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そばにいる方法(4)
しおりを挟む湊は、千秋と英司のことを同じ大学で仲のいい隣人だと思っている。
しかし、英司は中学のとき告白された時点で千秋と付き合っていることを言っているのだ。
しかし今、それが目の前いる千秋だとバレていないのは、たぶん英司が名前までは言わなかったからだろう。それに顔でバレてないのは、覚えてないか、そもそも知らないかだ。もしかしたら、男だということも知らないかもしれない。
……それ、ほぼ言ってないことになるんじゃ?
英司はというと、前より千秋の家にいることが増えた。
「千秋」
「はい?」
常にちょっとバツ悪そうなのが千秋は引っかかる。気になるは気になるけど、疑っているわけではない。そう気を使われると、千秋がものすごく気に病んでいるみたいじゃないか。
「キスしていい?」
パソコンで課題をしていると、後ろから抱きしめてきていた英司が聞いてきた。
「……ん」
キーボードを叩く手を止めて、頷きながら俯いた。いつもみたいに抵抗したら、すぐ引き下がられてしまいそうな予感がしたからだ。
「こっち向いて」
「ん」
首を少し捻ると、英司と目が合う。すぐに一度軽いのをされたが、しばらく伺うようなキスが続く。じれったい、千秋はそう思って口をわずかに開くと、ようやく英司の舌が入り込んできた。
「ん……」
英司とのキスは気持ちいい。もっと深く交わりたいと思ってその先へ進もうとすると、やっぱりストップをかけられた。
そして、こう言うのだ。
「そろそろ白石が帰ってくるから」
これがずっと続いている。
あからさまに不機嫌な顔をしてしまうと、英司を困らせるしと素直に黙るしかない。そこまでしたかったのか、とも思われたくない。
……いや、内心そうだ。大いに不満だ。
英司は、千秋の声を聞かれたくないとか言う。でも、あいつほっといたら寝ないから、とも言うのはどうなのか。
じゃあ、毎日寝かせているのか?それに、寝不足とか、英司が他人のことを言えたタチではない。
とはいえ、寝ないというのは本当らしく、それは来年に迫る看護師国家試験に向けての勉強があるかららしい。
しかし、湊がいるうちは泊まればいいのに、と言えないのは、英司も自分の空間で集中して勉強する人だからだ。
医療関係の勉強や試験の、本当のところを千秋は知らない。どれも見た部分だけ。
でも、英司は医者を目指していて当然わかる。ということは、湊も英司のことを、千秋より理解できるということだ。二人は、お互いをよく理解できる。
英司の勉強の邪魔になることはしたくないというのは、揺るぎない思いだが、どうしようもない不安が募っていく。
その日はバイトで、当然湊とも顔を合わせる。そして話題は、自然と英司のことに。
休憩室で、湊が嬉しそうに言った。
「英司って優しいよね。本当に」
「え、ああ、そうですね……」
なんでそう思ったんですか?なんて聞いたら流石に驚かれるだろう。
すると、さっきまで嬉しそうな笑顔だったのが今度は照れたような笑顔になった。
「実は、さ……」
そして、言いづらそうにもごもごし出す。
……あ、嫌な予感。
「俺、英司のこと好きなんだ」
高梨くんには言いたくて、と付け加える。そして照れ隠しするように、実は中学の頃一回振られたんだけど、久しぶりに会ったらまた──と捲し立てた。
湊は純粋に恋愛をしてるだけだ。何も悪くない。でも、この腹の奥の、気持ち悪い感覚はなんだ。
「ごめん、いきなり……。俺、実はゲイなんだ」
「あ、いや、そうじゃなくて」
千秋が何も返せずいると、引いたんじゃないかと思われたらしい。今さら驚きはしない、急いで否定した。
よかった、と湊が安心したような笑顔を見せる。
反対に、嫌な予感が当たって千秋の心臓はどくどくと嫌な音を立てている。
ここまでくると、千秋が何も言わないのがフェアじゃないような気がした。これ以上黙っているのは、千秋としても辛い。
でも、それでも言わないつもりだった。なぜなら、今回ばかりは英司が言おうとしてないからだ。たぶん、千秋をトラブルに巻き込みたくないからだろう。
一瞬開きかけた口を閉じて、ぎゅっと拳を握る。
不安や不満はいつの間にか、自分で把握できていないほど溜まっていた。
これが何なのか、わかっている。
──柳瀬さんをとられたくない、ただの嫉妬だ。
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