寝不足貴族は、翡翠の奴隷に癒される。

うさぎ

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   カラリと晴れた空の下、賑わいを見せる往来に浅黒い肌の青年と、黒いローブを羽織った長身の男が現れた。本当に行くのかと確認するゾイに、ヴィルヘルムは頷いた。

「先に言い出したのはそっちだろう。準備はできた、さあ行くぞ」

  一度やると決めたヴィルヘルムは何を言っても意志を曲げない。彼と一緒に過ごすうちに分かったことの一つは、ヴィルヘルムは存外に頑固、ということだ。その意志の強い表情を見れば、狼狽していたゾイも腹を決めるしかなくなった。




「ヴィルさまっ…あまりウロウロしないでください」

  辺りを興味深げに見て回るヴィルヘルムには、ゾイの呼びかけも聞こえていないようだ。彼は明らかに浮かれていた。久しぶりの外出で、気分が良くなっているのかもしれない。ご機嫌なのは結構だが、あまり遠くに行かれると困る。──彼はお貴族様なのだ。

「すまない。こんなにじっくりと市場を見る機会なんて初めてだからな。つい目移りしてしまう」
「楽しんでもらえて何よりですけど…目立つようなことはしないでください」
「大丈夫だ。こうして仮装だってしてるだろう」
「それは仮装とは言いませんよ。ただローブを一枚羽織ってるだけです」

  派手な格好はやめてくれ、と頼むゾイの言うことをヴィルヘルムは渋々受け入れた。そこまで治安が悪いわけではないが、街中で金持ちだとバレると何かと面倒だ。ただでさえ、この男は秀麗な目立つ顔を持っている。装飾の少ない地味なローブを羽織らせて、彼が貴族だとバレないようにさせていた。

「あれは何だ?見に行くぞ」
「あっ、待ってくださいよ」

  屋台を見て回るヴィルヘルムの後を、ゾイはついて回る。心配をよそに、ヴィルヘルムは本当に楽しそうだ。

「ヴィル様っ…ちょっと」
「ううむ…実に綺麗だ」
「………なんですか、これ」

  キラキラと眩い視界に、ゾイは目を瞬いた。その屋台は、石を売る店のようだった。

「らっしゃい。それは他国から取り寄せた特別な石さ。綺麗だろう」
「ああ…。どうだゾイ、君も綺麗だと思わないか」
「……ほんとだ。綺麗ですね」

  屋台の中を、色とりどりに光る石が埋めつくしている。こんなにキラキラと輝く石を見るのは初めてだった。土産用に小さく加工されたものや、反対に大人でも抱えきれないような大きさの岩まで、幅広い種類があるようだ。その煌めきに、ゾイは知らず魅力されていた。

「これなんて、君の瞳にそっくりじゃないか?」
「えっ?おれの目に?」
「ああ。見てごらん」

  差し出された石を、ゾイはまじまじと見つめた。その石は、翠色の輝きを四方に放っていた。

「こ、これが…おれに…?」
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