君のとなりにいる僕

結紀

文字の大きさ
上 下
17 / 20

第十七話

しおりを挟む
 初めてきみを見かけた時のことは今でも鮮明に覚えている。

 「今朝は冷えてるな」

 寒さでかじかむ手をコートのポケットに突っ込み暖かさを求める。

 温かいコーヒーでも飲みたいな。この辺にはカフェなんて無かったよな。
 仕方なくキョロキョロと自販機を探す。

 お、あった。
 公園の前に自販機が2台並んでいた。

 おっと、誰か買ってるか。
 どうやら先客が居たようだ。

 「うー、さみー。コーヒー、コーヒーっと」

 その先客もこの寒さの中で小さな温もりを求めて缶コーヒーを買おうとしていた。

 ガコン。

 「って、うわ!」

 遠くからでもその様子が気になってつい見てしまっていた。

 「これ冷たいやつじゃねーか! 僕確かに温かいやつ押したよな?」

 この寒空の下キンキンに冷えた缶コーヒーか。
 ツイてないねぇ。

 ふっ、と笑みを浮かべてしまった。

 「くそー、冷てぇ」

 温もりを求めて期待を裏切られた彼は冷えた缶コーヒーをちびちびと飲みながら歩いて行ってしまった。

 ご愁傷さま。
 ふんふんと鼻歌を歌いながら温かいコーヒーのボタンを押す。

 ガコン。
 
 出てきたコーヒーを拾うと思っていた温かさとは違っていて一瞬頭が混乱した。

 「冷たっ」

 くそー、やられた。
 まるでトラップだな。

 「俺もツイてないねぇ」

 見知らぬ先程の彼に、心の中で笑ったことを謝罪した。

 

 ✱

 

 ここの公園は最近本社に異動してから通勤途中に毎日通り過ぎる。
 いつものように公園を通り過ぎようとすると入口に屈んでいる人が居た。

 どこかで見かけたような気が。

 「いってぇー、雪で滑って転ぶとかだっせぇ……」

 公園の入口付近は日陰で道が凍っているからな。
 気をつけて歩かないと転びそうになる。

 「あ!昼飯のパンがあぁ」

 無惨にも押しつぶされたパンがコンビニ袋から飛び出していた。
 しかもよく見るとあれはポケモンパンか?ポケモンパンって大人でも食べるんだな。
 
 変なところに感心してしまった。

 「くそぉ、ツイてねぇ……」

 彼がツイてないところを見かけたのはこれで二回目だ。
 二度あることは三度ある、ということにはならないように祈っておこう。

 南無。

 バッ、と彼が急にこちらへ振り向いた。
 と思ったら押しつぶされたポケモンパンが入った袋を抱え一目散に駆けていった。

 分かるぞ、恥ずかしさに耐えられなかったんだな。

 うんうん、と一人頷き歩き出した瞬間つるりと足を滑らせ尻もちを着いた。

 ……恥ずかしさで顔から火が出そうだ。

 何事も無かったかのようにすっ、と立ち上がりそそくさとその場を後にした。

 何故だかツイていない彼と縁を感じるみたいだ。呪いか?
 いや、さすがにそれは失礼だな。

 「どういう縁なんだろうなぁ」

 自分でもまだ気づいていない。

 この縁が深く繋がることになるとは。

 

 ✱

 

 その日は早めに仕事を切り上げて帰り路につく。
 
 腹が減ったので何か口に入れようとコンビニに寄ったのだが何を思ったのか、いや例の彼がよぎったんだな。
 ポケモンパンを買ってみた。

 「初めて買ったぞ」

 しげしげとポケモンパンの入ったコンビニ袋を見つめた。

 さっさと帰って食ってみるか。
 味も気になるがどうやらこのパンにはシールが付いているらしい。
 おまけ付きの物は何歳になっても心躍るもんだ。

 そんなことを考えながら機嫌よくいつもの公園の帰り路を通っていると。

 お、居た。
 例のツイていない彼だ。

 いつもは見かけるだけなのにその日は何故だか話しかけてみたいと思った。

 彼が嬉しそうに微笑んでいたから。
 まるで恋人を待っているみたいに見えて。

 ちょっと気になったんだ。
 
 それだけ。だったのにな。

 

 ✱

 

 夜の公園に一人きり。
 大の男がブランコに座って空を見上げている。

 あーあ、泣かせちゃったな。
 願い、届かなかったか。

 雪は大粒の牡丹雪へと姿を変えてきた。

 「さあてと、そろそろ行くか」

 恋に敗れた負け犬は大人しくしっぽを巻いて温かい家へ帰りますか。

 ポケットに手を入れるとコツンと何かに手が当たる。
 
 あぁ、そうだったな。

 ポケットにはあの時のオルゴールが入っていた。

 結局俺じゃ君の涙を止めてあげられなかったな。

 ごめんな。

 空からはしんしんと大粒の雪が降り注いでいるのに彼と過ごせた短い日々を思い俺の心はじんわりと暖かさを感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サプライズ~つれない関係のその先に~

北川とも
BL
上からの命令で、面倒で困難なプロジェクトを押し付けられた先輩・後輩の間柄である大橋と藍田。 大らかで明るく人好きする大橋とは対照的に、ツンドラのように冷たく怜悧な藍田は、互いに才覚は認めてはいるものの、好印象は抱いてはいなかった。しかし、成り行きで関わりを持っていくうちに、次第に距離を縮めていく。 他人との関わりにもどかしいぐらい慎重な三十半ばの男同士、嫌でも互いを意識し始めて――。 表紙イラスト:ぬるめのおゆ。様

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

馬鹿な先輩と後輩くん

ぽぽ
BL
美形新人×平凡上司 新人の教育係を任された主人公。しかし彼は自分が教える事も必要が無いほど完璧だった。だけど愛想は悪い。一方、主人公は愛想は良いがミスばかりをする。そんな凸凹な二人の話。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 作者は飲み会を経験した事ないので誤った物を書いているかもしれませんがご了承ください。 本来は二次創作にて登場させたモブでしたが余りにもタイプだったのでモブルートを書いた所ただの創作BLになってました。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...