野うさぎは夜に寝床を見つけるか

黒崎サトウ

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大当たりか大外れか(3)

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 外でぶらついているうちに、すっかり日は落ちてしまった。

 白鳥のことは上手く撒けたらしいからいいとして、今夜の寝床がない。頬もまだ痛いし。

 この俺が野宿? 嘘だろ。しかも今は十二月。凍え死ぬ。白鳥に与えられたコートだが、羽織ってきて正解だった。

 適当に近くの公園に入って、ベンチに腰を下ろす。

 男を捕まえるより、女を捕まえる方が早いか……。

 と今夜の行く末を真面目に考え始めたところで、いつの間にか近くにいたらしい、四十代くらいの男が話しかけてきた。

「誰か待ってる?」

 ……なるほど。

 すぐその目を見てわかった。さっきまでは気づかなかったけど、ここはそういう場だってか。

 金持ちではなさそうだ。それに、いけおじならいいけど、きもおじだ。でもまあ、一晩くらいならいいかもしれない。宿無しよりよりはマシだろうし手間が省ける。

「野外プレイは嫌なんだけど。あと金もねえよ、俺」

「もちろん、私がホテル代を出そう」

 それさえクリアすれば誘いを受けてくれると理解したのか、興奮した様子で図々しく雪哉の腕を掴む。

 ……やっぱり、なんか嫌だな。

 渋々ベンチから立ち上がったが、はたと立ち止まる。汗ばんだ手で雪哉の手首を引く男が、どうしたんだい、と振り向く。やっぱりやめる────そう言おうとしたところで、

「大丈夫ですか?」

 すっと澄んだ、でも落ち着きのある低い声が、後ろからはっきり届いた。

「え?」

 きもおじの方が先に反応した。何をそんなに驚くことがあるのか。

 しかし、今日はよく話しかけられる日だな。いや、ここがハッテン場だからか。

 でもこのきもおじよりいい男なら、そっちに行ってやってもいい。そう思って振り向いた。



 えっ────

 顔、もとい全体を目に収めた瞬間、驚くと同時に喜びが湧いてきた。

 期待が当たった。その男は大変イケメンだったのだ。

「何かあったんですか」

 そのイケメンが、掴まれた雪哉の手首を見て静かに言った。

「あ、いいや、そんなことはない。な、君?」

 きもおじがうろたえながら言って、雪哉が肯定するのを待つ。

 でも、そんなことはどうでもよかった。

 すらりと高い背に、痛みのない黒髪、形のいい唇。少しばかり吊り上がった目が男の色っぽい印象を与えるが、いやらしさは全くなく自然で、それがとても目を引いた。

 そして、身なりがいい、雪哉は直感で金の匂いを感じ取った。自分と同じくらいの年齢だろうけど、これは上々。

 それに、その冷めた目の奥を見れば、本当にトラブルを心配しているわけではないのがすぐわかった。──そうか、この男も夜の相手を探しているのか。それなら都合がいい。

「俺、今日泊まるところ探してるんだけど」

 目を見て告げる。

「え、ちょ、私は」

 当然だが、きもおじがさらに狼狽えた。悪いな、きもおじもただ出会いを探しているだけなのに。だけど俺は俺の方が大事だから、より期待値の高い方を選ぶに決まっている。

「いいよ。こっちきて」

 ほら、きた。

「ごめんおじさん、また縁があったら会おうな」
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