71 / 75
そばにいる方法(11)
しおりを挟む外はもうすっかり暗い。
満足するまで交じりあったあと、二人はベッドから一歩も動けないでいた。
「……今日の千秋はすごかった」
「や、やめてくれません、そういう言い方」
恥ずかしいから。
寝たまま背を向けると、頭の下にある腕ががばっと巻きついてきた。
「な、なに……」
「んー?幸せだなって」
「……いきなり」
「いきなりじゃねえよ。千秋が恋人なのも、好きって言ってくれたのも、こうして一緒にいられるのも」
表情は見えない。けど、優しい顔をしてるのだろう。
「千秋に好きって言われなくても正直いいと思ってたけど」
なんだと?
「でも、言われたらものすげえ嬉しくて。やばい幸せってなった」
「そんなことだけで、ですか?」
「なんだよ、悪いか」
千秋でなければ、もっと好き好き言ってくれる人はいっぱいいるはずだ。それに、恋人なら珍しいことでもないはずで。
でも、この人は俺だから、と言う。
「俺は再会したとき、柳瀬さんのこと嫌いだって思ってました」
「あーうん、……そのことは本当に悪かった」
英司はばつ悪そうな声で笑った。
「でも、それは逆に、ずっと柳瀬さんのことが頭のどこかにあって、忘れたくなくて……」
千秋は話し始める。
「だから、俺、色々と面倒臭いけど……柳瀬さんのこと、本当に好きです」
これで顔を見て言えてたら、満点なんだろうけど。でも今はこれだけ。とにかく、自分の気持ちを英司に伝えたいと思った。
「……千秋、お前は本当に最高だ。俺も好きだよ、本当に、誰よりも」
これでもかと抱きしめられて、喜びを発散するようにぐわんぐわん揺さぶられる。
ここまではしゃいでる英司は見たことがなかったので、少しあっけに取られる。さっき勢いで言うよりも、こうやって改めて言うのがよかったか。
好きの言い合いなんて千秋には恥ずかしいけど、自分も嬉しくなって、思わず笑みがこぼれた。それも見えていないと思ったのに、後ろからしっかり見られてたらしい。
「……俺、千秋の笑顔も好きなんだよな」
「見ないでください……」
「千秋ちゃん可愛いー」
顔を伏せるとからかうように言われた。
英司は千秋の顔を向かせようとして、千秋は全力で抵抗する、なんて子どもみたいなじゃれ合いが始まる。
「こっち向いて、千秋」
しばらく攻防が続いた後、そう優しく言われると、結局千秋はそろそろと顔を向けるしかなった。たぶん、千秋はこの声に弱い。
体ごと向かい合うと、ふいに軽いキスを落とされる。
好きだ。その声も、このキスも。この人が好きだ。
何度もキスをしたのに、また飽きずにキスをした。ただ、お互いが満足いくまで、ずっと、ずっと。
抱き合って一緒に眠りについたその夜、夢を見た。
中学生の時の帰り道、彼の隣を歩く夢を。ただひたすら、彼が隣にいるその道を。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【R18+BL】空に月が輝く時
hosimure
BL
仕事が終わり、アパートへ戻ると、部屋の扉の前に誰かがいた。
そこにいたのは8年前、俺を最悪な形でフッた兄貴の親友だった。
告白した俺に、「大キライだ」と言っておいて、今更何の用なんだか…。
★BL小説&R18です。
聖女よ、我に血を捧げよ 〜異世界に召喚されて望まれたのは、生贄のキスでした〜
長月京子
恋愛
マスティア王国に来て、もうどのくらい経ったのだろう。
ミアを召喚したのは、銀髪紫眼の美貌を持った男――シルファ。
彼に振り回されながら、元の世界に帰してくれるという約束を信じている。
ある日、具合が悪そうな様子で帰宅したシルファに襲いかかられたミア。偶然の天罰に救われたけれど、その時に見た真紅に染まったシルファの瞳が気にかかる。
王直轄の外部機関、呪術対策局の局長でもあるシルファは、魔女への嫌悪と崇拝を解体することが役割。
いったい彼は何のために、自分を召喚したのだろう。
観念しようね、レモンくん
天埜鳩愛
BL
短編・22話で完結です バスケ部に所属するDKトリオ、溺愛双子兄弟×年下の従弟のキュンドキBLです
🍋あらすじ🍋
バスケ部員の麗紋(れもん)は高校一年生。
美形双子の碧(あお)と翠(みどり)に従兄として過剰なお世話をやかれ続けてきた。
共に通う高校の球技大会で従兄たちのクラスと激突!
自立と引き換えに従兄たちから提示されたちょっと困っちゃう
「とあること」を賭けて彼らと勝負を行いことに。
麗紋「絶対無理、絶対あの約束だけはむりむりむり!!!!」
賭けに負けたら大変なことに!!!
奮闘する麗紋に余裕の笑みを浮かべた双子は揺さぶりをかけてくる。
「れーちゃん、観念しようね?」
『双子の愛 溺愛双子攻アンソロジー』寄稿作品(2022年2月~2023年3月)です。
「恋の熱」-義理の弟×兄-
悠里
BL
親の再婚で兄弟になるかもしれない、初顔合わせの日。
兄:楓 弟:響也
お互い目が離せなくなる。
再婚して同居、微妙な距離感で過ごしている中。
両親不在のある夏の日。
響也が楓に、ある提案をする。
弟&年下攻めです(^^。
楓サイドは「#蝉の音書き出し企画」に参加させ頂きました。
セミの鳴き声って、ジリジリした焦燥感がある気がするので。
ジリジリした熱い感じで✨
楽しんでいただけますように。
(表紙のイラストは、ミカスケさまのフリー素材よりお借りしています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる