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異世界とりっぷ
4.怪しいものではございません。
しおりを挟む犀川曰く空気が悪いらしい森の中、俺たちは猟銃を持った爺さんと睨み合っていた。
お互いの距離は10メートルほどだろうか。向けられた銃口は何度見ても現実感がなく、ちゃちな玩具なんじゃないかと疑ってしまう。というか、玩具であって欲しい。どうして世界一安全と言われる日本でこんな物騒なモンを向けられなきゃいけないのか。
「誰だ…そこで何をしている」
「あ、あの…俺たち道に迷ってしまったみたいで…気づいたらいきなりこの場所に居たんです」
誰何する声に応えたのは犀川だった。手を上げて敵意がないことを示しつつ、俺たちがどのようにしてここに来たのか、俺たち自身も分かっていないことを必死で訴えかける。対する爺さんは、険しい表情を崩さず犀川の訴えを聞いていた。その間もおっかない銃口はこちらに向いたままだ。
やばい、本物だったらどうしよう。流石にないよな?銃刀法ナンチャラ…に引っかかるだろ。法律は気にしないって?だとしたら爺さん、ファンキーすぎる。
それまで静かに聞いていた爺さんは、重々しく口を開いた。
「…知らないうちにこの森に来ていたと?」
俺たちは首がもげんばかりに頷く。
「そうですそうです。居酒屋の前にいたら突然光に包まれて、気がついたらここに」
「光……」
「だから断じて怪しいものではないんです!信じてください!」
俺は喉が枯れそうなほど叫んだ。突然見知らぬ土地に飛ばされて、知らん爺さんには銃を向けられて、一体何なんだ。早く帰りたい。
じたばた暴れながら身の潔白を訴える俺たちを見て何を思ったのか、老人はすっと猟銃を下ろした。ただし、こちらを見る眼光は鋭いままだ。
「……何も持っていないようだし、第一弱そうだ。賊ではないようだな」
「はい!賊でも悪人でもないです!ぼくたちただの善良な大学生ですから!」
「大学…なに?」
「えっ?」
沈黙が流れる。大学生を知らない人間がいるのだろうか。それとも、世捨て人みたいな見た目だし世間と関わりが無さすぎて忘れてしまったのだろうか。そんな失礼なことを考えていると…犀川が横から口を挟んだ。
「あの…つかぬ事を伺いますが。ここは何という所でしょうか。そもそも…日本ですか?」
「ニホン…?聞いた事がない土地の名前だ。しかし、世界は広いから地図で探せばどこかにあるかもしれない」
振り返った犀川の顔には、言い表しようのない色が浮かんでいた。多分、俺も同じ顔をしていたと思う。たった今聞いた言葉が信じられなくて、第一ありえなさすぎて、にわかに胸がドクドクと波打ち始める。
「お前さんら…まさか。この世界の者じゃないのか?」
背中に冷や汗が広がっていく。
…一体何が起こっているのか。俺は渇いていく口の中を舐めることしかできなかった。
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