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俺はウォルターに念話を飛ばす。

「待たせたねウォルター。冒険者ギルドに行きたいんだけど良いかな?」

「畏まりました。どうぞお乗りください。」

ウォルターの返事を受けて飛び乗る。

「湖の方に向かって行けば良いのでしたね。では参りましょう。」

スックと立ち上がると、北門へ向けてトコトコと歩き出す。

「ねえウォルター、人間の言葉が分かるの?」

ウォルターに聞いてみる。

「従魔になる前は主の言うことが何となく分かる感じだったのですが、従魔になってからはハッキリと分かるようになりました。もしかすると主以外の人間とも念話出来るかもしれません。」

あ、これ、上級魔獣になったからか。気をつけないとな。

「ウォルター、俺以外に念話を飛ばさないようにね。もし人間と意思疎通できると分かったら、ウォルターを狙う人間が現れると思うから。」

ウォルターに言うと、

「私は主以外と話しをしたいとは思いません。それに、もし私を狙うような人間が現れたら、返り討ちにしてやりますよ。」

と返してきた。

「人間も動物も魔獣も、不要な争いはしない。争いになるような原因は作らない。こちらから争いを仕掛けない。約束だよ。」

「畏まりました、我が主。」

そんな会話を交わしながら冒険者ギルドに向かう。

広場で休んでいた人達や、球遊びをしていた子供達が目を丸くして見つめてくる。

ルースさんと話しながらだとそれほど気にならなかったのだが、自分達だけになると結構照れるね。

田舎らしい遠慮の無い好奇の目にさらされながら冒険者ギルドに辿り着く。

ウォルターから降り、隣に従わせながら開け放たれた入口を潜る。

異世界テンプレな冒険者ギルドは入り口を潜ると軽食や酒を出すフロアになっていて、その奥に受付などのカウンターがあり、酔った冒険者がフロアに屯していて新顔に絡んでくるものだが、顔見知りしかいないこの小さな村だとそんな厄介者はいないのが当たり前だ。

しかも、ここはただのフロアで食堂や酒場を兼ねてはいない。

小さな出張所だからなのか、これがリアースの標準なのかは分からない。

何人かの狩人っぽい人がカウンターに向かっている。そのうちの1人がこちらを振り返ってギョッとした顔をした。

「ま、魔獣・・・」

真っ青な顔をしている。驚いて振り向いた他の狩人っぽい人たちと、釣られてこちらを見たカウンターの中の職員が、みるみる顔色を失っていく。

身長165cmの俺と体高が変わらない巨狼がいるのだ。腰を抜かしてもおかしくはない。

「失礼します。冒険者登録をお願いしに来ました。こいつは私の従魔です。私の命令に絶対服従ですし、人間には決して危害を加えません。どうぞご安心ください。ウォルター、一旦伏せて。」

ウォルターに声をかけて伏せさせる。外で待たせたら他の冒険者とトラブルになりかねないし、俺に絶対服従である事を手っ取り早く理解してもらうために、ワザと室内に連れ込んだのだ。

「お、おお、あ、あんたのいうことはきくんだな?お、おそったりしてこないな?」

震える声で狩人っぽい人が尋ねてくる。

「はい、こちらからは危害を加えません。ですが、相手から危害を加えようとしてくればその限りではありません。外で待たせると要らぬトラブルになるかと思い、ご迷惑かとは思いましたが一緒に連れて中に入らせていただきました。

壁際で待機させるので、どうぞご了承ください。ウォルター、あっち側の壁際で伏せて待ってて。」

ウォルターに依頼掲示板と思しき物が掛けられている壁と反対側を指し示し、移動を促す。のっそりと立ち上がったウォルターは、素直に壁際に向かい、ペタリと床に伏せた。

「よ、良く躾けてあるもんだ。森林狼をテイムしているヤツを見たことがあるが、首紐もつけずに人混みを歩いたり、ギルドの中で大人しく言うことを聞くなんて、あいつらよりも遥かに利口だぜ。」

狩人っぽい人が感心したように言う。

「ウォルターは従魔である以前に私の家族なんです。私が生まれた時からずっと一緒に暮らしてきたんですよ。そのおかげでテイマーになれたのかもしれません。」

そう言うと感心したように何度も頷く。

「俺たち狩人の仲間にも、動物や小型の低級魔獣を手懐ける変わり者がいるんだが、あんたも同じなんだな。生き物に好かれるヤツってのはいるもんだ。」

あ、デミウルゴス様が言ってたヤツだね。

「どんな魔獣でも、とは言いませんが、懐く魔獣はいると思いますよ。ウォルターのようにね。
それでええと、冒険者登録はどちらでお願いすればよろしいですか?」

声をかけると慌てて職員の1人が手を挙げる。

「こちらへどうぞ。私が承ります。」

ヒョロリとした感じの背の高い男性だ。異世界テンプレな冒険者ギルドなら受付は美人で巨乳なはずなんだが、これが現実か(笑)。カウンターへ向かい挨拶する。

「はじめまして。私はタカと言います。あちらで伏せているのは私の家族で従魔のウォルター。狩りをしながら旅をしていてこの村に辿り着きました。冒険者としての登録は初めてですので、分からないことばかりです。どうかよろしくお願いします。」

頭を下げた。慌てた様子で職員が返事をする。

「ご丁寧な挨拶ありがとうございます。私は当ギルド出張所で受付全般を担当しているテオと言います。こちらこそよろしくお願いします。」

テオさんも頭を下げてきた。腰の低い人だな。ここならそうそう無茶を言う奴はいないだろうが、大きいギルドに行ったら大丈夫なんだろうか?と心配になってしまった。

「村長から紹介状を頂いておりますのでお渡しいたします。どうぞご確認ください。」

懐から取り出した紹介状をテオさんに渡す。

「確認させていただきますので少々お待ちください。」

テオさんはそう言うと、手渡した紹介状を読み始める。一頻り目を走らせた後、俺の顔を見てニッコリと笑いかけてくる。

「村長からの紹介状、間違いなく拝見しました。タカさんはこの村の住人ではないが、私が身元を保証するので村の住人と等しく扱うように、と書いてありました。これを元に、当ギルド出張所で冒険者登録を承ります。準備いたしますので少々お待ちください。」

そう言うとカウンターの下から何やら引き出した。水晶玉が鉄製の台座に1/3程埋め込まれており、その横には小さな蓋と2つの窪みが、さらにその横には大きな蓋があり、それぞれ何かを挟み込むようになっている。

テオさんは小さな窪みにそれぞれ楕円形の鉄板を入れ、大きな蓋の下に羊皮紙を敷くとそれぞれ蓋をして、留め金のようなものを掛けた。よっこらしょと声を出しながらカウンターの上に置く。

「こちらの水晶玉に手で触れて下さい。貴方の名前、年齢、職業、技能などを自動的に読み取り記録します。

この出張所では仮登録までとなっていますので、冒険者タグ2枚が交付されます。このタグには名前、性別、冒険者活動をするにあたって最も重要と思われる職業、登録したギルド名が表示されます。
羊皮紙の方には貴方の細かい情報が記録され、ギルドにて保管されます。

出張所ではなく正式なギルド支部にて本登録を行った場合、タグの他に一回り大きな四角い冒険者証が交付されます。町の出入りなどは冒険者タグを見せればOKですが、報酬の預け入れや引き出し、各種の支払いなどは冒険者証でなければ出来ません。そのため、当出張所では報酬は現金払いのみとなりますのでご了承ください。

また、この仮登録制度はこのポルカ村だけに認められた特別措置です。他のギルド支部ではいきなり本登録となり、登録料として棒銀貨2枚がかかります。仮登録から本登録への切替の際には切替手数料として棒銀貨1枚がかかります。
当ギルドでの登録料は銀貨5枚となりますのでご了承ください。」

なるほど。仮登録はポルカ村限定での登録なのか。まあ確かに、この村で生活するだけなら充分だわな。もっと幅広く活動したければ、大きなギルドに行って本登録すれば良いわけだ。

「分かりました。お願いします。」

そう声をかけて銀貨5枚を渡し、水晶玉に手を乗せる。水晶玉が水色に光り輝き、台座がブーンと唸るような音を立てる。10秒ほどたって光が消えるとともに音も止んだ。

「はい、登録は完了です。もう手を下ろして大丈夫ですよ。」

テオさんはそう言うと手慣れた感じで留め金を外し、蓋を開けて羊皮紙とタグを取り出した。羊皮紙に記録された内容とタグを見比べて確認しているようだ。が、すぐに驚いた表情になる。

「この職業・・・・すいません、そちらのテーブルにかけて少々お待ちください。」

そう言うと奥に座る男の元へ羊皮紙とタグを持って行ってしまった。仕方がないのでウォルターの近くにあるテーブルに座るとウォルターが足元に寄ってきて伏せたので、頭を撫でてやる。

「主、何か問題でもあったのでしょうか?」

ウォルターが念話を飛ばしてくる

「おそらく職業のモンスターテイマーの関係だろうね。今までは無かった職業だから。でも、心配しなくて良いよ。」

そう念話を飛ばしながら撫で続ける。


10分ほどして、カウンターの跳ね上げ扉を開けてテオさんと一緒に壮年の男性がやって来た。ウォルターがピクリと耳を立て立ち上がろうとするが、撫でながら宥める。

「はじめまして。私は当ギルド出張所の所長をしていますイエルクと言います。よろしくお願いします。」

そう言って右手を差し出してきたので、立ち上がってその手を取り握手した。

「はじめまして。所長自らご挨拶いただき恐縮です。書類をご覧いただいたと思いますが、私は猟師のタカ、こちらは家族で従魔のウォルターです。こちらこそよろしくお願いします。」

挨拶を交わすと、イエルクさんから手振りで座るように促されたので椅子に腰掛ける。

「突然私のような者が出て来てさぞ驚かれたことでしょう。実は登録に当たって初めて見る職業が表示されたので、少しお話させていただきたいのです。よろしいですか?」

よろしいですかって、この状況では断れないじゃん(笑)。

「私がお話できる範囲でなら。」

それだけ告げると、イエルクさんはホッとした顔をして頷いた。

「冒険者の重要な技能に関する話なので、他の冒険者に聞かせるわけにはいきません。申し訳ありませんが、別室でお話を伺えますか?」

イエルクさんは申し訳なさそうにそう告げる。あ、この人、冒険者を大事にしてくれてるんだな。イエルクさんの態度がすごく好感を持てる態度だったので、素直に応じることにした。

「分かりました。ただ、ウォルターだけをここで待たせると、他の冒険者とトラブルになり兼ねませんので、一緒に連れて行って宜しいですか?」

そう問いかけると大きく頷いた。

「モチロンです。それではこちらにお願いします。」

イエルクさんが先に立って歩き出したので、ウォルターに目配せをして立ち上がらせ、一緒に後をついて歩き出した。 

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