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異世界とりっぷ

11.俺たちのこと-②

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 「いまは違うみたいだけどね。昨日、告白された」
「へ…?」
「断ったよ。確かに美人だし恋人だったら楽しそうだけど…波多野といる方がもっと楽しいもん」
  
  テンションが一気に下がる。「もん」て。子供かよ。
  それに、なんだよその回答は。日野さんに告白された?そして振った理由が、俺と居た方が楽しいから?いい加減にしてくれ。俺は叫び出しそうになった。そうやってお前が思わせぶりな言動をするから、俺はお前から離れられない。期待して、もしかしたらと思ってしまう。
  もう俺の胸を締め付けるような態度はやめてくれ。俺は胸を掻きむしりたい衝動に駆られた。

  ……でもそんなのは俺の一方的な都合で、犀川には関係のないことなのだ。
  俺はテーブルの上の缶を引っつかみ、強引にプルタブを引いた。

「ったく!やってらんねえよ!あーあ、俺もモテたい!彼女欲しい!」

  身も蓋もない叫びだ。半ばヤケクソで、酒を喉に流し込む。こんな醜態でも、犀川の前でなら見られてもいっかと思うほどには心を許していたし。それと同時に恋を諦めてもいた。
   だから、次の発言には度肝を抜かれたのだ。

「俺と付き合えば?」

  犀川は、事も無げにそう提案してきた。








   「は…?ははは、それもいいかもな~。高学歴で将来有望だし、お前の顔好きだし」
「うん。俺も波多野のこと好き」
「おっ、じゃあホントに付き合っちゃうかー?なんて、ははは。ははー…」

  部屋の中で俺だけが笑っていた。その乾いた笑いも、小さくなってフローリングの床に吸い込まれていく。犀川はゆるく笑ってはいるが、あくまで真剣な表情だ。

「え……?なに。マジなの?」
「マジだけど?」
「えええ……」

  マジか。マジなの?言われたことが理解できなかった。冗談だよな?ここは笑い飛ばして流すのが正解だよな?
  笑って誤魔化そうにも、犀川の方は笑っていない。明かりを落とした薄暗い部屋の中でも、犀川の色白な顔だけが白く浮き上がっている。

「な、なんで俺……」

  声が、震えた。多分、身体の方も震えてる。
  自分で言うのも悲しくなるが、平凡を絵に書いたような男だぞ。見た目も十人並、頭脳も運動神経も普通、犀川とは対極のいる人間だ。なんで犀川と仲良くなれたのか不思議になってきた。お前、俺のどんなとこが好きなんだ。自分でも自分の何がいいのかサッパリ分からない。

「好きなところは一杯あるけど……。一番は、一緒にいて安心するとこかな」
「安心……?」
「うん。波多野は裏表がないでしょ。誰にでも平等に接するし、俺におもねったりもしない。そういう人と居るのは、心地がいい」

  頬が熱く火照っていく。
  これはよく出来た夢なんじゃないのか。俺の強すぎる恋心が魅せた、哀しい幻。明日になったらやっぱり冗談でした、って消えてしまう夢。

「俺、波多野が好きだよ。波多野は俺のこと好きじゃないの?」

  ダメ押しの一言で、俺の堤防は決壊した。

「……っおれも、お前のことすきだっ……」

  犀川の部屋に、俺の叫びが響いた。

   ここから、俺たちの恋人関係がスタートしたんだ。
  ……結局、俺は犀川を自分から振ることになってしまうのだけれど。
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