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12話 アイトさん、わらわ、女王になります!

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「さぁ、お入りください」

 水の妖精が僕らを玉座の間へと導く。
 僕らは玉座まで歩いて行った。その途中、左右両側に妖精たちが立っていた。好奇の目を向ける者、不安な様子で窺がう者など反応は様々だ。

「ようこそ、救世主たちよ」

 玉座に座る水の妖精王が僕らに声を掛けた。

「あの邪悪なる百年王をよくぞ退治してくれた。褒美を授けようぞ」

 王が手を叩くと、何人かのウンディーネたちが盆を持ってやって来た。その盆には様々な種類の宝石や金貨が載せてある。

「どれもお前たちにとっては高価なモノばかりであろう。受け取るが良い」

 ナナさんはチラリと宝石に目をくれると鼻を鳴らした。

「まぁ、良いでしょう」

 ウンディーネたちは宝石類を綺麗な袋に入れて僕らに手を渡してきた。ところが、

「アイトさんは受け取らなくていいです」

 全てナナさんが受け取った。まぁ、百年王はナナさん1人で倒したようなモノだしね。
 でも、なんか彼女の様子が変に思えた。望んでいたお宝なのにあまり嬉しそうではないのだ。

「お前たちは湖の岸辺にある街に行ってみたかね?」

 王が僕らに尋ねてきた。しかし、ナナさんは黙ったままなので変わりに僕が答えた。

「そうか。あの街のこと、どう感じたかね?」

 続けて王が尋ねる。
 何でそんなことを質問するのだろう? 
 少し疑問に感じたが、僕は最初に見た印象をそのまま答えた。

「白い外壁はとても綺麗だし、緑も豊かでとても暮らしやすそうに思いました」

 僕はあの街でならゆったり暮らせそうだと思っていた。

「そうか、そうか!」

 王は僕の答えに満足したらしい。とてもうれしそうだ。

「あの街には我らを信奉する人間たちが住んでいたのだ」

 王は街の方角に目を向けながら話し続ける。

「彼らの信仰心が我らに富みと力をもたらす。そのかわり、我らの力を彼らに授けていた。共存関係を結んでいたのだ」

 かつて妖精信仰なるモノが存在していたことを聞いたことがある。
 自然を司る妖精を敬うことでエレメントマジックの恩恵を受けていたとか。

「街の人々はどこに行ってしまったのでしょう?」

 僕がそう尋ねると王は首を振った。

「あの邪悪な怪物にみな殺されてしまったよ」

 沈んだ声で彼は言う。その当時のことを思い返しているようだ。

「我らはずっと平和に暮らしていたのだ。それをあの怪物が……」

 突然、王の目に怒りの火が灯る。

「我らに百年王を差し向けたのは火の妖精たちに違いない。ヤツらは我らを敵視していたからな」

 王は吐き捨てるように言った。
 どうやら同じ妖精族でも対立関係があるらしい。

「そんなことはどうでもいいわ」

 それまで黙っていたナナさんが割り込んできた。

「この石に見覚えはないか?」

 ナナさんは百年王が持っていた賢者の石モドキを取り出して言った。

「あの百年王はコレで力を得たみたいなんです」

 僕はナナさんが持つ賢者の石モドキを示して補足した。

「な、なぜそれが……」

 石を驚愕の表情で見つめる王。
 その反応は、何かこの石に心当たりがあるらしい。

「いや、まぁ良い」

 王は居ずまいを正し、改めて僕らに視線を向ける。

「その石のことは気にすることでない。それよりも、お前たちには火の妖精討伐を命じる」

 突然、命令口調になる水の妖精王。
 え、いきなり何を言っているのだろう?

「どうした? 早く火の妖精を倒しに行かぬか!」

 今度は語気を強める王。
 僕は困惑していた。その隣で溜息を吐くナナさん。
 nanazon専用端末を取り出して何かを注文している。

 ポンと弾ける音がした後、ナナさんの横に大人が余裕で入り込める程の大きさの樽が現れた。

「な、なんだ今のは!?」

 水の妖精王は再び動揺した。
 そんな妖精王の所にナナさんはツカツカと歩み寄るといきなり彼の顔を殴りつけた。 

「ふごっ!?」

 ナナさんは衝撃で倒れそうになる王の腕を掴むと、樽の中へと彼を放り投げた。すごい力だ。

「さーて、ここからですよ」

 ナナさんは再び端末を取り出して注文する。
 程なくして樽の上弾けた音がする。その後白い砂のようなモノが大量に樽の中へと入って行く。

「ぎゃあああああぁぁぁ!!」

 白い砂に埋もれた妖精王が絶叫を上げる。

「な、ナナさんあれは?」
「塩ですよ」
「塩っ!?」

 コクリと頷くナナさん。

「こいつらの体は水でできています。それを塩責めしたらどうなるか……ってことですね!」

 なんともエグい。
 この王への仕打ちに対して他の妖精たちが攻撃してくるのではないかと身構えていたが、そんな様子はない。みな、ナナさんにビビッてしまっているようだ。

「なにもそこまでしなくても……」

 仕方ないので僕が説得を試みた。さすがに可哀想だからね。
 だが、ナナさんは「いいえ」と首を振る。 

「アイトさん、この愚か者はわらわたちを駒として扱おうとしたんです」

 ナナさんは宝石袋を床に放り投げた。ところが中から出てきたのはただの石ころやガラス片だった。
 どういうことだ? 確かに宝石を入れているところを見たのに。

「妖精がよく使う幻術です。人間にはこれが高価な宝石に見えるようになっているんです。それに加え、服従の術も施されているようですね。だからこの愚か者はわらわたちに命令してきたんですよ」

 彼女は街の方を指した。

「あの街も同じです。アイトさんには綺麗な街にみえていたんでしょう? でも実際は小汚い小屋が並んでいるだけなんですよ」

 ナナさんは妖精王の頭を掴み上げ、樽の中から引き揚げた。

「こいつの言っていた人間との共存関係など嘘です。実際は幻術と服従の術で虜にした人間をこき使っていた主従関係だったんでしょう」

 冷めた視線を王に向けるナナさん。

「街の人間が死んだのも、こいつが百年王に無謀にも戦いを挑ませたから。自分たちはその間、この宮殿でびくびくしていただけってところでしょうね」

 王は身を震わせた。それがナナさんに真実を言い当てられたことに対する恐れ、若しくは怒りによるモノだろう。

「きっ、きさまら、こんなことをしてただで済むと……」

 しかし、妖精王は随分と小さくなっていた。声もか細く今にも消え入りそうだ。

「身の程を弁えろ。わらわを誰だと思っている?」
「なっ……」

 戸惑いの表情を浮かべる王。その顔が次第に驚愕のモノへと変化を遂げる。

「ま、まさか魔神か!?」
「ようやく気づいたか、間抜け」

 侮蔑の視線を向けるナナさん。王を再び樽の中へと近づける。

「さて、また塩の中に沈めてやろうかな?」
「ひいいいぃぃ!」

 王はジタバタして樽から逃れようとする。

「ま、待て! 何が望みだ? 宝ならいくらでもくれてやる!」

 ナナさんはニヤリと笑みを浮かべた。

「それはもちろん全て頂く。だが、それだけではダメだ。お前の王位の座をこのアイトさんに譲れ!」

 耳を疑った。
 この僕に王位だって!?

「わ、わかりました! 譲りますぅ!」

 王は即座に答えた。余程塩が怖いらしい。

「よし、では――」
「待ってナナさん!」

 僕は彼女の言葉を遮った。勝手に話を進められても困る。

「僕は王になる気になんてないよ」
「えー? 王になればここの宝すべて手に入るんですよ?」

 それでも僕は首を振る。

「僕は王の器なんかじゃないよ。ナナさんの気持ちはありがたいけど、それは遠慮するよ」

 ナナさんは妖精王を床に放り投げた。

「アイトさんは謙虚ですね。でも、そこが良いところだと思います。では――」

 彼女は自分を指し示す。

「わらわが女王になりますね!」


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