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6話
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「ただいまー」
鍵を開けノブを回してドアを開き、私は家の中に足を踏み入れた。返ってくる「おかえり」の声は当然ながらない。部活をズル休みして早く帰ってきたので、まだ時刻は六時にもなっていない。メッセージを送ることは出来たが、流石にまだ彼女と顔を合わせる勇気は出せていない。
仕方がないと自分で自分に言い訳しながら階段を上り、二階にある自室のドアノブを捻る。置いてあるのは本棚に机にベッド、それから制服と私服が数着入っているクローゼットぐらいで、部屋の中は質素だ。片付け忘れたネコのジグソーパズルのピースが床に散乱しているのを無視して、私は机に鞄を雑に放り投げた。その後、背中からベッドに倒れこむ。ぼふっという音と柔らかな布団の感触に身を包まれながら、私は目を閉じて身体を休める。依然として整理し切れていない思考回路を使い、今後の方針について思案する。まあ半分決まっているようなものなので、実際のところは精査が中心なのだけど。
ただその前に、重要なことを確認しておかなくてはいけない。私は仰向けの姿勢のままスカートのポケットに手を突っ込み、スマホを取り出し起動する。パスコードを入力し、ホーム画面に移るや否や、メッセージアプリを起動する。彼女からの返信を確認するためだ。
彼女とのトーク履歴を確認すると、私が送ったメッセージにはきちんと既読が付けられていた。その上で彼女からの返信はない。つまるところ既読無視だ。でもこの場合、これをいい意味で受け取ってもいいのだろうか。
そうだとしたら、私は……。
ベッドから飛び起き、私は一階へと足を向ける。その振動で、ジグソーパズルがさらに散らばった。具体的には、ネコの顔の一部がごっそりと欠けた。直すのは面倒だったので放置し、スマホを手で持ったまま一階まで下りた。台所まで移動し、冷蔵庫に入れてあった炭酸飲料を取り出す。キャップを回し、飲み口を私の口につけてから床と垂直にした。重力の流れに逆らうことなく、必然の事象の枠に収まりながら黒い糖液は私の喉元を通り抜けていく。べたつく甘さと舌に纏わりつく感触が不快だった。やっぱり美味しいとは思えない。
でも今は、嫌いじゃない。内に感じるシュワシュワとしたこの感覚を、心地いいと思えるから。
ボトルをしまい、私は台所にある食卓に腰を下ろした。胸に弾けそうなモノを秘めながら、私は人差し指を目の高さまで持ち上げる。手首を回転させて彼女の唇が触れた方を見ると、胸の中のシュワシュワの勢いが強くなった気がした。
「誓いか…。実際は遠いのにね。遠すぎるほどに。だからむしろこれは……」
そこまで呟いて、私は人差し指に唇を押し付けた。触れた瞬間、身体から多好感が溢れ出てきて、その幸せに全身が包まれるような、そんな錯覚を覚える。ジャグジーに入ったときのような感覚だ。嬉しさと切なさ、その両方が込み上げてきた。それを忘れたくて、もう一度だけ私は人差し指の腹にキスをした。
これでようやく、完成した
「むしろこれは、呪い、かな」
彼女との秘密の関係を口外しないという、彼女に向けた誓い。
そして同時に私の恋心をもう彼女に伝えないという、私に対する呪い。
好きな人には、幸せになってほしい。
たとえその人が、私のことを選んでくれなくても。
たとえその人が、私と結ばれることがなくても。
好きな人の側にいられるのなら、今の私はそれで満足だ。
それが体のいい言い訳であったとしても。
今の私は、それで確かに満たされるから。
私のこの恋心は、私が墓場まで持っていくものだ。誰にも絶対言わないし、誰にも絶対教えない。
だから私は、私に向けて、シーッとした。
人差し指と唇を合わせて。
鍵を開けノブを回してドアを開き、私は家の中に足を踏み入れた。返ってくる「おかえり」の声は当然ながらない。部活をズル休みして早く帰ってきたので、まだ時刻は六時にもなっていない。メッセージを送ることは出来たが、流石にまだ彼女と顔を合わせる勇気は出せていない。
仕方がないと自分で自分に言い訳しながら階段を上り、二階にある自室のドアノブを捻る。置いてあるのは本棚に机にベッド、それから制服と私服が数着入っているクローゼットぐらいで、部屋の中は質素だ。片付け忘れたネコのジグソーパズルのピースが床に散乱しているのを無視して、私は机に鞄を雑に放り投げた。その後、背中からベッドに倒れこむ。ぼふっという音と柔らかな布団の感触に身を包まれながら、私は目を閉じて身体を休める。依然として整理し切れていない思考回路を使い、今後の方針について思案する。まあ半分決まっているようなものなので、実際のところは精査が中心なのだけど。
ただその前に、重要なことを確認しておかなくてはいけない。私は仰向けの姿勢のままスカートのポケットに手を突っ込み、スマホを取り出し起動する。パスコードを入力し、ホーム画面に移るや否や、メッセージアプリを起動する。彼女からの返信を確認するためだ。
彼女とのトーク履歴を確認すると、私が送ったメッセージにはきちんと既読が付けられていた。その上で彼女からの返信はない。つまるところ既読無視だ。でもこの場合、これをいい意味で受け取ってもいいのだろうか。
そうだとしたら、私は……。
ベッドから飛び起き、私は一階へと足を向ける。その振動で、ジグソーパズルがさらに散らばった。具体的には、ネコの顔の一部がごっそりと欠けた。直すのは面倒だったので放置し、スマホを手で持ったまま一階まで下りた。台所まで移動し、冷蔵庫に入れてあった炭酸飲料を取り出す。キャップを回し、飲み口を私の口につけてから床と垂直にした。重力の流れに逆らうことなく、必然の事象の枠に収まりながら黒い糖液は私の喉元を通り抜けていく。べたつく甘さと舌に纏わりつく感触が不快だった。やっぱり美味しいとは思えない。
でも今は、嫌いじゃない。内に感じるシュワシュワとしたこの感覚を、心地いいと思えるから。
ボトルをしまい、私は台所にある食卓に腰を下ろした。胸に弾けそうなモノを秘めながら、私は人差し指を目の高さまで持ち上げる。手首を回転させて彼女の唇が触れた方を見ると、胸の中のシュワシュワの勢いが強くなった気がした。
「誓いか…。実際は遠いのにね。遠すぎるほどに。だからむしろこれは……」
そこまで呟いて、私は人差し指に唇を押し付けた。触れた瞬間、身体から多好感が溢れ出てきて、その幸せに全身が包まれるような、そんな錯覚を覚える。ジャグジーに入ったときのような感覚だ。嬉しさと切なさ、その両方が込み上げてきた。それを忘れたくて、もう一度だけ私は人差し指の腹にキスをした。
これでようやく、完成した
「むしろこれは、呪い、かな」
彼女との秘密の関係を口外しないという、彼女に向けた誓い。
そして同時に私の恋心をもう彼女に伝えないという、私に対する呪い。
好きな人には、幸せになってほしい。
たとえその人が、私のことを選んでくれなくても。
たとえその人が、私と結ばれることがなくても。
好きな人の側にいられるのなら、今の私はそれで満足だ。
それが体のいい言い訳であったとしても。
今の私は、それで確かに満たされるから。
私のこの恋心は、私が墓場まで持っていくものだ。誰にも絶対言わないし、誰にも絶対教えない。
だから私は、私に向けて、シーッとした。
人差し指と唇を合わせて。
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