上 下
20 / 67

20話アイトさん、邪魔者が来たようですよ

しおりを挟む
 僕たちが頂上に着いたのは、中間地点から出発して約3時間後のことであった。
 頂上と言っても、それは整備された道のことであり、樹自体はさらに上まで伸びている。
 それでもとんでもない高さだ。すぐ真上に厚く暗い雲が垂れ込めている。こんなに雲を近くで見たのは初めてだった。
 雲を眺めていると、何やら巨大な影らしきモノが蠢いているように見えた。
 もっと目を凝らして見ようとしたところで、ナナさんから声を掛けられた。

「おぉー、アイトさん見てください! さすがの眺めですねー」

 そこからの眺めは想像以上だった。
 下の廃墟どころかそのさらに先の海まで遠く見渡せる。
 よく見ると、海の先に別の陸地も見える。

「すごいや! 本当に世界は広いんだね! いつかあの海の先にも行ってみたいよ」

 そう言ってナナさんの方を見てみると、彼女は大きくため息を吐いた。

「……せっかく景色を楽しんでいたというのに、無粋な羽虫どもが集まって来ましたね」
「え?」

 ナナさんが周囲を睨みつける。
 それにつられて周りを見ると、驚いたことに黒い服を見に纏った者たちが僕たちを取り囲んでいた。

「ナナさん、この人たちって前に言っていた――?」
「そうです。こいつら卑怯にも木を足で登らずに魔術を使ってズルしたんですよ」

 ナナさんは咎めるように言うが、自分も数時間前に魔術を使って登ろうとしたではないか。
 もちろん、彼女にそんなツッコミを入れるつもりはないが。

「ふん、わらわたちに用があるようだが……雑魚どもじゃ話を聞く気にもならないぞ」

 ナナさんの威圧的な様子に黒衣の男たちは後退りした。

「これは失礼した」

 男たちの背後から女性の声が聞こえた。
 ゆっくりとした歩調で僕らに歩み寄ってくる女性は、他の者たちと同じく黒衣を身に纏っている。
 漆黒の黒髪が腰まで伸びている。それに対して肌は色白だ。
 様子を見るに、彼女がこの魔術師集団のリーダーらしい。

「私は魔導技士団第四部隊の隊長イルヴァーナだ」

 魔導技士だって?
 僕はイルヴァーナという女性の言葉に驚いた。
 この王国で知らない者はいないであろう優秀な魔術師たちの組織……
 そんなすごい人たちが目の前にいると思うと、思わず足がすくんでしまう。しかし、ナナさんを見ると全く物怖じしていないどころか、彼らに虫けらを見るような視線を向けている。

「で?」

 ナナさんは威圧するような声音で言う。

「ふふ、そう警戒しないでくれ。まずは君たちにお詫びをしたくてね」
「お詫び?」

 イルヴァーナの横に別の男が現れた。
 それはクエスト屋で僕とナナさんに話しかけてきた男だった。

「彼が君たちに不愉快な思いをさせてしまった聞いたのでね」

 彼女の言葉を受けて、男は僕らに頭を下げた。

「この前の無礼、申し訳ありませんでした」

 突然の謝罪に僕は戸惑った。一方ナナさんは当然とばかりに頷いている。

「跪いて頭を垂れるべきところだが、今回は見逃してやる。さっさと消えろ」

 するとイルヴァーナは困ったように笑みを浮かべる。

「ここまで会いに来た私たちにもう立ち去れというのかい? もう少し話をしようじゃないか」

 ナナさんはイライラしたように首を振る。

「見逃してやると言っている。それとも少し痛い目に遭わないとわからないか?」
「ちょ、ナナさん!」

 周囲の空気がピリピリしているのを感じる。
 イルヴァーナは表面上は友好的だが、他の魔術師たちは張り詰めている。

「あの、話ってなんでしょうか?」

 ナナさんがさらに何か言う前に僕はイルヴァーナに尋ねた。

「もちろんあの湖で起きた事を詳しく話して欲しいんだ。君たちは知っているだろうが、伝説の存在だった水の妖精が姿を現した」

 僕は頷いた。

「それに呼応するように、王国の魔術師たちの魔力が増加している。もちろん私たちもね」
「え!?」

 それは初耳だぞ。
 僕はナナさんの方に目を向けた。彼女も肩を竦めている。

「すいません、イルヴァーナさん。僕たちも正直なところよくわからないんです」

 僕は正直に答えた。
 しかし、イルヴァーナは納得していないようだ。

「そこの彼女はウンディーネたちの女王になったのだろう?」

 半ば、いや、完全に強引にだったけど。

「それはそうですけど――」
「それに彼女は魔神なのだろう?」

 イルヴァーナの言葉に僕は言葉が詰まった。
 今彼女はなんと言った?
 ナナさんが魔神であることを知っている者が僕以外にもいるとは思わなかった。

「ふん、わらわが魔神であると知っていて、その舐めた態度か」

 ナナさんはズイッとイルヴァーナに近寄った。
 身長はイルヴァーナの方が高いのでナナさんは見上げる形になっているが、威圧感は凄まじいモノがあった。周りの魔術師たちの中にはさらに後退りしている者もいた。

「うん、少し痛い目に遭っとこうか!」

 ナナさんは軽くパチンと指を鳴らした。
 その瞬間、僕とナナさん以外の人たちがバタバタと倒れていった。

「ナナさんまさか――」
「あぁ、大丈夫ですよ。気絶させただけですから…あら?」

 ナナさんは首を傾げる。
 その視線の先にはイルヴァーナがいた。膝を付いているが、気を失ってはいない。そして黒い大きな剣を身を庇うようにして構えている。

「それは……魔剣か?」

ナナさんは訝し気な顔をしている。

「さすがだよ、ナナシュテンナンダールナターシアンナナナ」

 イルヴァーナがゆっくり立ち上がりながら言った。

「どうしてナナさんの本名を?」

 ていうか、よくそんなスラスラとナナさんの本名を言えることにも驚きだ。

「魔神と契約している者は君だけだけではないということさ」

 イルヴァーナは不敵な笑みを浮かべている。

「やっぱりね……隠れてないで出てきなさいよ!」

 ナナさんが虚空を睨み付けながら言った。
 すると、イルヴァーナの斜め上の空間が歪みはじめ、その中から長い金髪の女の子が姿を現した。年齢はナナさんと同じくらいだが、その身にまとっているフリフリのレースが付いた黒い服によって幼く見える。

「オホホ! まさかあなたみたいな品のない野蛮者を開放するモノ好きがいるだなんて思いませんでしたわ、ナナ」
「相変わらずいけ好かない女だな」

 ナナさんは金髪の女の子を睨み付けている。

「紹介しよう」

 イルヴァーナは女の子を手で示す。

「私のパートナーである魔神、シシルシファルシアーネスランだ」









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

ドロップキング 〜 平均的な才能の冒険者ですが、ドロップアイテムが異常です。 〜

出汁の素
ファンタジー
 アレックスは、地方の騎士爵家の五男。食い扶持を得る為に13歳で冒険者学校に通い始めた、極々一般的な冒険者。  これと言った特技はなく、冒険者としては平凡な才能しか持たない戦士として、冒険者学校3か月の授業を終え、最低ランクHランクの認定を受け、実地研修としての初ダンジョンアタックを冒険者学校の同級生で組んだパーティーでで挑んだ。  そんなアレックスが、初めてモンスターを倒した時に手に入れたドロップアイテムが異常だった。  のちにドロップキングと呼ばれる冒険者と、仲間達の成長ストーリーここに開幕する。  第一章は、1カ月以内に2人で1000体のモンスターを倒せば一気にEランクに昇格出来る冒険者学校の最終試験ダンジョンアタック研修から、クラン設立までのお話。  第二章は、設立したクラン アクア。その本部となる街アクアを中心としたお話。  第三章は、クラン アクアのオーナーアリアの婚約破棄から始まる、ドタバタなお話。  第四章は、帝都での混乱から派生した戦いのお話(ざまぁ要素を含む)。  1章20話(除く閑話)予定です。 ------------------------------------------------------------- 書いて出し状態で、1話2,000字~3,000字程度予定ですが、大きくぶれがあります。 全部書きあがってから、情景描写、戦闘描写、心理描写等を増やしていく予定です。 下手な文章で申し訳ございませんがよろしくお願いいたします。

Shine Apple

あるちゃいる
ファンタジー
山の上にあるポツンと建つ古民家を買った。 管理人の上村さんから鍵を貰い山までの道を愛車のジムニーで走る。 途中まではガードレールがあるが、山の中間まで来るとガードレールもアスファルトも無くなり轍の真ん中に草が生える農道みたいな畦道になる。 畦道になった辺りから山頂までが俺の買った土地になるらしい。 これで10万は安いと思って理由を聞いてみると、歳を取って管理が辛いから手放す事にしたらしく、道の管理も託された。 まぁ、街に出るのに管理しないと草が生えて通れなくなり困るのは自分なので草刈りはするが……ちょっと大変そうだった 「苦労込みで10万なのかな……」 ボソリと俺は呟いた。毎年2、3回刈らないと駄目らしい……そのうちヤギでも飼おう……。 そんな事を考えながら畦道を登っていくと拓けた場所に辿り着く。 ここは地面が固くて草も余り生えないようだ。そこに車を止めて更に上を見上げると蔓や草木が生い茂った家の屋根が見えて来る。 其処がこれから住む古民家だった。 薄っすらと雑草の隙間から石畳が見えて階段もある様だが一度草刈りしないと歩けない。 取り敢えず日も暮れて来たので今夜は此処に野宿する事にした。 次の日には何とか草を掻き分けて階段を見付けて上っていくと石畳の庭らしき場所に着いた。 周りを見渡しても雑草が生い茂りどのくらい広いのかさえ分からなかった。壁中に蔦が絡まり窓から中は見えなかったので、仕方なく玄関らしき場所を見付けて鍵を開ける。 家屋の中はかび臭く壁や床は腐っているようだった。 流石にこのままでは住めないので夏になったら有給と夏休みと使って直す計画を立てよう。 柱などは意外としっかりしていたので全部解体する事は無い様だ。 もう一泊野宿する予定だったのだが、俺は山を後にした。 上村さんにまた夏に来るから今日は帰ると告げた。 帰り際に大根などの野菜をくれた。「豊作だったんだ」と言って嬉しそうに沢山くれた。 今度来る時はお土産を持ってきますと言っといた。 酒が好きだというので俺の好きな日本酒でも持っていこうと思う。 上村さんご夫妻に手を振って別れると車を走らせた。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

職種がら目立つの自重してた幕末の人斬りが、異世界行ったらとんでもない事となりました

飼猫タマ
ファンタジー
幕末最強の人斬りが、異世界転移。 令和日本人なら、誰しも知ってる異世界お約束を何も知らなくて、毎度、悪戦苦闘。 しかし、並々ならぬ人斬りスキルで、逆境を力技で捩じ伏せちゃう物語。 『骨から始まる異世界転生』の続き。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...