3 / 5
謎
しおりを挟む
もうすぐできるからあとはやるよ、という母に任せ、紬は自室へ向かった。
ご飯が炊けるまでのわずかな時間に、少しでも国家試験対策の勉強をしておこうと思った。
廊下のオレンジ灯が六畳ほどの洋室を薄く照らす。部屋の明かりをつけ、勉強机に向かう。
机の上には、教科書、栄養士国家試験過去問題集、一問一答問題集、過去問用のノートと筆記用具などが散見している。
その中の、『作詞』と書かれた表紙のノートを手に取る。
ピンクのA4サイズのノートは、時の流れを感じるほどによれていた。
一ページずつ丁寧にページをめくっていく。
―懐かしいなあ。
紬が中学生のころから書き始めた自作の歌詞ノートは、もうすぐ終わりを迎える。
初々しい思いを綴ったページを過ぎると、今度は感傷的な歌詞が見受けられる。
これは失恋したときのだろうか。過ごしてきた日々を辿り、思いを馳せていた紬はあるページで手を止めた。
―まただ。
先ほどの身体の重みを、再び感じる。
いや、今度は前のものよりも重いかもしれない。
ため息をつきながらノートから顔を上げる。
閉め忘れたカーテンの向こうの窓には、白い街灯が灯り、夜の闇を所々でかき消している。
大きなビルもマンションもないその景色に、紬は今の自分を重ねた。
―わたしには何もない。
虚しさを覚え、ゆっくりと瞳を閉じる。
手元のノートの『知らねえよ』という文字が、静かに紬を見つめていた。
ご飯が炊けるまでのわずかな時間に、少しでも国家試験対策の勉強をしておこうと思った。
廊下のオレンジ灯が六畳ほどの洋室を薄く照らす。部屋の明かりをつけ、勉強机に向かう。
机の上には、教科書、栄養士国家試験過去問題集、一問一答問題集、過去問用のノートと筆記用具などが散見している。
その中の、『作詞』と書かれた表紙のノートを手に取る。
ピンクのA4サイズのノートは、時の流れを感じるほどによれていた。
一ページずつ丁寧にページをめくっていく。
―懐かしいなあ。
紬が中学生のころから書き始めた自作の歌詞ノートは、もうすぐ終わりを迎える。
初々しい思いを綴ったページを過ぎると、今度は感傷的な歌詞が見受けられる。
これは失恋したときのだろうか。過ごしてきた日々を辿り、思いを馳せていた紬はあるページで手を止めた。
―まただ。
先ほどの身体の重みを、再び感じる。
いや、今度は前のものよりも重いかもしれない。
ため息をつきながらノートから顔を上げる。
閉め忘れたカーテンの向こうの窓には、白い街灯が灯り、夜の闇を所々でかき消している。
大きなビルもマンションもないその景色に、紬は今の自分を重ねた。
―わたしには何もない。
虚しさを覚え、ゆっくりと瞳を閉じる。
手元のノートの『知らねえよ』という文字が、静かに紬を見つめていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
流るる社畜は水のように
春巻丸掃(ハルマキ マルハ)
大衆娯楽
社畜たちは今日も語り出す。深夜のオフィスで語り出す。ビルの屋上で語り出す。他愛ないことを語り出す。時の流れは川のように、社畜たちは水のように、ただただ、語り出す。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
機織姫
ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる