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第十九話
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外、すげー雪降ってるな。
都心でこんなに積もるのを見たのはどれくらい振りだろう。
窓越しに見た雪はまだ止む様子もなく降り続いている。
カチャリ。
テーブルにコーヒーが置かれる。
ソファに座っていた僕はコーヒーカップに口をつける。
コーヒーを飲みながらちら、と横目で隣に座るこの部屋の主を盗み見る。
その表情はどこか辛そうで……。
「みつるん」
急に名前を呼ばれたことに動揺し、コーヒーが意図せず勢いよく口内に流し込まれる。
「うあっつ!」
舌がヒリヒリする。
何名前呼ばれたくらいで動揺してんだ僕は。
この人と話すために来たんだろうが。
「大丈夫か?」
けほけほとむせ込みながら手で大丈夫とジェスチャーをしてみせる。
その時貴一さんがふっ、と微笑んだ顔を見せた。
ああ、ここに居るのはいつもの貴一さんなんだと安心できた。
僕が好きな人。
居住まいを正しいつもの猫背を少しだけ伸ばす。
すう、と呼吸を整える。
「好きです、貴一さん」
伝えた、ちゃんと伝えられた。
ただ気持ちを伝えただけなのに泣きそうになっている自分がいる。
情けねぇー。
貴一さんは僕の言葉を聞いてはぁ…、と深くため息を吐いた。
「わかってる」
額に手を当て上を仰ぎ見る貴一さん。
今日僕は、逃げない。
何を言われたとしても。
そして、逃がさない。
この人の本心を聞くまでは。
「俺はやめとけ」
そこまでは以前に聞いた言葉だ。
僕が知りたいのはここから先だ。
「その理由を聞かせてもらえますか?」
「みつるん、俺はみつるんが思うようないい男じゃないよ」
俯いた貴一さんは絞り出すような声で低く呟いた。
「俺はな、みつるん。本当はみつるんを誰のものにもさせたくない」
……。
ん?今この人なんて言った?
いや、都合のいい空耳か。
そんなはずないだろ、いやだって。
それは現実に起こるなんて思っても見なかった、ずっとそうだったら良いのにって夢見ていた言葉だったから。
「独占欲の塊で、気持ちが強くなってどうしようもなくなってしまう前に突き放そうとした」
あーもう無理だ……。
これはやべぇ。
「みつるん……」
貴一さんは辛そうな表情をしてこっちを見つめている。
そっとその手が僕の頬に触れ、溢れる涙を拭ってくれる。
「泣くな」
だって、そんなこと言われたって。
「それは無理な話っす……」
次から次へと涙は溢れて止まらない。
「お願いします、貴一さん。逃げないでください」
もはや涙は手で拭いきれない程頬を流れていく。
頬に手が添えられ貴一さんの顔が近づく。
ほんの少し唇が触れた。
それは一瞬だけどまるで雪が解けそうな体温を感じられた。
「わかった、俺の負けだ。みつるん」
敗北宣言をし、体の力が抜けたように微笑む貴一さん。
僕はいつまでも喜びを噛み締めながら泣きじゃくっていた。
「お、雪止みそうだな」
そう言われて窓の外を見やると小粒の雪がちらちらと儚く舞う程度になっていた。
✱
「へっくし!」
おっさんみたいなくしゃみをしてしまった。
いや、おっさんだけど。
「ほら、寒いからちゃんと毛布被っとかないとダメだろ」
同じベッドで同じ布団に包まる。
ぬくぬくと毛布と貴一さんの体温が心地良い。
温もりに包まれた僕はうとうとと船を漕ぎだす。
「安心して寝てろ、起きても傍に居るから大丈夫だ」
ずっと欲しかった言葉をくれる。
この人から欲しかったんだ。
夢の中で僕は見た。
真っ白な部屋に居た僕は出口を求めて叫んでいた。
どのくらいそこに居たのか分からない。
でも部屋から出ることを諦めずに居たらいつしか扉が見えたんだ。
扉のノブに手を伸ばす。
ガチャリと開けるとそこには。
君が、居てくれたんだ。
都心でこんなに積もるのを見たのはどれくらい振りだろう。
窓越しに見た雪はまだ止む様子もなく降り続いている。
カチャリ。
テーブルにコーヒーが置かれる。
ソファに座っていた僕はコーヒーカップに口をつける。
コーヒーを飲みながらちら、と横目で隣に座るこの部屋の主を盗み見る。
その表情はどこか辛そうで……。
「みつるん」
急に名前を呼ばれたことに動揺し、コーヒーが意図せず勢いよく口内に流し込まれる。
「うあっつ!」
舌がヒリヒリする。
何名前呼ばれたくらいで動揺してんだ僕は。
この人と話すために来たんだろうが。
「大丈夫か?」
けほけほとむせ込みながら手で大丈夫とジェスチャーをしてみせる。
その時貴一さんがふっ、と微笑んだ顔を見せた。
ああ、ここに居るのはいつもの貴一さんなんだと安心できた。
僕が好きな人。
居住まいを正しいつもの猫背を少しだけ伸ばす。
すう、と呼吸を整える。
「好きです、貴一さん」
伝えた、ちゃんと伝えられた。
ただ気持ちを伝えただけなのに泣きそうになっている自分がいる。
情けねぇー。
貴一さんは僕の言葉を聞いてはぁ…、と深くため息を吐いた。
「わかってる」
額に手を当て上を仰ぎ見る貴一さん。
今日僕は、逃げない。
何を言われたとしても。
そして、逃がさない。
この人の本心を聞くまでは。
「俺はやめとけ」
そこまでは以前に聞いた言葉だ。
僕が知りたいのはここから先だ。
「その理由を聞かせてもらえますか?」
「みつるん、俺はみつるんが思うようないい男じゃないよ」
俯いた貴一さんは絞り出すような声で低く呟いた。
「俺はな、みつるん。本当はみつるんを誰のものにもさせたくない」
……。
ん?今この人なんて言った?
いや、都合のいい空耳か。
そんなはずないだろ、いやだって。
それは現実に起こるなんて思っても見なかった、ずっとそうだったら良いのにって夢見ていた言葉だったから。
「独占欲の塊で、気持ちが強くなってどうしようもなくなってしまう前に突き放そうとした」
あーもう無理だ……。
これはやべぇ。
「みつるん……」
貴一さんは辛そうな表情をしてこっちを見つめている。
そっとその手が僕の頬に触れ、溢れる涙を拭ってくれる。
「泣くな」
だって、そんなこと言われたって。
「それは無理な話っす……」
次から次へと涙は溢れて止まらない。
「お願いします、貴一さん。逃げないでください」
もはや涙は手で拭いきれない程頬を流れていく。
頬に手が添えられ貴一さんの顔が近づく。
ほんの少し唇が触れた。
それは一瞬だけどまるで雪が解けそうな体温を感じられた。
「わかった、俺の負けだ。みつるん」
敗北宣言をし、体の力が抜けたように微笑む貴一さん。
僕はいつまでも喜びを噛み締めながら泣きじゃくっていた。
「お、雪止みそうだな」
そう言われて窓の外を見やると小粒の雪がちらちらと儚く舞う程度になっていた。
✱
「へっくし!」
おっさんみたいなくしゃみをしてしまった。
いや、おっさんだけど。
「ほら、寒いからちゃんと毛布被っとかないとダメだろ」
同じベッドで同じ布団に包まる。
ぬくぬくと毛布と貴一さんの体温が心地良い。
温もりに包まれた僕はうとうとと船を漕ぎだす。
「安心して寝てろ、起きても傍に居るから大丈夫だ」
ずっと欲しかった言葉をくれる。
この人から欲しかったんだ。
夢の中で僕は見た。
真っ白な部屋に居た僕は出口を求めて叫んでいた。
どのくらいそこに居たのか分からない。
でも部屋から出ることを諦めずに居たらいつしか扉が見えたんだ。
扉のノブに手を伸ばす。
ガチャリと開けるとそこには。
君が、居てくれたんだ。
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