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衝突
しおりを挟む「あ、あのっ……実は、ヴィル様とはぐれてしまって。ヴィル様のこと、見ませんでしたか?」
問いかけに、マーカスはすっと目を細めた。
「ふうん…ヴィル様とねえ…」
男たちの間で意味ありげな視線が交錯する。じめじめとした、良からぬことを企む目だ。
「……良いぜ。着いてこいよ、教えてやる」
そう言うと、マーカスは踵を返して路地を歩きはじめた。取り巻きの男たちも、それに続いていく。ゾイは駆け足で後を追いかけた。
「何か知ってるんですか…!?」
問いかけに男たちは答えない。その背中が、ただ着いてこいと告げている。男たちを追いかけるのに必死なゾイは、自身が薄暗く出口のない路地におびき出されていることにも気がつかなかった。
「あのっ…ちょっと!」
行き止まりの壁を背にして、男たちが振り返る。自分が囲まれていることに気がついたのは、背後にも男が回り込んできた後だった。
行き場を無くして戸惑うゾイがじりじりと後ずさるのに合わせて、ゾイを囲む男たちの輪も徐々に狭まっていく。
「………な、なんなんですか一体」
ゾイの声は震えていた。彼とてひ弱な男ではない。細身な身体には程よく筋肉もついている。だが、ゾイを囲む人数を考えると、足が竦むのだ。
「聞きたいのはこっちさ。お前、何を考えてる?」
「……はい?」
「おいおい惚ける気か?お前みたいなのが、どうやって公爵サマにまで取り入ったんだよ?」
「……言ってることの意味が、分からないんですが」
ゾイと相対したマーカスは、見上げる程大きく、威圧的で、人を侮蔑しきった目をしていた。
「お前が奴をたぶらかして、館に閉じ込めてるんだろう?」
脳がフリーズする。言われたことの意味が分からなかった。
「………は?」
「哀れな奴だよ、ヴィルヘルムも。あいつは元々精神をやられて弱ってたんだ。そんな時に、お前みたいな奴隷と出会っちまったのが運の尽きさ」
注目されていることに対して悦に入ったのか、マーカスは更に饒舌になっていった。
「同情したんだろうな。奴はこの奴隷に入れ込み、使用人すら寄せ付けず、野郎二人だけの世界に閉じこもってやがる。」
「…そんなことっ」
「目的は公爵家の金か?戦地帰りで弱っている奴をたぶらかすなんて、お前はとんでもないクズ野郎だよ」
「っえ?」
早口でまくしたてる言葉の中でも、聞き逃すことのできない単語があった。ヴィルヘルムの過去については、詳しく聞いたことがない。彼が未だに悪夢に苛まれるのは、以前おきた悲惨な戦禍のせいなのか。
「どうやったらお前みたいな不細工が奴に気に入られるんだ?そんなに下の具合がいいのか」
男たちの騒ぎがヒートアップしていく。ゾイの頭の中は、さっきマーカスが言った「戦地帰り」という言葉が占めていた。
「なあ、お前らどう思う?試してみないと分からないよなあ?」
即座に、やれー!とヤジが飛んでくる。告げられた言葉を咀嚼できずにいるゾイは、迫ってくるマーカスから逃げることが出来なかった。すぐ傍に、ニヤニヤと笑う男の顔が近づいてくる。レイプされる、直感でそう思った。
「や、やめろっ…っ離せっ!!」
「うるせえなあ、黙れよ」
「嫌だっ…!嫌だ嫌だ!」
「…何してるんだ────」
一度に場が静まりかえる。顔を上げた先には、探し求めていた張本人、ヴィルヘルムが立っていた。
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