上 下
4 / 12
異世界とりっぷ

4.怪しいものではございません。

しおりを挟む


  


   犀川曰く空気が悪いらしい森の中、俺たちは猟銃を持った爺さんと睨み合っていた。
  お互いの距離は10メートルほどだろうか。向けられた銃口は何度見ても現実感がなく、ちゃちな玩具なんじゃないかと疑ってしまう。というか、玩具であって欲しい。どうして世界一安全と言われる日本でこんな物騒なモンを向けられなきゃいけないのか。

「誰だ…そこで何をしている」
「あ、あの…俺たち道に迷ってしまったみたいで…気づいたらいきなりこの場所に居たんです」

  誰何する声に応えたのは犀川だった。手を上げて敵意がないことを示しつつ、俺たちがどのようにしてここに来たのか、俺たち自身も分かっていないことを必死で訴えかける。対する爺さんは、険しい表情を崩さず犀川の訴えを聞いていた。その間もおっかない銃口はこちらに向いたままだ。
  
  やばい、本物だったらどうしよう。流石にないよな?銃刀法ナンチャラ…に引っかかるだろ。法律は気にしないって?だとしたら爺さん、ファンキーすぎる。

  それまで静かに聞いていた爺さんは、重々しく口を開いた。

「…知らないうちにこの森に来ていたと?」

  俺たちは首がもげんばかりに頷く。

「そうですそうです。居酒屋の前にいたら突然光に包まれて、気がついたらここに」
「光……」
「だから断じて怪しいものではないんです!信じてください!」

  俺は喉が枯れそうなほど叫んだ。突然見知らぬ土地に飛ばされて、知らん爺さんには銃を向けられて、一体何なんだ。早く帰りたい。

  じたばた暴れながら身の潔白を訴える俺たちを見て何を思ったのか、老人はすっと猟銃を下ろした。ただし、こちらを見る眼光は鋭いままだ。

「……何も持っていないようだし、第一弱そうだ。賊ではないようだな」
「はい!賊でも悪人でもないです!ぼくたちただの善良な大学生ですから!」
「大学…なに?」
「えっ?」

  沈黙が流れる。大学生を知らない人間がいるのだろうか。それとも、世捨て人みたいな見た目だし世間と関わりが無さすぎて忘れてしまったのだろうか。そんな失礼なことを考えていると…犀川が横から口を挟んだ。

「あの…つかぬ事を伺いますが。ここは何という所でしょうか。そもそも…日本ですか?」
「ニホン…?聞いた事がない土地の名前だ。しかし、世界は広いから地図で探せばどこかにあるかもしれない」

  振り返った犀川の顔には、言い表しようのない色が浮かんでいた。多分、俺も同じ顔をしていたと思う。たった今聞いた言葉が信じられなくて、第一ありえなさすぎて、にわかに胸がドクドクと波打ち始める。

「お前さんら…まさか。この世界のもん、じゃないのか?」

  背中に冷や汗が広がっていく。
 …一体何が起こっているのか。俺は渇いていく口の中を舐めることしかできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

なんか、思ってたのと違ぁぁぁう!

ヒヨコ
BL
天使のように美しい容姿の三上薫(みかみかおる)は、小中学生の頃、薫ファンクラブの女子によって毎日のように囲まれ、ろくに男子と話すことができず、友達ができなかった。また、成績優秀、スポーツ万能だったため毎回一位。ライバルが居らず、教師からは注目され、とてもつまらない毎日を過ごしていた。 「男子校で、偏差値トップクラスの青条学院なら…」 そんな理由で、青条学院に入学。 「その、なんで僕のベットに寝てるんですか… どいてください。」 「その好きって、友達としての好きですか?え?恋人として好きだって?」 「え…いつの間に僕のファンクラブなんてできてるのぉぉぉ!!!」 なんか、思ったけど… 想像してた高校生活と違ぁぁぁう!! 初投稿です。至らない所が多々あるかと思いますが、暖かい目で見ていただけると嬉しいです!

強制悪役令息と4人の聖騎士ー乙女ハーレムエンドー

チョコミント
BL
落ちこぼれ魔法使いと4人の聖騎士とのハーレム物語が始まる。 生まれてから病院から出た事がない少年は生涯を終えた。 生まれ変わったら人並みの幸せを夢見て… そして生前友人にもらってやっていた乙女ゲームの悪役双子の兄に転生していた。 死亡フラグはハーレムエンドだけだし悪い事をしなきゃ大丈夫だと思っていた。 まさか無意識に悪事を誘発してしまう強制悪役の呪いにかかっているなんて… それになんでヒロインの個性である共魔術が使えるんですか? 魔力階級が全てを決める魔法の世界で4人の攻略キャラクターである最上級魔法使いの聖戦士達にポンコツ魔法使いが愛されています。 「俺なんてほっといてヒロインに構ってあげてください」 執着溺愛騎士達からは逃げられない。 性描写ページには※があります。

美醜逆転世界でフツメンの俺が愛されすぎている件について

いつき
BL
いつも通り大学への道を歩いていた青原一樹は、トラックに轢かれたと思うと突然見知らぬ森の中で目が覚める。 ゴブリンに襲われ、命の危機に襲われた一樹を救ったのは自己肯定感が低すぎるイケメン騎士で⁉︎ 美醜感覚が真逆な異世界で、一樹は無自覚に数多のイケメンたちをたらし込んでいく!

待てって言われたから…

ふみ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。 //今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて… がっつり小スカです。 投稿不定期です🙇表紙は自筆です。 華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)

転生したら同性から性的な目で見られている俺の冒険紀行

BL
ある日突然トラックに跳ねられ死んだと思ったら知らない森の中にいた神崎満(かんざきみちる)。異世界への暮らしに心踊らされるも同性から言い寄られるばかりで・・・ 主人公チートの総受けストリーです。

美醜逆転の世界で推し似のイケメンを幸せにする話

BL
異世界転生してしまった主人公が推し似のイケメンと出会い、何だかんだにと幸せになる話です。

処理中です...