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第十話
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何度考え直しただろう。何度思い留まろうとしたのだろう。
これが本当に正しいのかも分からない。ただ、苦しさから逃れたかった。
僕は震える手でようやくその一言を打った。
『今日の夜会えますか?』
しばらくして既読がついた。
『何かあった?みつるん』
貴一さんから返事が来た。
『ちょっと、話したいことがありまして』
もう、後には引けない。彼から返信が来るまでの間が永遠のように感じられた。
『わかった』
胸が張り裂けそうだ。もう決めたことなのに、心が揺らぐ。でも、あと少しでこの苦しみから解放される。
僕は歩き出す。
さあ、行こう、彼が待っている。
✱
「おつさま、みつるん」
いつものように優しく笑って僕を迎えてくれる貴一さん。
だめだ、泣くな。堪えろ。僕が勝手に決めたことなんだ。離れるって、決めたんだ……。
ピンポーン
貴一さんの部屋のチャイムを鳴らす。
『はい。あ、みつるん。今開ける』
ガチャリ、と扉が開く。
「お疲れ様です、貴一さん」
僕は緊張と涙を堪えるような声を喉から絞り出す。
「あまり時間が取れないからここでもいい?」
貴一さんは、部屋から出て僕らは玄関先で話し始めた。
「大丈夫です、すぐに済みます」
俯きながらそう伝える。だめだ、彼の顔が見れない。
彼に別れを告げよう、そう決心したのに。言葉が出ない、出したくない。
だって本当は……。
「ちょうど俺も話があってさ」
不意に貴一さんがそう切り出す。
「え……?」
胸騒ぎがする。鼓動が早まる。
まさか、でも。
「こうして病院以外でみつるんと会うことはもうない」
「俺とみつるんは担当医と患者だ。それ以上でも以下でもない」
「で、みつるんは?何の話だった?」
何も考えられない。それは僕が言うはずだった言葉だ。なのに彼からその言葉を聞いて、僕はただ呆然と立ち尽くしていた。
「同じこと考えてた?」
彼の言葉が何も聞こえない。何か言ってんのかな。いつもはあんなに心地良い彼の声なのに今は何も耳に入らない。呼吸が浅くなる。音が遠のいていく。頭は先程の言葉だけ反芻している。
もう、会うことは、無い。
「話は終わりだな、じゃ」
僕は部屋へと戻っていく貴一さんの背中をただ、見ていた。
ガチャリ。
静寂が耳を支配する。だから、余計に悲しくなった。
何だ、同じこと考えてたのか。いや、正確には違う。僕は彼が好きだ。今でも。
ただ、胸の苦しみに耐えられなくて彼を独り占めしたくて出来なくて、もがいていた。
でも、彼は僕とは違ったんだ。
「はは、なんだ……」
彼には、僕が必要なかったんだ
いつもみたいに降り積もる雪が、僕の心も埋めてしまえばいいのに。
そうしたら冷たくて、まっさらで、悲しみなんて感じない心になれるのに。
今夜はよく晴れた夜空だった。
これが本当に正しいのかも分からない。ただ、苦しさから逃れたかった。
僕は震える手でようやくその一言を打った。
『今日の夜会えますか?』
しばらくして既読がついた。
『何かあった?みつるん』
貴一さんから返事が来た。
『ちょっと、話したいことがありまして』
もう、後には引けない。彼から返信が来るまでの間が永遠のように感じられた。
『わかった』
胸が張り裂けそうだ。もう決めたことなのに、心が揺らぐ。でも、あと少しでこの苦しみから解放される。
僕は歩き出す。
さあ、行こう、彼が待っている。
✱
「おつさま、みつるん」
いつものように優しく笑って僕を迎えてくれる貴一さん。
だめだ、泣くな。堪えろ。僕が勝手に決めたことなんだ。離れるって、決めたんだ……。
ピンポーン
貴一さんの部屋のチャイムを鳴らす。
『はい。あ、みつるん。今開ける』
ガチャリ、と扉が開く。
「お疲れ様です、貴一さん」
僕は緊張と涙を堪えるような声を喉から絞り出す。
「あまり時間が取れないからここでもいい?」
貴一さんは、部屋から出て僕らは玄関先で話し始めた。
「大丈夫です、すぐに済みます」
俯きながらそう伝える。だめだ、彼の顔が見れない。
彼に別れを告げよう、そう決心したのに。言葉が出ない、出したくない。
だって本当は……。
「ちょうど俺も話があってさ」
不意に貴一さんがそう切り出す。
「え……?」
胸騒ぎがする。鼓動が早まる。
まさか、でも。
「こうして病院以外でみつるんと会うことはもうない」
「俺とみつるんは担当医と患者だ。それ以上でも以下でもない」
「で、みつるんは?何の話だった?」
何も考えられない。それは僕が言うはずだった言葉だ。なのに彼からその言葉を聞いて、僕はただ呆然と立ち尽くしていた。
「同じこと考えてた?」
彼の言葉が何も聞こえない。何か言ってんのかな。いつもはあんなに心地良い彼の声なのに今は何も耳に入らない。呼吸が浅くなる。音が遠のいていく。頭は先程の言葉だけ反芻している。
もう、会うことは、無い。
「話は終わりだな、じゃ」
僕は部屋へと戻っていく貴一さんの背中をただ、見ていた。
ガチャリ。
静寂が耳を支配する。だから、余計に悲しくなった。
何だ、同じこと考えてたのか。いや、正確には違う。僕は彼が好きだ。今でも。
ただ、胸の苦しみに耐えられなくて彼を独り占めしたくて出来なくて、もがいていた。
でも、彼は僕とは違ったんだ。
「はは、なんだ……」
彼には、僕が必要なかったんだ
いつもみたいに降り積もる雪が、僕の心も埋めてしまえばいいのに。
そうしたら冷たくて、まっさらで、悲しみなんて感じない心になれるのに。
今夜はよく晴れた夜空だった。
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