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当たらない占い
しおりを挟む「見える見える…お前さん、何か隠し事をしているね?」
「は、はあ…」
賑わう路上の片隅、占い師の老婆の前に座るゾイは、気のない返事をしながらも内心ドキリとしていた。老婆は大きな水晶を見つめ、何事か口の中でを唱えている。ただならぬ雰囲気に、ゾイも思わず背筋を伸ばした。
「隠しても無駄さ…お前は真実から逃げている。本当の事を隠している。隣の男にね」
そこで、ゾイの胸はドクンと高鳴った。事の成り行きを見守っていたヴィルヘルムは、突然自分を指されて興味を持ったように身を乗り出してきた。
「ん?その隠し事というのはなんだ?」
「ヴィル様っ。この占いはデタラメですよ。もう行きましょう」
「いいじゃないか、最後まで聞こう」
俄然乗り気になった彼は、テコでも動かないつもりのようだ。観念したゾイは、老婆が変なことを言い出しやしないか、ハラハラとその口元を見つめていた。
「お前さんが隠していることは…」
「隠していることは?」
「それは……──これは何だい?割れた卵…緑の…野菜?」
にわかに戸惑いを見せ始めた老婆と盛り上がるヴィルヘルムを尻目に、ゾイだけがほっと大きく息をついていた。
「水晶に見えているのは卵料理だと思いますよ、おばあさん。それも、つい昨日の朝ごはんです」
「何だ何だ?どうして水晶に卵が映るんだ?隠してることは?」
「卵料理に刻んだ野菜を混ぜたんです。だってそうしないと、ヴィル様食べないじゃないですか」
「何!?聞いてないぞ!」
「言ってないですからね」
偏食家ではないのだが、ヴィルヘルムは自身で野菜を食べる習慣が無いようだった。料理にそのまま野菜を出すと、残されはしないものの渋い顔をされる。ひょろひょろのヴィルヘルムが、実際は力を隠し持っていることは以前の一件で判明したが、彼には適切な栄養を取って健康でいてほしい。なんてことのない秘密の暴露に、ゾイは胸を撫で下ろしていた。
───占い師の老婆に、ヴィルヘルムへの恋心を暴露されたらとハラハラしていたのだ。
「それじゃ、占いはここまでで。ありがとうございました。ほら、ヴィル様行きましょう」
「む…私も受けてみたい」
「それは今度にしましょ。お目当てのものも買えたし…少し休みませんか」
まだ占いに心惹かれている様子のヴィルヘルムを強引に引き剥がし、二人は往来を歩き始める。両脇には市場で買ってきた書物やら日用品やら何やらを抱えている。
冷やかし半分で立ち寄った占いに、こんなに心を乱されるとは想定外だった。どうせ当たらないだろうとタカをくくっていたのに。世の中にごまんといる自称占い師と違って、彼女の力は確かに本物のようだ。危うく、ゾイの気持ちをバラされるかと思ったほどだ。
ゾイは、隣を歩く男のことを、愛してしまっていた。この恋が成就するだなんて、夢にも思っていない。ただ、彼の隣に少しでも長く居たいだけ。だから、恋心は胸の内に隠しておく。気づかれぬように。
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