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見返すか見守られるか(6)
しおりを挟む奏斗と初めてキスをした翌日。
雪哉は珍しく奏斗より早く起きて、優雅にリビングでコーヒーを飲んでいた。
昨日のことを思い出して、雪哉は内心ほくそ笑む。やつめ、ついに自分に落とされてしまったのではないかと。存分に高笑いした気分であった。
もちろん、雪哉もあほではない。奏斗が自分に押されてついキスを許してしまったのはわかっている。だけどこれはいい線をいっているに違いない。
やはりこれはヒモとしての意地、自分との戦いなのだ。だってこんなにも満たされている。きっと勝ちへの方向性が見えてきているからだ。
「おはよう」
寝室からまだ眠そうな顔で出てきた奏斗。
「おはよ」
「朝ごはん食べた? 昨日買ってきたパンならあるけど」
なんて言いながらキッチンの棚を覗きに行く。
……まあ、想像以上に普通だ。
そりゃあ、こいつのことだ。大した反応はよこさないだろうとは思っていた。それにキスのひとつやふたつ騒ぐほどの歳でもない。なんなら、すでにもっとすごいことしている。でも、この俺としたんだぞ。それも、お前が拒否し続けたこの俺と!
先ほどふんぞりかえっていた気持ちは、少しずつ萎んでいく。……チッ、おもしろくねえ。
「まだ食べてないから、なんかつくって」
「あ? 今パンあるって言ったよな」
「クリームとか果物が乗っててチョコシロップがかかってるふわふわの高級フレンチトーストがいい」
「そんな材料ねーよ。自分で買いに行ってこい」
あったらつくるのかよ。八つ当たりで言ったつもりが微妙にかわされてしまった。
仕方なしにパンを取りに行こうとする。
が、そんな時に家のインターホンが鳴った。
奏斗がいち早く反応して、リビング内にあるインターホンのモニターを確認する。
しかし、すぐに応じず見ているだけなので、どうしたのかと声をかけようとすると奏斗が人差し指を自身の唇に当て、喋るなという風に伝えてきた。
なんだ? と奏斗の後ろに回ってモニターを覗こうとしたところで、奏斗がボタンを押して話し出す。
「どちら様でしょうか?」
どうやら、知らない人間だったようだ。
モニターには一階のエントランスの様子が映し出されている。雪哉のこの角度からは、はっきりと顔まではわからないが、男だということだけは認識できた。
しかし、その男の最初の言葉に耳を疑うことになる。
『私、白鳥と申しますが』
静かな落ち着いた声、優雅な口調。
聞き覚えがあるなんてものではなかった。最後に顔を合わせた時は例外であのヒステリック妻を目の前にしどろもどろしていたが、今その面影は全くない、普段見せているどこか威圧感のある態度。
まさに、数ヶ月前までよく雪哉の名前を呼んでいた、前の飼い主であった。
一度前に出て、近くでモニターをよく見てみると、間違いない。白鳥だ。
とりあえず奏斗に伝えるべきかと思ったが、たぶんここは話さない方がいいだろう。説明は後にして、ここは奏斗に追い返してもらうことにした。再び後ろに下がる。
「何かご用でしょうか」
『いえ、少しお聞きしたいことがありまして。……雪哉は、そちらにいますでしょうか』
やっぱり。ていうか、まだ探していたのか。こいつも探偵でも雇ってここを特定したとでも言うのか。雪哉は冷静な頭で考える。
「はあ、どなたでしょうか。うちは一人暮らしですが」
奏斗が絶妙な感じで嘘をつく。
雪哉の名前が出たあたりで少し察したようだ。
『そうですか。お時間取らせてしまいすみません。失礼いたします』
が、もう少し食い下がると思いきや、白鳥はそのままやけにあっさりと帰ってしまった。
奏斗は画面から見えなくなるまで待ってから、ようやくモニターを切る。
若干の息詰まる時間を終え、奏斗は軽く息を吐くと徐にこちらへ顔を向けた。
「……で、誰? あの人」
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