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見返すか見守られるか(7)
しおりを挟む「──つまり、前に家に置いてもらってた人ってこと?」
雪哉と奏斗はパンを片手に、さながら作戦会議のようにダイニングテーブルで向き合っていた。
「一緒に住んでたわけじゃねえ、あいつのマンションの部屋もらってそこに一人で住んでた。あいつ既婚者だし」
「突っ込む気も失せるわ。お前、すごいやつに囲われてたんだな」
パンを齧りながら淡々と言う奏斗。
「……ああ、あいつが偉いから?」
「有名だろ、若くしてあの時計会社の取締役にって」
たしかに、その手の雑誌に載っているを見たことがあった。彼はまだ30代前半だが有名時計ブランドの代表取締役としてその名を馳せている。男らしい美形のせいか女性からの人気も高い。
「広告に起用するモデルにすごいこだわりを持ってるとかいう」
「くわしいな」
「……なんかの雑誌で見た。お前の方がくわしいだろ」
「さあ、仕事のことは全然話さなかった。あいつ忙しいし、会ってもセックスばっかりしてたしな」
普通に言い放った後でハッとなる。別に気にすることはないのに、なぜか言ってしまった感があった。
まあ、でも奏斗のことである。どうせ気にしてない。案の定、「……ほいほいそういうこと言うなよ」とせいぜい軽く注意するだけだった。
そして、少し考えてから、
「要は、あいつはお前を連れ戻したいんだろ。どうするんだ?」
と肘をついて本題を切り出した。
今日こそ探ってきただけだったが、雪哉を連れ戻すために探していたのはほぼ間違いないだろう。
「……わかんねーよ」
白鳥はきっとまた来る。
わざわざ本人自ら訪ねてきて身分を隠すこともなく名乗ったということは、ここに雪哉がいると確信していたからだろう。お前は俺から逃げられないとでも言いたいのか。
白鳥は執念深い男であった。ある時気まぐれで入ったバーで雪哉を見つけ、何度も口説いてくるようになった。やがて雪哉が他人の家を転々としている質だと知ると、知らぬ間に当時の飼い主を金で懐柔した挙句、雪哉を手に入れた。
雪哉に対する感情はダントツで重すぎるが、生活レベルは一番だったと言える。
「……まあ、とにかく。俺がいない間に来ても絶対開けるなよ」
「わかってるわ」
自宅で修羅場などごめんなのは当たり前だ。
パンを食べ終え立ち上がった奏斗を見て、ふと、ここで白鳥のところに戻ると言ったら、こいつはどんな顔をするだろうと思った。
いや、あっさり了承するだろうな。
……ああ、想像だけでもむかつく。
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