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そばにいる方法(2)
しおりを挟む火曜日、千秋はいつも通り拓也と大学で昼食をとっていた。
「そういや弁当になった理由、ちゃんと聞けてなかったけど……もしかして」
名探偵さながらの考えるポーズをとりながら、拓也は千秋の弁当を凝視した。
「う、今頃つっこむのか、それ」
「だって目に付いたんだもん」
「で?それ先輩と関係あんの?」
ニヤニヤと下世話な感じに聞いてくる。
拓也に英司と付き合っていることを打ち明けて以来、こうした話をしたがる。
いや、今まで千秋にその手の話題がなさすぎてできなかっただけか。しかし、恋人がいるとわかれば拓也は興味津々だった。
「……柳瀬さんの分つくるから、俺も弁当に変えただけ」
聞かれて恥ずかしい思いはあれど、なぜか気が楽になるのが不思議だ。きっと、拓也が普通に受けとめているからだろう。
「ていうか、千秋の飯毎日食えるって普通に羨ましいな」
たしかに、弁当をつくる宣言をしたとき英司も「俺は千秋の飯食えて、いいことだらけだけど」みたいなことを言っていた。
「ならお前にもつくってやろうか?」
「いや……あの先輩怒りそうだし。たまにでよろしく」
「たまにはつくれってことかよ」
だって美味いんだもん、と子どもみたいに口を尖らせた。その顔が面白くて、ぷ、と思わず吹き出す。
「あー、もう十一月になるのか」
食堂にあるメニュー用のカレンダーを見て、拓也が呟いた。
「どうしたんだよ急に」
「いや、冬休み終わって、春休み終わって、そしたら三年だろ?実習も始まるし、いよいよだなって」
「ああ、たしかに。もうそんなんか」
「さすがに将来のことは真剣にやらねえと」
そうだな、と同意する。
千秋は中学教師志望であり、三年から実習がある。ちなみに拓也も同じだ。
ふと、英司を思い出した。医学科は六年制、彼が医者を目指して日々勉強しているのは周知の事実だ。
湊は看護学校に行っていると言ってた。頑張ってるのが知り合って少しでもわかる。三年なら、卒業も近いのかもしれない。
色々な道がある。
千秋には教師になるという明確な志望があり、手を抜くことはないが、もっと頑張れるかもしれない。英司や湊を見てると、そう思えた。
その日のバイトはいつもに増して忙しく、休憩時間にはへとへとになっていた。
どうやら、新しいバイトが入ったというのを聞きつけて多くの馴染み客が訪れてきたのだ。
その新人バイトである湊はずっと話しかけられっぱなしだったが、疲れる素振りもなく全員に柔和な対応していた。
湊はバイト経験が多いのか、千秋のバイトがない日もあったがすでにほぼなんでもできるようになっていた。
それに、あの穏やかで愛想のいい態度のおかげで、お客さんからの評判がとてもいい。
湊はほぼ毎日バイトを入れていた。何か事情があるのはわかっているが、かなり忙しそうにしている姿は英司に重なって少し心配になった。
千秋は休憩室で、英司に今日は遅くなりそうだと連絡を入れておいた。店長は帰っていいと言うだろうが、この様子だと夜中まで忙しいのが続くだろう。
いつも世話になってるこの店が賑わうのはいいことであり、千秋も力になれるならそうしたい。
すぐに、マナーモードにした携帯の画面が音を鳴らさずにぱっと明るくなる。英司からの返信、『じゃあ迎えに行く』とのことらしい。
ええっと思って、『いつ終わるかわからないんで』と返すと『じゃあ終わったら連絡して』と秒で返事がくる。
本当にいいのに、嬉しいけど夜遅いし寝てくれと遠慮心から思う。彼はただでさえ睡眠時間が少ない。
なんて返して迎えに来させないようにしようかと考えていたら、ガチャと休憩室の扉が開いてそちらに目を向けた。
「お疲れ、高梨くん」
「お疲れ様です。お客さん、大丈夫でしたか?」
「うん、みんな気さくでいい人たちだね」
人と話すの好きなんだ、とペットボトルの水を飲みながら楽しそうに湊は言った。
「じゃあ、あともう少しですけど、がんばりましょう」
「でも高梨くん、今日はもう上がりじゃ……」
「多分、今日一人で回すのは大変だと思うんで、手伝わせてください」
「高梨くん……。楽しいけど、実は高梨くんが帰ったあと大丈夫か心配だったんだ。ありがとう」
困ったような、照れたような笑みを湊は浮かべた。
それから、千秋がいたらゆっくり休めないだろうと思い、先に戻ると言って休憩室を後にした。
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