はい、私です。倒した方法については申し訳ありませんがお教えできません。ご容赦ください。」

頭を下げる。

「構わんさ。冒険者なら、自分の手の内はそうそう明かすものではない。いらぬ諍いを招くこともあるからな。

しかし君のような若くて強い冒険者が現れたなら、私もそろそろ引退を考えても良いかもしれんな。」

ラファエルさんがそんな事を口にした。いやいや、まだこの村に定住するとは決めてませんが(笑)。

「それは困りますよラファエルさん。タカさんはヴァレンティナのギルド本部から招聘されているんです。もしかすると向こうでお抱えになるかもしれません。

それに、アンドレたちはもう少しでヴェテランに昇格じゃないですか。鍛えてきたパーティーの昇格が間近なんです。それまではラファエルさんには頑張っていただかないと。

アンドレたち以外にも、ヴェテランがせめてもう4~5人育つまではお願いしますよ。」

ニコニコしながらイエルクさんが言う。遣り手所長だな。

ラファエルさんはふう、と溜め息を一つついた。

「確かにそうだな。今後このクラスのクマがまた現れた時に、村の冒険者で対応出来るようにしなきゃならん。

イエルク、近くギルド権限で臨時講習を開け。エース以上は全員参加だ。

それと、いざという時のためにギルドの備品として、タワーシールドとロングスピアを用意してくれ。タワーシールドは最低でも6枚、ロングスピアは最低10本だ。

普段の狩りでは使えないし、個人で買わせるには負担が大きすぎるからな。」

おお、ラファエルさんも遣り手だな。

「タカさんが本部へ行くのに合わせて上申します。今回の件を考えれば、それぐらいの融通はしてもらえるでしょう。」

俺、なんかダシにされてるし。まあ良いか。村の平和のために役立つのなら、俺の立場を上手く利用してください。

「他にも獲物がありますので、横に出していきますね。」

そう告げてホイホイと出していく。

ウォルターが狩った魔獣と動物を10匹ずつ、俺が狩った動物を全部だ。ただし毒蛇は全部出してしまう。毒持ちの動物は捌くのも怖いからね。こちらもまだ収納には納入した三倍以上の量が保管されている。

小出しにしないと値崩れ起こしたら困るからね。

「ウォルター、晩飯用に何か捌いて貰おうか?」

ウォルターに念話を飛ばす。

「そうですね。一角ウサギと一角シカ、一角イノシシをお願いします。皮を剥いで内臓を抜いて貰えば、解体しなくても大丈夫です。内臓は食べられない部分だけ処分していただいて、あとは主が保管してください。」

「分かったよウォルター。任せておいて。」

一角ウサギと一角シカ、一角イノシシを3匹ずつ別に出す。

「すいません、こちらはウォルターの餌にしますので、毛皮と角、牙、魔石を買い取りで、肉と内臓は持ち帰りでお願いします。」

「肉はバラすのか?」

解体担当の1人が訊いて来た。

「内臓を抜いて、肉はバラさないでマルのままで結構です。内臓は食べられない部分を処分してください。残りの内臓は持ち帰ります。」

「分かった。任せときな。持ち帰りの分は30分で仕上げてやる。おやっさん、チェックよろしくな。」

解体担当の職員たちが獲物を吊るし始める。

おやっさんが毛皮と角、牙の状態を確認していく。持ち帰り分のチェックを終わらせ、納品分のチェックに移る。一匹ずつ手早く、しかし丁寧にチェックをつけていく。職人だなぁ。

すべての獲物をチェックし終えたおやっさんは、頭をかきながらこちらに来る。

「これだけの数だと計算に時間がかかる。これから戻ってくる連中の納品も受けなきゃならねぇ。悪ぃが明日の昼まで時間をくれ。午後には小切手を渡せるように準備しておく。」

おやっさんは申し訳なさそうにそう言った。

「構いませんよ。宿泊も食事もこちらで面倒を見てもらっていますし、飲み代くらいは持ち合わせがありますから。」

そう告げるとおやっさんはニカッと笑う。

「そうか、お前ぇイケる口か。ヴァレンティナに行く前に一緒に一杯やらなきゃならんな。」

どうやら気に入られたようだ。前世では外で飲むのが面倒で宅飲みばかりだったので、飲み仲間というのがいなかった。せっかく異世界に来たんだ。付き合いを広げるのも悪くない。

「お手柔らかにお願いしますね。一応成人前なので」

そう言うと大声で笑う。

「ガッハッハッハ。心配するな、ちゃんと俺が仕込んでやるさ。」

こういうおっさん、好きだわぁ(笑)。最近の若い子には敬遠されるのかもしれんが、俺はそもそもアラフィフだからね(笑)。良いお付き合いが出来そうだ。

そんな与太話をしている最中に、持ち帰り分はもう3匹目にかかっていた。内臓は一匹分ずつ別の盥に入れてくれてる。ありがたい。

「タカさん、申し訳ありませんが明日は森に入らずに1日お休みしていただけませんか?クラスアップの手続きをしたいのですが、チェックシートが上がってこないと貢献値が把握できませんので。」

イエルクさんからお願いされる。別に金に困ってるわけじゃないし、1日2日ノンビリしても問題ない。

「分かりました。明日は森へは入らずに、午後からギルドに伺います。」

そう言うと安心した顔をした。

「おう、持ち帰り分、上がったぜ。」

声をかけられる。

「ありがとうございました。解体手数料は報酬から引いてください。」
そう言いながら収納していく。

「んじゃ預かり証を渡すから、タグを頼む。」

おやっさんに言われてカウンターに向かい、タグを渡す。

おやっさんはタグを固定し、墨でチェックシートに写していく。4枚それぞれに写し終わると、小切手とは違う用紙にタグを写し取る。そして、チェックシート4枚に書き記されている品名と数量を書き写していく。

最後に、以上の品、間違いなく納品された事を証明する、と記載しサインした。

「明日はこれを持って先にコッチに来てくれ。こっちのチェックシートの内容と間違いない事を確認した上で小切手を切る。それからギルドカウンターで支払いだ。」

おやっさんから預かり証を受け取り、収納へしまう。

「それでは明日の午後にまた伺います。失礼します。」

皆んなに向かって頭を下げ、ウォルターの元へ向かう。

「さあウォルター、一旦宿に戻って一休みしよう。食事はその後だ。」

ウォルターの背に跨りながら言うと、

「かしこまりました主。では参ります」

と言いながら立ち上がり、宿へ向けて歩き出した。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

異世界列島

黒酢
ファンタジー
 【速報】日本列島、異世界へ!資源・食糧・法律etc……何もかもが足りない非常事態に、現代文明崩壊のタイムリミットは約1年!?そんな詰んじゃった状態の列島に差した一筋の光明―――新大陸の発見。だが……異世界の大陸には厄介な生物。有り難くない〝宗教〟に〝覇権主義国〟と、問題の火種がハーレム状態。手足を縛られた(憲法の話)日本は、この覇権主義の世界に平和と安寧をもたらすことができるのか!?今ここに……日本国民及び在留外国人―――総勢1億3000万人―――を乗せた列島の奮闘が始まる…… 始まってしまった!! ■【毎日投稿】2019.2.27~3.1 毎日投稿ができず申し訳ありません。今日から三日間、大量投稿を致します。 今後の予定(3日間で計14話投稿予定) 2.27 20時、21時、22時、23時 2.28 7時、8時、12時、16時、21時、23時 3.1  7時、12時、16時、21時 ■なろう版とサブタイトルが異なる話もありますが、その内容は同じです。なお、一部修正をしております。また、改稿が前後しており、修正ができていない話も含まれております。ご了承ください。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

1514億4000万円を失った自衛隊、派遣支援す

ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一箇月。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。 対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。 これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。 防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。 損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。 これは、「1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す(https://ncode.syosetu.com/n3570fj/)」の言わば海上自衛隊版です。アルファポリスにおいても公開させていただいております。 ※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈りいたします。

処理中です...