27 / 33
知るか知らぬか(1)
しおりを挟む「あの人とまだ連絡取るつもりかよ」
雪哉の質問には答えず、さっき部屋を出てから今に至るまで静かだった奏斗が当然のように横に並ぶ。
時間帯もあり、歩道の人通りは少ない。
「俺の勝手だ。もういいだろ」
努めてうざったそうに言い放ち、歩くスピードを速める。
が、その時、奏斗にがしりと手首を掴まれた。
「……な、に」
掴まれる手には結構な力が込められていて少し痛い。
奏斗がため息をつく。
「……わかんないのかよ」
「は? 何がだよ。ていうか手離せ」
痛い、と言うと渋々力を緩められただけで、離されはしなかった。
「何で俺がここまで来たか、本当にわかんねえの?」
「……わかってる」
そんなの、予想がつく。
予想がつくから聞かなかっただけで、わかっている。
なのに、奏斗は「いや、わかってねえ」と呟いた。
「うちに帰ってこいよ」
雪哉より少し背の高い奏斗が、上からさらりとそんなことを言う。
ぐっと言葉に詰まって黙り込んだ。
……言うと、思った。
見つけてしまっても放っておけばいい。でも奏斗はそれができない性質なのだ。だから初めてハッテン場で会った時のように、なんだかんだで助けてしまう。
今回もそれだ。ここまで来てくれたことも、怒ってくれたのも、こうしてまた家に引き取ろうとしているのも、全部それ。
だからこうして、これ以上はないよう奏斗ではない別のところへ行ってやろうとしているのに。
「いい、そんなことまでしたくねえだろ」
奏斗を振り切るように歩き出すが、簡単に奏斗もついてくる。
「は? したくなかったら言わねえよ」
「だって、お前は俺に興味ないんだろ。何したって、お前から求めたことなんてなかったくせに……!」
奏斗のその言葉につい立ち止まり、勢いで言うつもりのなかった思いをぶつけてしまう。
言った後で、かあっと顔を赤くした。何言ってんだ、こんな道のど真ん中で。
「……とりあえず俺の車まで行くぞ。そこに停めてあるから」
掴まれていたのは手首だったが、今度は手をしっかり握られる。
「雪哉、いいな?」
手を繋がれて、覗き込まれて、
「……勝手にしろ、バカ」
こいつが相手だと、簡単に頷いてしまう。
雪哉を引く手からは、まるで逃がさないという意思が伝わってくるようだ。
車は白鳥の家からは少し離れた駐車場に止められており、助手席のドア前まできっちり連れてこられた。奏斗が、「乗って」とそのドアを開ける。
渋々乗り込むと、パタンと閉められる。
久しぶりの雪哉の車だと思いつつ、なんとなく落ち着かない気持ちになる。
すぐに前から回って奏斗も運転席に乗り込んできて、パタンとドアの閉まる音がした。
「……で、なんだっけ?」
若干の沈黙。
奏斗が破ると、ぎくりとした。
「俺がお前に興味ない、だっけ」
「……忘れろ」
外方を向いて言うが、奏斗は見逃してくれないらしい、
「もしかして、もっと構ってほしかったのか」
などと言い出した。
「は、ちげえ、お前が、もっと俺を……」
はっきり否定したいのに、どんどん語尾は弱まっていく。
「大体、もし偶然白鳥を見かけなかったらずっと来なかったんだろうし……」
違う、こんなことを言いたいわけではない。雪哉が危険な目にあってると思って乗り込んできてくれただけで十分助かった。
だけど、逆に言えば、その偶然がなければ今日来ていない。雪哉を再び引き取ろうともならなかった。それは、雪哉が出て行っても問題なかったということだ。
……ああ、もう、だから……
未だ目を合わせようとしない雪哉。
すると、顔を片手で掴まれ、ぐいと無理やりそちらに向かされた。むにゅ、と頬が寄せられる。
「本当に素直じゃねえな、お前は」
あの、少し吊り上がった雪哉の好きな目が至近距離で雪哉を捉えた。
冷たげな瞳だが、そこにはしっかりあったかいものがあるのを雪哉は知っている。
「でも悪い。俺も一つだけ嘘ついた」
ぱっと顔から手を離される。
いきなりの接近に反応した心臓を落ち着かせながら、「嘘?」と奏斗の言葉を拾う。
「白鳥に会ったのは偶然だけど偶然じゃねえ」
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる