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知るか知らぬか(4)
しおりを挟むたった一ヶ月ぶりだというのに、奏斗の家はとてつもなく懐かしい感じがした。
雪哉はさきにリビングに入り、奏斗が後から入ってくる。
久しぶりの奏斗の家のソファにぽすんと座り、こてんと寝っ転がる。
そこから天井を見上げていると、そこからにゅっと奏斗の顔が現れた。
「お前がそこにいるの、久しぶりな感じするな」
奏斗がそう言って笑う。
雪哉は瞬時に、がばっと起き上がった。
「あ? いきなりどうしたんだよ」
コートを脱ぎながら、雪哉に目をやる奏斗。
もうわかった。奏斗がいつもこの落ち着きっぷりなのはもうこの際仕方ない。白鳥なんかすごいがっつきだったというのに、これが奏斗だ。
でも、もう知っている。奏斗って、俺に出て行かれることを気にして頻繁に位置情報見て結局雪哉を探しにくるほどなんだぞ。
コートを片付けて、次はきっと着替えに部屋に行ってしまうだろう奏斗。
その元に駆け寄り、背中に抱きついてやった。
「いだっ……なに、雪哉」
……なに、じゃねえよ。
首だけで振り向いた奏斗と目が合う。
「ベッド、連れてけ」
「いきなりかよ。またお前はそういう……」
そっちこそ、またその反応。流石にこれで奏斗もがっつき間違いなしと思ったのに、まだ渋るかこいつは。
したいのは、いつも雪哉だけだ。
「……そんなに嫌かよ」
不満げに漏れ出た言葉。奏斗が黙り込んだのがわかった。
正直、そろそろ雪哉だって拒否は堪える。
だって、久しぶりに会って、それもお前がわざわざ連れ帰ってきたんだぞ。ここは何かしらする流れだろ。
……チッ、まあでも、今日くらいは大人しくしてやってもいい。全く寝てないだろうし。
そう思って抱きついた手を離してやり、自分の部屋へ行こうとしたところで、
「雪哉」
「え……おいっ」
さっきまでその体に巻きついていた腕を引っ張られ、あっという間に奏斗の胸にぽすんと収まってしまった。
「ちょ……!」
さっき拒否したくせにどういうつもりだ。奏斗がぎゅうときついくらいに抱きしめてくる。
でも油断するとだめだ。これはきっと再会のハグみたいなもんに決まっている。
「……お前さ、白鳥とそういうことしてた?」
「は?」
顔は見えないが、ため息混じりに言ったのはわかった。
「セックスはするけど、俺からは別に……」
いつも盛るのは飼い主側であり、奏斗が今までにないパターンなだけである。たまにサービスでしてやることはあれど、ホイホイしてると思ってたなんて失礼なやつだ。
一度抱きしめられていた体が離れると、若干ながら呆れ顔の奏斗と目が合う。
「……ベッド行くか」
「え」
突然、奏斗の口から出てきたのは予想とは真逆の言葉だった。
……でも、それって。
落ち着いていた心臓が急に鳴り出す。
さっき一度抑えた欲望がさっきよりも断然ぐんと湧き上がってくる。
「でも、もう一回言うぞ。俺が飼い主だからっていう理由ならしない。お前がしたいなら、そう言え」
奏斗の綺麗な手が、そっと雪哉の頬に触れた。
雪哉を捉えるその鋭い瞳に一気に体が熱くなり、はく、と口が開く。
「俺が、してほしい……」
零れるように出てきた言葉。
このときばかりは、雪哉も素直になるしかなかった。
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