22 / 24
アレクシオの正体
しおりを挟む
カップの中に入っていたハーブティーは、なんとハロルドがブリジットのためにと作ってくれたオリジナルブレンドの味だった。
例えば試験の日の朝や、大事なパーティに行く直前など、ブリジットがリラックスしたい時に作ってくれたものだ。
それを知っているなんて、目の前の男は一体何者なのか。
警戒心をあらわに逃げ出そうとするブリジットに、アレクシオは悠然と笑った。
「やっと気付いたか。もっと早いかと思っていたがな」
「どういう意味?!」
「まあ見ておれ」
そう言うや否や、アレクシオが自分の額をひと撫でする。
するとそこにいたのは、
「ハロルド?!」
アレクシオとは全く似ても似つかないハロルドだったのだ。
ブリジットは激しく混乱する。
「ハロルド…に変身したってこと?それでなにがしたいの?!」
「なんだ、分かっておらんかったか。ハロルドとは我の仮の姿だ。お前たちは実体化した我の影と暮らしていたということだ」
「え…?」
言ってる意味が全く理解出来ない。
しかも、普段誰よりも丁寧で礼儀をわきまえているハロルドの顔でそんな喋り方をされると、ブリジットは余計に意味が分からなくなった。
「そうだな、戸惑うのも無理はない。説明してやろう」
アレクシオが手を一振りすると割れたカップが元どおりになってテーブルに戻る。
そして長椅子に腰掛けたアレクシオの隣に強引に座らされ、ブリジットはアレクシオの話を聞くことになった。
◯
アレクシオは隣国の皇帝である、と同時に千年の時を生きている悪魔だ。
いつしか魔界を統べる王になり、たまに気まぐれのように人間界に降りては適当な人間を操って遊んでいる。
今は隣国の皇帝の器を借りている最中だ。
アレクシオがブリジットを見つけたのは、ブリジットがまだ小さな子供の頃だった。
長命の悪魔にとって、人間の年齢や見た目など関係ない。
その魂の美しさに惹かれ、必ず手に入れると決めた。それから、自分の影を実体化させ、ブリジットの公爵邸へと送り込んだのである。
「我の花嫁はブリジット、お前しかおらぬと決めている」
ハロルドだった顔をアレクシオに戻し、彼がうっとりと囁く。
その甘い声はブリジットの胸を震わせた。
「でも、そんなこと急に言われてもっ」
だがブリジットは、なんとか気力を振り絞って返事をする。
アレクシオが眉をひそめた。
「ほう、嫌か。なぜだ」
「なぜって…」
アレクシオと結婚すると、ヤンデレ監禁ルートまっしぐらだからだ。
しかも魔王というとんでもないオプションまでついた今、恐ろしくて絶対に承諾は出来ない。
「そうか、自由がなくなるのが嫌か」
「…え?!今私、声に出してなんて…」
「人間の考えていることなど簡単に見える」
「…!!」
ブリジットは絶句した。
例えば試験の日の朝や、大事なパーティに行く直前など、ブリジットがリラックスしたい時に作ってくれたものだ。
それを知っているなんて、目の前の男は一体何者なのか。
警戒心をあらわに逃げ出そうとするブリジットに、アレクシオは悠然と笑った。
「やっと気付いたか。もっと早いかと思っていたがな」
「どういう意味?!」
「まあ見ておれ」
そう言うや否や、アレクシオが自分の額をひと撫でする。
するとそこにいたのは、
「ハロルド?!」
アレクシオとは全く似ても似つかないハロルドだったのだ。
ブリジットは激しく混乱する。
「ハロルド…に変身したってこと?それでなにがしたいの?!」
「なんだ、分かっておらんかったか。ハロルドとは我の仮の姿だ。お前たちは実体化した我の影と暮らしていたということだ」
「え…?」
言ってる意味が全く理解出来ない。
しかも、普段誰よりも丁寧で礼儀をわきまえているハロルドの顔でそんな喋り方をされると、ブリジットは余計に意味が分からなくなった。
「そうだな、戸惑うのも無理はない。説明してやろう」
アレクシオが手を一振りすると割れたカップが元どおりになってテーブルに戻る。
そして長椅子に腰掛けたアレクシオの隣に強引に座らされ、ブリジットはアレクシオの話を聞くことになった。
◯
アレクシオは隣国の皇帝である、と同時に千年の時を生きている悪魔だ。
いつしか魔界を統べる王になり、たまに気まぐれのように人間界に降りては適当な人間を操って遊んでいる。
今は隣国の皇帝の器を借りている最中だ。
アレクシオがブリジットを見つけたのは、ブリジットがまだ小さな子供の頃だった。
長命の悪魔にとって、人間の年齢や見た目など関係ない。
その魂の美しさに惹かれ、必ず手に入れると決めた。それから、自分の影を実体化させ、ブリジットの公爵邸へと送り込んだのである。
「我の花嫁はブリジット、お前しかおらぬと決めている」
ハロルドだった顔をアレクシオに戻し、彼がうっとりと囁く。
その甘い声はブリジットの胸を震わせた。
「でも、そんなこと急に言われてもっ」
だがブリジットは、なんとか気力を振り絞って返事をする。
アレクシオが眉をひそめた。
「ほう、嫌か。なぜだ」
「なぜって…」
アレクシオと結婚すると、ヤンデレ監禁ルートまっしぐらだからだ。
しかも魔王というとんでもないオプションまでついた今、恐ろしくて絶対に承諾は出来ない。
「そうか、自由がなくなるのが嫌か」
「…え?!今私、声に出してなんて…」
「人間の考えていることなど簡単に見える」
「…!!」
ブリジットは絶句した。
15
お気に入りに追加
2,127
あなたにおすすめの小説
その国外追放、謹んでお受けします。悪役令嬢らしく退場して見せましょう。
ユズ
恋愛
乙女ゲームの世界に転生し、悪役令嬢になってしまったメリンダ。しかもその乙女ゲーム、少し変わっていて?断罪される運命を変えようとするも失敗。卒業パーティーで冤罪を着せられ国外追放を言い渡される。それでも、やっぱり想い人の前では美しくありたい!
…確かにそうは思ったけど、こんな展開は知らないのですが!?
*小説家になろう様でも投稿しています
悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。
白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。
筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。
ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。
王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?
婚約破棄された悪役令嬢は王子様に溺愛される
白雪みなと
恋愛
「彼女ができたから婚約破棄させてくれ」正式な結婚まであと二年というある日、婚約破棄から告げられたのは婚約破棄だった。だけど、なぜか数時間後に王子から溺愛されて!?
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
追放済みの悪役令嬢に何故か元婚約者が求婚してきた。
見丘ユタ
恋愛
某有名乙女ゲームの悪役令嬢、イザベラに転生した主人公は、断罪イベントも終わり追放先で慎ましく暮らしていた。
そこへ元婚約者、クロードがやって来てイザベラに求婚したのだった。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました! でもそこはすでに断罪後の世界でした
ひなクラゲ
恋愛
突然ですが私は転生者…
ここは乙女ゲームの世界
そして私は悪役令嬢でした…
出来ればこんな時に思い出したくなかった
だってここは全てが終わった世界…
悪役令嬢が断罪された後の世界なんですもの……
転生したら悪役令嬢を断罪・婚約破棄して後でザマァされる乗り換え王子だったので、バッドエンド回避のため田舎貴族の令嬢に求婚してみた
古銀貨
恋愛
社畜から自分が作った乙ゲーの登場人物、「ヒロインに乗り換えるため悪役令嬢を断罪・婚約破棄して、後でザマァされる王子」に転生してしまった“僕”。
待ち構えているバッドエンドを回避し静かな暮らしを手に入れるため、二人とも選ばず適当な田舎貴族の令嬢に求婚したら、まさかのガチ恋に発展してしまった!?
まずは交換日記から始める、二股乗り換え王子×田舎貴族令嬢の純なラブコメディです。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
アリエール
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる