君のとなりにいる僕

結紀

文字の大きさ
上 下
13 / 20

第十三話

しおりを挟む
 憂鬱だ……。

 知らずのうちに足で貧乏ゆすりをしていたらしい。
 今日は診察の日で、あの日以来久しぶりに貴一さんと診察室で向かい合った。

 「何か楽しいことでもあったんですか、小林さん」

 そんな僕の気持ちをどう勘違いしたのか貴一さんが尋ねた。 
 
 楽しいことって?
 
 僕は呆気にとられた。
 先日、貴一さんから言われた言葉を思い出す。

 『こうして病院以外でみつるんと会うことはもうない』
 『俺とみつるんは担当医と患者だ。それ以上でも以下でもない』

 頭がカッと熱くなって胸が苦しくなる。
  
 そうさ、僕は楽しいんだ。  
 僕だけを好きでいてくれる、僕だけを見てくれる人に出会えたんだ。あんたとは違うさ。
 
 八つ当たりのように、心の中で悪態を吐く。
  
 「ええ 最近いい事あったんです」  

 わざと皮肉めいた言い方。……気がつけばいいのに。  
 どうだ。あんたが捨てた僕は今幸せだ。

 貴一さんはそうですか、と満足そうに頷く。

 「……幸せそうで良かった」
  
 ふと、かき消えてしまいそうなくらい掠れた声が聞こえた。
 
 え、今のは……。何で。
  
 「薬はいつもと変わりません。お大事に」
  
 僕は診察室を後にする。  
 
 何で、あんな顔してんだよ。あんたが……。
  
 何故だか無性にイラつく。鼻を思い切りかんだティッシュをゴミ箱に豪速球のつもりで投げつける。 
 見事に外れたティッシュを僕はそそくさと片付けに走る。  
 じーっ、とそれを見つめている少年に気づいた僕はバツが悪くなり、こほん!と咳払いをし足早にその場を立ち去る。 

 何なんだよ、あーもー! 
 
 悪いのは僕じゃないはずだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サプライズ~つれない関係のその先に~

北川とも
BL
上からの命令で、面倒で困難なプロジェクトを押し付けられた先輩・後輩の間柄である大橋と藍田。 大らかで明るく人好きする大橋とは対照的に、ツンドラのように冷たく怜悧な藍田は、互いに才覚は認めてはいるものの、好印象は抱いてはいなかった。しかし、成り行きで関わりを持っていくうちに、次第に距離を縮めていく。 他人との関わりにもどかしいぐらい慎重な三十半ばの男同士、嫌でも互いを意識し始めて――。 表紙イラスト:ぬるめのおゆ。様

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

馬鹿な先輩と後輩くん

ぽぽ
BL
美形新人×平凡上司 新人の教育係を任された主人公。しかし彼は自分が教える事も必要が無いほど完璧だった。だけど愛想は悪い。一方、主人公は愛想は良いがミスばかりをする。そんな凸凹な二人の話。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 作者は飲み会を経験した事ないので誤った物を書いているかもしれませんがご了承ください。 本来は二次創作にて登場させたモブでしたが余りにもタイプだったのでモブルートを書いた所ただの創作BLになってました。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...